3年目以降のストレスチェックベンダー見直しのポイント

はじめに

現在3年目のストレスチェック実施を終え、集団分析結果の分析や施策の検討を行っている企業様が多いと思います。今年でストレスチェック義務化3年目ということもあり、中には来年度に向けてストレスチェックベンダーの見直しを検討している企業様も存在するかもしれません。そこで、今回は、ストレスチェックベンダーの見直しのポイントについて述べたいと思います。

まず、ストレスチェックベンダーの提供する調査票、高ストレス者判定、集団分析手法といった一連の実施フローが法制度に対応していること、機微な個人情報を扱うことからストレスチェックをICTシステムで上で実施する場合にはセキュリティレベルの高いシステムであること、Pマーク取得等会社として個人情報保護体制が整っていること、医師の面接指導を提供できること、ストレスチェックのユーザーインターフェイスが分かりやすいこと、といった内容は当然に備えるものです。本稿では、それ以外の項目で、今後のストレスチェックベンダーを選定する際に考慮すべき点を3点以下に挙げたいと思います。

自社の比較対象となる適切なベンチマーク・統計を保有しているか?

自社のストレスチェック結果の位置づけを把握するためには、他社あるいは世の中一般のストレスチェック結果との相対比較が前提となります。

大半のストレスチェックベンダーは、自社で実施した他社分も含めたストレスチェック受検者のデータから導き出された、業種、年齢、企業規模といった属性別の、総合健康リスク、高ストレス者比率、あるいは仕事の量的負担、職場での対人関係などの職場環境要因の数値をさまざまな属性別に集計した数値をベンチマークとして保有しています。それらと自社のデータを比較することによって、自社の位置づけを把握します。

ここで注意したいのは、比較対象を、自社と企業規模、業種等が同じ集団とすることです。特に、企業規模や業種によって従業員の従業員のメンタルヘルス状況は如実に異なりますので、自社と企業規模や業種が類似したベンチマークを使用することが重要です。ストレスチェックベンダーによっては、顧客企業の規模や業種に著しい偏りが見られる場合があります。たとえば、顧客の大半が50~300名の中小企業、あるいは逆に1000名以上の大企業が大半といった場合もあります。事前にストレスチェックベンダーが保有するベンチマークの企業規模や業種の分布を聞いておくことで、自社が大企業であるのに顧客の大半が中小企業であるようなストレスチェックベンダーを選定しないことが重要です。

また、従業員の年齢によってメンタルへルス状況が異なることも分かっていますので、自社の年代別の結果を年代別のベンチマークと比較できることも重要です。ストレス度や総合健康リスク等を年齢別に集計すると、20代後半から30代前半にかけて結果が悪く、40代以降に良好になるという、「逆カーブ現象」が起こることが多く見られます。逆に、このパターンからずれている場合、たとえば、年代を追って結果が悪くなり続ける、年代による差がないといった傾向が得られた場合は何らかの特有の問題が発生している可能性がありますので、検討が必要です。

 

まとめると、「自社に対する適切な比較対象になり得るベンチマークを保有するストレスチェックベンダーを選定するべし」、ということになります。ここで、注意したいのは、受検者数が多いベンダーであっても、上記のようなベンチマークとして活用可能な統計データを整備していない企業も存在します。選定の際には、どのような属性で整備されたベンチマークを保有しているのか?、ベンチマークとの比較も踏まえたフィードバック、コンサルテーションを受けられるのかを確認しておくことが重要です。

また、ストレスチェックの結果を活用した職場環境改善を実施している企業様では改善の効果が出ているのか知りたいと考える企業様も存在するかと思います。その際の、比較対象としてなり得る経年変化に関するベンチマーク(たとえば、2016年度から2018年度で、製造業の総合健康リスクはどのような推移を示すのか等)が整備されているかも確認が必要となります。

2.根拠にもとづいた施策提案や効果測定の提案が可能か?

ストレスチェック制度においては、集団分析や職場環境改善が努力義務とされていることもあり、義務化前に比べるとメンタルへルス状況改善のための施策が実施されることが多くなっている印象を受けます。

全社的にメンタルへルス状況が悪い、メンタルへルス対策が手つかずであるといった企業様においては、新入社員向けのセルフケア研修、管理職向けのラインケア研修といった基本的な研修から始めることは有効と考えます。ただし、現状メンタルへルス状況が良好な企業様においては、一部の組織、属性においてメンタルへルス状況が悪く、当該組織や属性特有の問題が原因と目されることが多い印象です。そういった場合には、先述のような通り一遍の研修ではなく、医学や心理学分野での科学的根拠・知見を踏まえた、当該問題に効果が期待されるカスタムメードの施策を実施することが重要です。

