令和3年度の精神障害の労災認定の状況が公表されました

はじめに

6月24日に厚生労働省より令和3年度の「過労死等の労災補償状況」が公表されました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26394.html


この報告の中では、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況の労災請求件数、決定件数が公表されています。

労働災害(以下、労災)は、業務に関して発生した負傷や病気などに関して労働基準監督署に申請することにより、労災保険での補償の対象か否かが認定されます。認定された場合、治療や療養に係る費用が労災保険から支出されることになります。精神障害に関しても、業務が原因で発生したと認定されれば、身体的的な負傷や病気度同様に労災認定されます。その際の基準としては、「心理的負荷による精神障害の認定基準」が用いられます。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/120427.html

直近10年度の変化

この「過労死等の労災補償状況」は平成14年から毎年厚生労働省より公表されている資料です。今回は直近10年分の資料を用いて、精神障害の労災認定に関するトレンドを見てみたいと思います。

精神障害に関するものについて、平成24年度から推移を見てみます。請求件数は当該年度に労働基準監督署に請求があった件数、決定件数は当該年度に支給または不支給のいずれかの決定がされた件数を指します。

注目すべきは請求件数が平成24年度の1,257件から2,346件に約倍増している点です。一方で支給決定件数は1,217件から1,953と約1.6倍となっており、請求件数ほどの伸びとはなっていません。

支給・不支給の判定がされた件数のうち、支給決定がされた件数の割合(=認定率)は徐々に低下し、平成24年度は39%であったのが、直近の令和3年度は32%となっています。これについては労働基準監督署の審査が実質的に厳しくなったのか、精神障害の労災制度の認知度の向上に伴い支給対象の見込みが少ない事案まで申請されるようになったためなのか、さまざまな理由が考えられます。

事案の特徴

精神障害の労災認定の事案の内容については直近10年ではどのような変化が伺えるでしょうか?支給決定件数の事例別内訳を平成24年度と令和3年度で比較してみたいと思います。

平成24年度:

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034xn0-att/2r98520000034xp9.pdf

令和3年度:

https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/000955417.pdf

両者を比較すると、セクシュアルハラスメントを理由とした支給決定件数が平成24年度の24件→令和3年度の60件となっています。セクシュアルハラスメントによる労災認定が2.5倍になっていることが分かります。2007年(平成19年)に企業にセクシュアルハラスメント防止を義務付ける法律が成立していますが、その後もセクシュアルハラスメントを理由とする精神障害で労災認定される人は増えていることが分かります。

いじめ、ハラスメント関連に関しては集計区分が変更になっているため、直接比較が出来ませんが、平成24年度の「(ひどい)いやがらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の支給決定件数が55件に対して、令和3年度は、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が125件、「同僚等から、暴行または(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」が61件となっています。職場でのいじめやパワーハラスメントによる精神障害の労災支給決定件数が大幅に増加していることが分かります。

2022年4月からはパワーハラスメント防止措置が中小企業も含む全企業に義務化されていますが、職場においてもセクシュアルハラスメント、いじめ、パワーハラスメントが起こらないように対策を講じていくことが必要と言えるでしょう。

以 上

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