日本のテレワークの現状はどうなっているか?

はじめに

新型コロナウイルスの影響で、テレワークを開始した企業、従業員の方が多いかと思います。そこで、今回は、政府や研究・調査機関から公表されている調査結果をもとに、日本におけるテレワークの現状について現在分かっている知見をご紹介します。

新型コロナウイルス以前のテレワーク状況

新型コロナウイルス以前のテレワークの実施状況を把握する資料としては、総務省が毎年実施している通信利用動向調査報告書(世帯編)が参考になります。

現時点での最新は平成30年度版です。https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/pdf/HR201800_001.pdf

この調査の調査対象は全国の20歳以上の世帯主がいる世帯から無作為に抽出した世帯です。調査時点は平成30年9月末ですので、新型コロナウイルスの流行が始まる約1年半前の日本全国のテレワークの状況を反映した調査と考えられます。

まず、テレワークの実施状況について見てみます。インターネットを利用している 15 歳以上の人で企業等へ勤務している人における、過去1年間のテレワークの経験については、「はい(テレワークをしたことがある)」が 8.4%、「いいえ(テレワークをしたことがない)」が 90.7%となっています。(⇒70ページ参照)

通信利用動向調査報告書(世帯編)ではテレワーク実施の意向はあるが未実施者である人にその理由を尋ねています。(⇒74ページ参照)
テレワークを実施しない理由としては、「勤務先にテレワークできる制度がないため」(54.2%)、「テレワークに適した仕事ではないため」(49.4%)、「テレワーク用の執務環境が整備されていないため(サテライトオフィスの整備含む)」(35.2%)となっています。

まとめると、新型コロナウイルス以前では、日本全国ではテレワーク実施者は10人に1人未満と考えられ、テレワークが可能な勤務先の制度がないことと、テレワークに適した仕事ではないということが主な障壁となっていたことが分かります。

新型コロナウイルス以降のテレワークの状況

今回の新型コロナウイルスの影響を受けて複数の機関からテレワークの実施に関する調査結果が公表されています。そのうち、NIRA総研とパーソル総研から公表された調査結果を紹介します。

NIRA総研による調査結果

本調査はNIRA総研によって2020 年 4 月 17 日に公表されています。調査は 4 月 1 日(水)~7 日(火)にかけて行われており、回答者数は合計で 10,516 人です。https://www.nira.or.jp/pdf/NIRA20200417_telemigration.pdf

なお、調査対象は日本全国の就業している人で、個人事業者なども含んでいます。

まず、テレワークの利用率ですが、2020年3月時点でのテレワーク利用率は、全国平均で10%となっています(⇒本文図表1参照)

都道府県別で見ると東京都 21%、神奈川県 16%、千葉県 14%、埼玉県 13%となっています(⇒本文図表2参照)

首都圏においてテレワークの実施率が高い傾向にあることが分かります。

規模別にみると、500人以上の企業規模で16%(⇒本文図表3-1参照)と高い水準でした。

業種別でみると、「情報サービス・調査票を除く情報通信業」が27%、「情報サービス・調査業」が次いで23%と高い水準でした。一方で、公務(国家公務、地方公務)が4%、飲食業・宿泊業が4%、医療・福祉が2%となっていました。(⇒本文図表3-2参照)

テレワークと一口と言っても、対応可能な業種とそうでない業種があることが分かります。新型コロナウイルス以前のテレワークの実施状況を調査した「通信利用動向調査報告書(世帯編)」において、テレワークが実施できない主な理由の1つとして「テレワークに適した業務ではない」ことが挙がっていたことと整合的な結果です。

新型テレワークによる生産性の変化についても大変興味深い結果が得られています。

調査では、「仮に新型コロナウイルスの感染拡大の出来事がなく、通常通りの勤務をしていた場合を想像してください。通常通りの勤務に比べて、テレワーク勤務により、時間あたりの仕事のパフォーマンス(仕事の効率)はどのように変化したと思いますか」という質問により、生産性の変化を推定しています。

調査結果では、通常通りの勤務と同じ生産性(=100)と回答した人が多いのですが、生産性が上がったと回答した人よりも下がったと回答した人が多く、生産性の平均は78となっています(⇒本文図表6-1参照)

経済産業研究所(RIETI)による調査結果

ちなみに、テレワークの生産性に関しては、経済産業研究所(RIETI)の森川氏が、2020年3月中旬に同研究所の職員を対象に調査を実施しています。https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0549.html