また、メンタルへルス状況改善のための施策はやりっぱなしではなく、効果測定を行うことが重要です。企業様からは「職場環境改善のための予算を取りたいがなかなか取れない」、「メンタルへルスに対する経営層の理解がない」といった声を聞くことがありますが、それは、経営層や他部門の「予算の投資対効果が見えない」といった思いと表裏一体であることが多い印象です。

メンタルへルス状況改善のため実施した施策が短期的に効果が出るとは限りませんが、「結果が出る出ないに関わらず効果検証は行う」という姿勢が、経営層や他部門の有するメンタルへルス対策に対する不透明感を払拭することにつながる可能性があります。なお、施策が予算措置を伴うものではなくても、社員の稼働が発生するものであればコストが発生していることには変わりはありませんので、やはり効果測定を行うことが、経営層や他部門に対する説明責任を果たし信頼を得ることにつながると考えられます。

効果測定の具体的な方法ですが、たとえば、特定部署に対して研修を実施したのであれば、研修実施部署とそれ以外の部署でストレスチェック集団結果の前年度との差を比較するのは最低限必要です。

あるいは、新入社員に対するセルフケア研修を導入したのであれば、自社の20代の研修導入前から導入後のメンタルへルス状況の推移をベンチマークの20代の推移と比較することは最低限必要と考えられます。最近では、効果測定のための統計的な手法が普及しておりますので、そういった手法の適用を含めてストレスチェックベンダーに知恵を出してもらうのも良いと思います。少なくとも施策の提案と効果検証計画をセットで提案できるベンダーかどうかを確認することが必要と思います。

従業員のワークエンゲイジメント向上のための施策を提案できるか?

ストレスチェック義務化3年目を迎えて、大手・中堅企業を中心として、義務化を機に、メンタルへルス研修を導入・増加した、相談窓口を導入したという企業が多く存在し、一通りのストレス対策は一巡した感があります。また、働き方改革やハラスメント防止の機運の高まりによって、ストレスチェックの集団分析の結果の総合健康リスクは100を下回っているという企業様が大半となってきています。具体的なストレス要因を分析しても、単純な、上司の支援不足、ハラスメント、仕事の量の過多といったストレス要因は随分緩和されていると感じます。

一方で、従業員のワークエンゲイジメント(※)という観点からは、依然として課題を抱えている企業が多いと認識しています。たとえば、「ストレス状況については、全ての年代で問題ないが、ある特定の年代層で、ワークエンゲイジメントが低下している」、「若手社員で『仕事の意義』や『仕事に対する適性感』が悪い」といった事例があります。そのような場合は、従来の相談窓口や研修といったマイナスをゼロにする狭義のメンタルへルス施策よりも、1を10にするようなポジティブなアプローチ、人材開発、組織開発寄りのアプローチが重要になってきます。

※従業員がいきいき仕事をしている状態を表す概念。ワークエンゲイジメントが良好な従業員が仕事のパフォーマンスが高いことが知られている。

また、従業員のワークエンゲイジメントが良好でない組織は、採用段階でのミスマッチ、配属、異動段階でのミスマッチ、上司と部下のコミュニケーションのあり方、人事制度、報酬制度に問題を抱えている組織が多い印象を受けています。したがって、狭い意味でのメンタルへルス対策ではなく、「採用」「人材育成」「組織開発」といった視点に立った施策の提案が必要と考えます。ただし、残念ながら、現状のストレスチェックベンダーではそういった、「採用」「人材育成」「組織開発」に関するソリューションを保有している会社は非常に少ないと感じています。ストレスチェックベンダー自身はそういったソリューションを保有していなくても、必要な場合は、組織開発系のソリューション保有する他社と連携して施策を提案する姿勢があるか確認することが必要と考えます。

 

おわりに

ストレスチェックベンダーの見直しの際には、現在のベンダー、選定候補のベンダーに次のような質問をすることをお勧めします。

御社のストレスチェック集団分析結果のベンチマークの業種構成、規模構成を教えて下さい。どのような軸(属性)でのベンチマークを保有していますか?

パッケージ料金内でベンチマークとの比較レポートを提供してもらえますか?

御社の研修を実施した場合の効果測定をどのようにすれば良いか教えて下さい。

施策や研修の効果測定の統計分析を御社に実施してもらうことはできますか?

従業員の仕事の意義や仕事の適性感に課題がある場合に有効な科学的根拠のある施策・ソリューションを教えて下さい。

ストレスチェック結果の分析の結果、弊社の採用や人事制度に関して見直しが必要となった場合にも、お手伝い頂けますか?

 

 

以 上

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