意外に穴場!?民間企業以外のストレスチェック市場

はじめに

今年でストレスチェック制度が施行されて5年目を迎えています。さて、今回はストレスチェック制度に関して意外と知られていない、民間企業以外のストレスチェック市場の実態について解説したいと思います。

民間企業以外のストレスチェック制度について

ストレスチェック制度は労働安全衛生法によって義務化された制度です。したがって、労働安全衛生法が適用対象となる事業者はストレスチェックを年に1回以上実施しなければなりません。

この労働安全衛生法が適用される事業者は実は民間企業だけではありません。たとえば、学校法人、医療法人、独立行政法人、特殊法人等であっても、法令により労働安全衛生法の適用除外とされない限りは、常時使用する労働者が50名以上の事業場ではストレスチェックを実施しなければなりません。

また、公務員に対しては労働基準法、労働組合法等の多くの規定が適用除外となるため、労働安全衛生法も適用除外となりそうに思いますが、実は地方公務員については、いわゆる現業従事の職員には労働安全衛生法が適用されます。また、非現業の地方公共団体の職員にも一部を除いて適用されます。したがって、都道府県、市区町村等では職員を対象としてストレスチェックが年に1回実施されています。

国家公務員に関しては、一部を除いては労働安全衛生法が適用されません。しかし、労働安全衛生法の改正によるストレスチェック制度の創設と同じ時期に人事院規則が改定され、国家公務員に対するストレスチェック制度が創設されています。

https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/10_nouritu/1023000_H27shokushoku315.html

その内容は、事業者⇒各省各庁の長、労働者⇒職員といった具合に、若干の修正はありますが、労働安全衛生法にもとづくストレスチェック制度のカーボンコピーと言えるものです。したがって、労働安全衛生法が適用されない中央省庁等においても、民間企業とほぼ同一のストレスチェックが年に1回実施されていることになります。

公務員向けストレスチェックの落札価格は?

さて、国家公務員、地方公務員、独立行政法人、特殊法人等でのストレスチェックの委託先は、他の物品の納入や、業務の委託と同様に、一般的に、競争入札により決定されています。競争入札に関する情報は、各団体のウェブサイト等で開示されていますので、入札、落札した企業名、入札価格、落札価格等を知ることが出来ます。

例えば令和2年度の北海道庁の入札結果を見てみましょう。3社が入札し、落札価格は2,034,000円であることが分かります。なお、職員数が1.5万人に対して、ストレスチェックの実施がマークシート込みで職員1人あたり116円、いわゆる集団分析の実施については、980部部門を対象に、1部門あたり300円で落札されていることが分かります。

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/sks/r2nyuusatukekka.pdf

同様に令和2年度の栃木市の入札結果を見てみましょう。こちらは職員1人あたり170円で落札されています。なお、栃木市の職員数は約1200人なので、約20万円程度の落札価格となります。

https://www.city.tochigi.lg.jp/uploaded/attachment/26828.pdf

弊社の調査した限りでは、公務員向けの入札案件のストレスチェックの1人あたりの実施単価は100~200円が中心価格帯となっており、民間企業向けと比べるとかなり価格破壊が進んでいる印象です。

また、入札案件特有のノウハウが必要となるためか、公務員や特殊法人を対象とした入札でのストレスチェック案件に特化していると思われるストレスチェックベンダーが日本全国で10社程度存在します。

例えば、下記の会社のように官公庁向けの入札案件で落札したストレスチェック案件が100件を超えているということを自社ウェブサイトで PR している企業もあります。

㈱ドリームホップのウェブサイト

検索すると、同社は、札幌市立学校職員(1,038,020円)、長浜市役所(840,500円)、東大和市(343,000円)等、全国的に地方自治体向けに入札していることが分かります。

https://www.city.sapporo.jp/kyoiku/top/keiyakukoukai/documents/13_sikkoutyousyo.pdf

https://www.city.nagahama.lg.jp/cmsfiles/contents/0000006/6430/sc_r1.pdf

https://www.city.higashiyamato.lg.jp/index.cfm/36,98909,377,795,html

公務員向けストレスチェック案件の注意点とデメリット

民間企業向けと比較した公務員向けストレスチェック案件の注意点、メリット、デメリットを整理します。

まず入札するための一定の資格を満たす必要があります。たとえば、医師、保健師等の実施者を雇用している等のストレスチェック業務を受託する上での当然の要件に加えて、一定規模でのストレスチェック実施実績が要求される場合があります。

入札にあたっては、会社の登記簿、会社概要、体制図、従業員名簿、これまでの実績といった書類も必要となることが一般的です。入札によっては入札に参加するために保証金を差し入れを求められる場合もあります。

たとえば、下記の高松市のストレスチェックの入札公告では入札に関連する様々な書類が列挙されていますのでご参考頂ければと思います。

https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/smph/jigyosha/nyusatsu/sonota_boshu/kobo_shimei/jinji20180325.html

民間企業向けでも、会社概要、サービスに関する資料や、業務委託契約書の締結が必要になりますが、公務員向けの場合は分量が多くなりがちなのはデメリットと言えるでしょう。

企業向けにストレスチェックを提供するベンダーが公務員向けのストレスチェックを受注しようとする際に注意する必要が有る点として、ストレスチェックシステムのメッセージや集団分析結果の用語の表現が挙げられます。民間企業向けのストレスチェックシステムをそのまま用いると、例えば「従業員」といった表現は公務員には相応しくないので、例えば「職員」といった表現に修正することを求められることが一般的です。ストレスチェックの個人の結果通知画面や、集団分析結果に、職場環境改善のためのアドバイスで多くの文言が含まれる場合は注意が必要と言えます。

