従業員のコロナ感染の対外情報発信のポイント

はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大から半年以上が経過し、大都市に所在する大企業を中心に自社の従業員から新型コロナウイルス感染者が発生した企業が多いと思われます。一定以上の規模の大企業であれば、これまでに一人も新型コロナウイルス感染者が発生していないという企業は少ないのではないでしょうか?

感染者が発生しても公表しない方針の企業もあるかもしれませんが、弊社としては、自社ウェブサイト等でリリースを公表することが可能な場合は、原則としてリリースにより感染者の発生を対外的に公表することが望ましいと考えております。

取引先等には個別に担当者から連絡しているので対外的な情報発信は不要と判断されるかもしれませんが、企業として対外的な情報発信をすることで、企業の透明性の向上や健康経営、感染症対策への取り組みのPRにつながると考えております。

地域に密着した企業や地域での知名度が高い企業の場合は、従業員からの感染者の発生に関する情報は地域住民のコミュニケーションを通じて広まりますので、誤った情報の流布による企業のブランド毀損や、感染した従業員やその他の従業員への誹謗中傷を防ぐためにも、企業主体での情報発信が望ましいと考えられます。

そこで今回は新型コロナウイルスの感染者が発生した場合のリリース作成の際の留意点について解説します。

リリースに盛り込むべき内容は?

新型コロナウイルス感染者が発生した場合の内容について考える際には、厚生労働省により発出された「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針」が参考になると考えております。

https://www.mhlw.go.jp/content/000601059.pdf

この文書は厚生労働省が都道府県の衛生管理部門に対して発出したものですが、企業における情報の公表の際にも参考になると思います。

この文書において示されていることのポイントは情報の公表の目的にあります。

1 公表の目的について
感染症のまん延を防止し、感染症による健康リスクが個人や社会に与える影響を最小限にするためには、感染症の発生状況等に関する情報を積極的に公表する必要がある。
なお、当該情報の公表に当たっては、感染者等に対して不当な差別及び偏見が生じないように、個人情報の保護に留意しなければならない。

https://www.mhlw.go.jp/content/000601059.pdf

つまり、感染拡大の防止と感染者のプライバシーの保護に留意することが重要とされています。この二つの目的はややもするとトレードオフの関係性にあります。感染者や感染の発生状況に関して詳細な情報を対外公表することで感染防止につながる可能性がある一方で、感染者が特定され不当な差別や偏見を招いてしまう懸念もあります。リリースの作成に際しては、この2つの目的のバランスを上手く保つことが重要と思います。

リリース内で公表すべき内容としては下記のような上記の基本方針では下記のような内容が示されています。

(1)感染症に関する基本的な情報
感染症の種類によってその特徴が異なることから、病原体の潜伏期間や感染経
路、主な感染源等、当該感染症に関する基本的な情報を提供する。これらの情報を発信することにより、当該感染症をまん延させないための適切な行動等を個人がとれるようにする。


(2)感染源との接触歴に関わる情報
感染者の推定感染地域及び感染源との接触の有無等に関する情報を提供する。これらの情報を発信することにより、当該地域への渡航者に対する注意喚起に資すると考える。


(3)感染者の行動歴等の情報

感染者が他者に当該感染症を感染させる可能性がある時期の行動歴等の情報については、感染症のまん延防止のために必要な範囲で公表する必要がある。
他方、他者に当該感染症を感染させる可能性がない時期の行動歴等については、感染症のまん延防止に資するものではないことから、公表する必要はない。
したがって、感染者が他者に当該感染症を感染させる可能性がある時期の行動歴等について、以下のとおり公表を行うこととする。なお、公表に当たっては、公表による社会的な影響についても十分に配慮し、誤った情報が広まることのないように丁寧な説明に努めることとする。

https://www.mhlw.go.jp/content/000601059.pdf

大手企業のリリースの事例

それでは、これまでに従業員の感染を公表した企業、特に社会的責任が重い大手企業のリリースを見ていきたいと思います。

※企業によっては新型コロナウイルス感染者の発生に関するリリース公表後一定期間経過後に削除している場合があるため、本ウェブサイト閲覧時に下記のURLが無効となっている可能性があります。2020年9月10日時点で閲覧可能なプレスリリースのURLを掲載しています。

損害保険ジャパン:https://www.sompo-japan.co.jp/~/media/SJNK/files/news/2020/20200829_1.pdf

内田洋行:https://www.uchida.co.jp/company/news/customer/200805.html

三井物産:https://www.mitsui.com/jp/ja/release/2020/1237576_11207.html

野村證券:https://www.nomura.co.jp/introduc/news/2020/20200805_1.html

三菱商事:https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2020/html/0000045754.html

電通:https://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2020080-0904.pdf

基本的には下記のような内容を盛り込んでいる例が多いことが分かります。

①感染者の発生の事実

感染者の発生者の事実を端的に記述しています。当然のことながら、新型コロナウイルスによる感染であることを明記することが必要です。

②感染者の属性(勤務地等)や行動履歴

感染した従業員の勤務していた支店やオフィスについて具体名を公表している企業が多いと思います。

また、感染した従業員の行動履歴について、具体的な日付を含む行動履歴を公表していることが多いです。この部分については感染の拡大防止のために必要な範囲での公表とし、リリース内容から感染した従業員が特定されないような配慮が重要です。

メディアでの報道では感染者の性別や年代といった情報が公表されることが一般的ですが、企業としてのリリースでは不要と考えられます。

③企業としての対応

感染者と濃厚接触履歴のある従業員への対応について、濃厚接触者の自宅待機、施設の消毒等の対応等、企業として取った感染拡大防止に対する取り組みを公表します。企業として、感染拡大防止にしっかり対応している点を事実にもとづいて記述することが重要です。

④企業としての新型コロナウイルス感染拡大防止の施策の実施状況

感染者の発生に直接関連する情報ではありませんが、自社が感染拡大防止のための施策を実施しているのであれば記載しても良いと考えられます。具体的には、従業員の検温やテレワーク、時差出勤、大人数での対面での会議や研修の自粛といった取り組みを記載することが考えられます。

その他

これまで、新型コロナウイルス感染者が発生していない企業においても、感染者の発生を想定してリリースの雛形を作成し、社内で決裁を得ておくことをお薦めします。感染者の発生に対してタイムリーにリリースを発信するためには、基本的な雛形について、取締役会議、経営会議等の上位のレイヤーで決裁を得ておき、個別の内容については、人事や総務等の健康管理部門や広報担当部門の決裁とすることが考えられます。

以 上

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