コロナ禍の日本のメンタルヘルスと幸福感に関するパラドックス

今回は日本のコロナ禍の中でのメンタルヘルスと幸福感の変化について考えたいと思います。

まず、コロナ禍の日本のメンタルヘルスの状況に関しては、OECDによる調査が参考になります。OECDによる調査によれば、コロナ禍以前と比較して2020年度の日本のメンタルヘルスは悪化したことがわかります。

出所:Tackling the mental health impact of the COVID-19 crisis: An integrated, whole-of-society responseのFig.2参照

https://www.oecd.org/coronavirus/policy-responses/tackling-the-mental-health-impact-of-the-covid-19-crisis-an-integrated-whole-of-society-response-0ccafa0b/

同様にコロナ禍における幸福度の変化を見ていきたいと思います。幸福度に関してはJohn F. Helliwellら研究者によるWorld Happiness Reportが参考になります。

出所:World Happiness Report https://happiness-report.s3.amazonaws.com/2021/WHR+21.pdfのTable 2.1参照

World Happiness Reportによれば、日本において2017年から2019年と比較して2020年の幸福度が上昇していることが分かります。

上記の結果を踏まえると、2020年の日本では、メンタルヘルスの悪化と幸福度の上昇という矛盾した一種のパラドックスと言える状態が発生していたことになります。

このパラドックスを解くヒントの1つには、経験と評価の違いが挙げられると思います。

これまでの心理学研究により、経験と評価は必ずしも一致しないということが知られています。たとえば、評価は直近の経験により影響されることが知られています。楽しい道中の旅行が最終日のトラブルで台無しになった、逆にトラブルだらけの旅行が最終日に良い出来事があったために良い思い出になった、という経験は身に覚えがあるのではないでしょうか?

今回引用したOECDによるメンタルヘルスの調査ではPHQ-9という調査票により、うつや食欲不振、疲労感のような経験を調査しています。一方で、World Happiness Reportの日本の幸福度の変化に関する調査結果は、回答者に梯子をイメージさせて人生の全体的な評価を尋ねる調査結果をもとにしています。したがって、コロナ禍の最中に、感染不安や行動制約によるうつ等の辛い経験があったとしても、人生の状態はプラスに評価されたという可能性もあり得ることになります。

ここで注目したいのは、ポジティブ心理学で研究されている人生の意味(Meaning of Life)という概念です。ポジティブ心理学におけるこれまでの研究により、人生の意味や目的を理解することが、心身の健康や幸福感につながる可能性が示唆されています。

コロナ禍において、それまで当たり前のように出来ていた事が以前のように出来なくなり辛い経験をしたものの、それまで当たり前であったことは当たり前ではないことを認識したり、あるいは、コロナ禍以前とは違う過ごし方をすることで、自らの人生の意味や目的を見出すことにつながり、その結果として、幸福度の上昇につながったという可能性もあるのではないでしょうか?。

以 上

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