毎年の競争入札ですので、ある年受注したからといって次の年の受注につながるとは限りません。民間企業であれば、一度受注して顧客企業内で実績ができたり顧客企業の担当者と関係が構築されてくると、継続受注が容易になりますが、そういった営業努力が使えない点は難しいと言えます。

また、マークシートによる実施がほぼ必須となる場合が多いことも公務員向けのストレスチェックでの特徴となっています。これは、民間企業においては、小売り業や製造業以外の業種では1人1台パソコンを利用する環境にある場合が多いのに対して、公務員等の世界では1人1台のパソコンを使える環境にない場合が多いためです。

マークシート案件を受注するためには、読み取り、結果の印刷、封入、郵送といったオペレーションに対応する必要があります。また、民間企業向けでは、集団分析結果は電子データでの納品が基本ですが、公務員向けの場合、紙媒体やCD-Rでの納品を求められる場合が多々あります。特に、IT企業系のストレスチェックベンダーはシステム開発や管理面ではノウハウを有していてもそうした人力でのオペレーションには不慣れな場合がありますので、公務員向けの市場をターゲットに含める場合は注意が必要です。

 公務員向けストレスチェック案件のメリット

メリットの第一としては、企業の知名度に関係なく条件を形式的に満たせば入札に参加可能で、基本的には価格勝負となる点です。たとえば、北海道や九州で全く知名度のない東京所在の企業であっても、北海道や九州の市役所、県庁に入札することが可能で、最低価格を提示出来れば落札できることになります。

民間企業向けにストレスチェックを展開する場合には、一定の知名度がなければ受注に至ることが難しいため、広告、人事系イベントへの参加、雑誌への寄稿等一定のマーケティング活動にリソースを投入する必要がありますが、入札案件に特化するのであれば、知名度向上は必要ありません。もちろん、知名度の高い団体には発注する国や地方公共団体から入札の案内があることが一般的ですので、知名度が高いに越したことはありません。

国や地方公共団体向けのストレスチェック案件のメリットとしては、代金の貸し倒れリスクがゼロであるということです。民間企業と違って倒産リスクがないため、受注して契約を履行すれば期日通りの入金が確実に見込める点は国や地方公共団体を契約相手とするメリットと言えます。

受注実績を対外的にPRしやすいという点もメリットと言えます。民間企業の場合は業務委託契約の中に守秘義務が盛り込まれており、守秘義務の対象の中には当該企業と契約している事実が含まれていることがあります。その場合は実績として顧客名を具体的に挙げて PR することが出来ません。しかし、入札で受注した国や地方公共団体向けの案件の場合は、落札の事実が公開されますので、自社ウェブサイトでその事実を実績として PR することは問題はないと考えております。

国や地方公共団体での受注実績があることは、民間企業向けの営業時にも信用獲得に役立ちますので、新興企業が民間企業に営業をする際には、国や地方公共団体で実績を作って、PR材料するというのは有効な戦略と言えるでしょう。

 公務員向けストレスチェック市場の魅力・将来性

最後に、公務員向けのストレスチェックが市場として魅力があるかを考えてみたいと思います。弊社としては、上述した紙媒体での納品やマークシート実施への対応を効率的に行える態勢を構築出来れば、売上が数億円程度の中小、中堅のストレスチェックベンダーにとっては、魅力的な市場と考えております。逆に、10億円以上の売上の企業にとっては市場規模が小さく魅力的とは言えないと考えています。

地方公共団体によって若干の違いはありますが、入札時に要求されるストレスチェック実施の要件、必要な書類や記載内容はほぼ同じですので、数団体受注出来れば、業務を完全に定型化することが可能です。そのため、マニュアルを整備し、安い人件費でオペレーションが回せる態勢を構築すれば、市場規模からして、数千万~数億円程度の売り上げで利益率の高い事業とすることは可能です。

今後市町村の合併が進むことが考えられますが、ストレスチェックは、職員一人当たりの単価×職員数が価格となることが一般的なので、合併により職員数が大幅に減少しなければ、全体の市場規模自体は合併によっても大きくは縮小しないと考えます。民間企業の場合は、合併時に大幅なリストラが行われることが多いのですが、公務員の場合は合併時にも劇的な職員数が削減は難しいと考えられます。

国及び地方公共団体の職員に対するストレスチェック制度は法制度によって年1回以上の実施が求められている点も、市場の継続性、読みやすさという点では魅力的です。

ストレスチェックの実施価格が、民間企業向けに比べてかなり安いということを述べましたが、価格競争にも一定の限界があり現状以下に価格が継続して低下していくことは起こりづらいと考えております。

現状、地方自治体だけでもが約1700程度存在し、企業の所在地以外の地域の地方公共団体向けのストレスチェックに入札する態勢があると考えられるベンダーは多く見積もっても日本全国で10社程度と思われます。そのため、経済合理性のあるベンダーであれば、単価があまりにも安い地方公共団体に受注を目的として価格を無理に下げて入札するよりは、単価の高い他の地域の地方公共団体に入札すると考えられます。

公務員向けのストレスチェックのシェア1位を目指すといった戦略ではなく、比較的単価の高い地方公共団体や競合状況を入札結果資料からリサーチして、ある程度入札先を絞ることで利益率を一定以上に保った事業運営が可能となるのではないでしょうか。

以 上

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