具体的には、「オフィスで仕事をする時の生産性を100としたとき、在宅勤務の生産性を数字で言うとどの程度ですか?」という質問で生産性の変化を推定しています。その結果、管理・事務55、研究員は81で(全体では63)という結果となっています。

オフィス勤務時と比較して生産性が4割ほど低下したという結果ですが、調査結果からは、管理・事務職員に比べて研究員の方が平均的には在宅勤務による生産性の低下が小さいことが示されています。

森川氏は、「①論文執筆をはじめ個人で完結する仕事が多い(フェイス・トゥ・フェイスの重要性が相対的に低い)」、「②従来から在宅で仕事をする機会が多かったことによる経験効果や自宅の研究インフラがある程度整っている」と推測しています。

なお、経済産業研究所による調査では新型コロナウイルスの影響が除かれていませんので、新型コロナウイルスによる世情の混乱がテレワークによる業務効率の低下に加わって、先ほどのNIRA総研の結果よりも生産性の低下が大きく出ている可能性があります。

パーソル総合研究所による調査結果

パーソル総合研究所も全国の正社員を対象にテレワークの実施率に関する調査を2020年3月、4月の2時点で実施しています。https://rc.persol-group.co.jp/news/202004170001.html

2020年4月10~12日に全国2.5万人規模で実施した調査結果からは、緊急事態宣言後の初日(4月8日)時点で、正社員のテレワーク実施率は、全国平均で27.9%という結果が得られています。なお、同研究所で3月半ばに実施した前回調査では13.2%という数値が得られており、新型コロナウイルスの流行や政府の措置や要請を受けてテレワークの実施率が急上昇していることが分かります。

なお、先ほどのNIRA総研の調査結果に比べて、パーソル総合研究所の方がテレワークの実施率が高い理由としては、NIRA総研の調査では広く自営業者を含む就業者を対象としているのに対して、パーソル総合研究所による調査では、正社員を対象にしていることが主な理由と考えられます。

パーソル総合研究所による調査では、さらに細かいデータも公開されています。
https://rc.persol-group.co.jp/news/files/news-data.pdf

業種別にみると情報通信業が53.4%、学術研究,専門・技術サービス業が44.5%と高い水準となっているのに対して、医療,介護,福祉が5.1%、運輸業,郵便業が12.1%となっています。

また、職種別のテレワーク実施率も非常に興味深い結果です。WEBクリエイティブ職、コンサルタント、企画・マーケティングといった職種では60%以上がテレワークを実施しています。

一方で、製造(組立・加工) 、 軽作業(梱包・検品・仕分/搬出・搬入など) 、ドライバー 、福祉系専門職(介護士・ヘルパーなど)といった業種では5%を下回る実施率となっています。

もともとテレワークに適した職種では新型コロナウイルス対応でテレワーク実施率が急上昇したものの、対面接客系、製造系といった比較的テレワークが難しいと考えられる職種では依然として、テレワークが進んでいないことが分かります。

まとめ

これまでの調査結果をまとめると、日本におけるテレワークに関しては以下のような状況だと言えます。

新型コロナウイルスの流行に伴いテレワーク実施率は首都圏中心に上昇した。

テレワークしやすい業種、職種ではテレワーク実施率が高いが、そうでない業種、職種ではテレワーク実施率が依然として低い。

テレワークを実施している労働者では生産性は減少している人が多い。テレワークを実施している労働者でも生産性が向上または維持される人が多い職種と、低下する人が多い職種が存在する。

今後企業に求められる施策としては、下記が考えられます。

業務のIT化、オンライン化を進め、社内でテレワーク可能な職種を増やす。この点に関しては従業員の感染防止の観点からも重要ですが、組織内での不公正感が企業でのメンタルヘルスの悪化につながる要因として知られているため、メンタルヘルス対策の観点からも重要と考えられます。

テレワークが業務効率の低下につながらないように、業務体制を整える。企業としては、十分な性能のIT機器を貸与する、書面で行っていった業務をオンライン化するといったハード面や業務面での支援も必要ですが、上司と部下、同僚同士のコミュニケーションの確保、家庭生活との両立の支援やソフト面やプレイべート面での支援も必要と考えられます。

弊社としましても、上記に対応したソリューションを研究開発し、提供して参ります。

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以 上

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