人材のリテンションは退職予測よりも組織風土の改善による退職予防が効果的

はじめに

コロナ禍3年目も終わりを迎えようとしていますが、人材分野での課題の一つの人手不足は今なお継続しています。

dodaエージェントサービスによれば、「(2020年)6月の求人数は、2020年9月から22カ月連続で増加」しており、転職希望者数に比べて求人数の増加が大きく、採用難が続いている様子が伺えます。https://doda.jp/guide/kyujin_bairitsu/

特にデータサイエンティスト、エンジニアなどデジタル人材のような、今後の事業の成長に必要な人材をいかに採用し、いかに長期勤続してもらい退職を予防する(リテンション)かは、人事課題のみならず経営課題と言える状況になっています。

そうした中で、退職者を予測できるAIツールが販売されていることがあります。そういったツールではサーベイの回答結果や勤怠情報や人事情報を使って、在職している従業員一人一人の退職確率を算出出来ることを売りとしているようです。

そのようなツールは、リテンションのための一つの方法だとは思いますが、弊社では、以降で述べる理由によりそうしたツールの活用は難しいと考え、むしろ退職者を生まないように組織風土を改善していく方が望ましいと考えております。

退職リスクの高い社員へのフォローが難しい

AIツールによって退職する確率が高いと思われる社員を特定できたとしても、その社員に対するアプローチは容易ではありません。そうした社員と面談をしたとしても、そのことがかえってその社員の退職を決意させてしまう恐れもあります。さりげなく会社に対する不満を聞き出せたとしても、その理由がすぐには改善できないものである可能性もあります。

退職リスクの高い社員の予測自体が技術的に難しい

二点目は、そもそも退職を考えている従業員の予測が難しいという点です。

専門的になりますが、退職のような全体に対してごく一部の人が該当するようなデータは「不均衡データ」と呼ばれます。この不均衡データに対して通常の機械学習を用いると、うまく予測できないことが知られています。たとえば、1000人中1人が該当するような事象を機械学習にして予測することを考えた場合、単純に全ての人を「該当しない」と判定すれば、真に退職しようとしていない人は非常に高い確率で正しく判定することとなりますが、真に退職しようとしている人は必ず予測が外れてしまいます。これでは意味がありません。そのため、こうした不均衡データに対しては、データの偏りを一定のアルゴリズムにより人工的に補正するような処理が行われます。

このことに加えて「退職」と一口に言っても、単に会社が嫌で転職する以外にも、配偶者の転勤、結婚、病気等さまざまな理由があり得るため、理想的には、会社が嫌で転職した場合のみを予測対象とすることが望ましいですが、企業として退職事由を詳しくデータ化していないことも多いと思います。また、一人一人の退職確率をピンポイントで予測するためには、さまざまな要因(性別、年代、職種、勤続年数、人間関係、給与、昇進履歴、残業時間等)を用いることが必要となりますが、そのようなデータは複数のデータベースに散在して居たり、記録が正確でなかったり、欠損が多かったりするため、機械学習等に活用できる形で整備するのにも工数がかかります。

個人の退職確率を第三者提供することへの同意を得づらい

新たに実施したサーベイ結果を使って個人の退職リスクを予測した結果は個人情報となりますので、その結果をベンダーから会社(人事)に開示する場合には、個人情報保護法より原則としてサーベイに回答した本人の同意があることが必要になります。従業員からすると自分の退職リスクを会社に開示することに同意するのは抵抗があるのが通常だと思われます。仮に半強制的に従業員から同意を得たとしても、自分の回答結果が自分の退職確率の算出に用いられると分かってしまえば、サーベイに真面目に回答しない可能性も高いと考えられます。

組織サーベイ結果から退職者を生まない組織風土に

以上を踏まえると、人材のリテンションのためにサーベイ結果を使って個別の従業員の退職予測をすることはあまり筋が良いと言えません。むしろ、組織サーベイで、従業員の離職につながる要因を調査し、その要因を会社全体や組織単位で把握して、改善していくことをお薦めしたいと思います。

これまでのさまざまな学術研究や調査により組織風土で従業員の退職につながる要因が特定されているため、れらの要因をサーベイによって組織単位で把握し、会社としてあるいは人事としての施策を通じて改善していくことで、優秀な人材が長期間定着する組織風土になっていくと考えられます。

従業員が長く勤めたい組織風土作りには弊社が監修したエンゲージメントサーベイOurEngageをお薦めします。https://www.ourengage.jp/

以 上

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