心理職にとって心理統計学を勉強するメリットとは?

公認心理師試験に向けてそろそろ勉強を開始された方が多いのではないかと思います。

そこで今回は心理職にとって心理統計学を勉強するメリットを考えてみたいと思います。

公認心理師カリキュラム等検討会によって示された報告書において、下記のように公認心理師が資格取得後も自己研鑽に励むことを期待されていることはご存知でしょうか?もちろん、「今さら言われることではなく、自己研鑽は専門家として当然の責務である」とお考えの心理職の方も多いかと思います。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000169346.pdf

2.公認心理師に求められる役割、知識及び技術について
<活動する分野を問わず求められるもの>

<略>

○ 公認心理師の資格取得後も自ら研鑽を継続して積むことができること。

その自己研鑽の方法としては、スーパービジョンを受ける、研修会に出席するといったことも考えられますが、心理学領域、医学領域の学術論文を読んで心理療法に関する最新のエビデンスを得ることも考えられます。かつては学術論文は大学の図書館でないと閲覧するのが難しい状況でしたが、最近はWEB上で論文を公開している学術雑誌が増えており、多くの論文を無料で閲覧することが出来るようになっています。

たとえば、”PLOSONE”誌に2015年に発表されたRichmondらによる非特異型腰痛に対する認知行動療法の効果を検討したシステマティックレビュー論文を見てみましょう。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4526658/

システマティックレビューとは、あるリサーチクエスチョンについて過去行われた複数の研究の結果を統合して一定の結論を得る手続きを言います。過去行われた複数の研究の結果指標(相関係数、効果量等)を統合するメタアナリシスという手続きが含まれることが一般的です。上記のRichmondらの研究では、非特異型腰痛に対して認知行動療法がどの程度効果があると言えるのかについて結論が得られています。

論文を少し読んでみると、論文の冒頭にはAbstract(要約)があり、その後、Objectives(目的)、Methods(方法)と進んで行きます。

randomised controlled trials(RCTs)、Standardised mean differences(SMD)、95% confidence intervals、Pooled effect sizes、random-effects modelといった用語が出てきますが、馴染みがある方は少ないのではないでしょうか? 95% confidence intervalは95%信頼区間だと聞けば、「ああ、何となく知っている」と思われる方が多いかもしれません。

実は、上記の用語は、システマティックレビュー論文を理解する上では必須の用語ですが、一般的な学部での心理統計学の講義では扱われないか、発展的な内容として終盤で軽く扱われることが多い内容と思われます。また、システマティックレビューという手法は、心理学分野ではここ20年ほどで普及した手法のため、10年以上前は大学院の心理統計学の講義であっても扱われることが少なかったのではないかと思います。しかし、現在では心理療法の評価は無作為化比較試験(RCT)やそれらを統合したシステマティックレビューによって行われるのが世界標準となっています。

最近はシステマティックレビューを解説した日本語の教科書も少しずつ出版されるようになっており(※)、それらを読むことで上記用語を理解することが可能と考えられます。ただし、一読して頂ければ分かりますが、平均値、分散、標準偏差、仮説検定といった基礎的な心理統計学の内容の理解なしには理解することが難しい内容です。逆に言えば、心理統計学の基礎を身に付けることは、そのような最先端の研究成果を理解する上での基礎力につながると言えると思います。

※山田剛史・井上俊哉(2012)「メタ分析入門: 心理・教育研究の系統的レビューのために」、南風原朝和(2014)「続・心理統計学の基礎–統合的理解を広げ深める (有斐閣アルマ)」の2冊を例に挙げておきます。

心理統計学が公認心理師の試験範囲と聞いて、学生時代に「t検定、F検定、相関係数、分散分析、多重比較、信頼性、妥当性…..」とよく分からないまま丸暗記した苦い過去が蘇る方も中にはいらっしゃるかもしれません。そういった方も、今回の公認心理師試験の機会を、心理職としてレベルアップするために心理統計学の学び直しの機会を得たと積極的に捉えてみては如何でしょうか?

次回以降、数回に分けて、心理統計学を勉強する上でつまずきがちなポイントとその攻略法について解説してみたいと思います。

以 上

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