はじめに
弊社では顧客企業より委託を受けて、さまざまなサーベイを開発しています。今回は、エンゲージメントサーベイの開発について順を追って解説します。
サーベイの目的の整理
サーベイ開発で最も重要なのは「そのサーベイは何を目的とするのか」の検討です。エンゲージメントサーベイであれば、離職防止、仕事のパフォーマンス向上、組織の業績向上等が考えられます。ポイントは目的が複数ある場合には優先順位を付けておくことです。ここで優先順位を付けておくと、以降の開発において「この機能は必要か?」「どちらの機能の開発を優先すべきか?」という論点が出てきたときに答えを出しやすくなります。また、マーケティングにおいても「何を訴求するべきか?」という問いに答えが出しやすくなります。
弊社ではこの「サーベイの目的の知り」と次の「サーベイで測定する概念の整理」に関する調査、検討、顧客企業とのディスカッションに十分な時間をかけるのが特徴です。
サーベイで測定する概念の整理
どの組織サーベイを開発するにも共通しますが、そのサーベイで何を測定するのかを十分に検討することが重要です。
エンゲージメントサーベイの場合は測定する概念は「エンゲージメント」であるのは当たり前と思われるかもしません。しかし、実は「エンゲージメント」についても、「ワークエンゲイジメント」や「従業員エンゲージメント」等さまざまな概念があります。したがって、エンゲージメントサーベイを開発する際にも、サーベイで測定する概念についての整理、明確化が必要になります。
サーベイでどの概念を測定するのかという点以外にも、個人の心理状態ー仕事内容ー職場環境(対人関係含む)ー組織風土といった階層を考えて、どの階層をカバーするサーベイとするかの検討は決定的に重要です。例えば、従業員エンゲージメントという個人心理的状態のみを測定するのか、あるいはそういった心理状態の原因となる仕事内容、職場環境や組織風土を測定するのかといった点を入念に検討する必要があります。従業員エンゲージメントー仕事内容ー職場環境(対人関係含む)ー組織風土といった全ての階層をカバーするようなサーベイを構想することも可能ですが、実際にマーケットに投入した際に、顧客から理解されない場合もあります。精緻さと理解されやすさを両立出来るようなサーベイの設計がポイントとなります。
調査票の作成
サーベイで測定する概念が決定したら、調査票を作成することになります。項目の文章を分かりやすい表現とすることは大前提ですが、教示文をどのような文章にするか、項目をどの順番で並べるかについても慎重な検討が必要です。回答者が迷わず抵抗なく回答できる教示文、項目、配列であることが望まれます。
併せて、外国語版を作るのかどうか、あるいは紙でマークシートでの回答を可能にするのかどうかもこの段階で議論することが望まれます。外国語版を作る場合には日本語の段階で翻訳しづらい表現を盛り込まないようにしたり、主語を明確にすることが考えられます。マークシートでの実施に対応する場合は、印刷上の制約がありますので、文章をなるべく短くしたり、A4、A3といった用紙に収まりやすい項目配列とすることも検討課題となります。
スコアリング・集計分析方法の開発
サーベイでは項目に対する答えを選択肢で回答してもらう、その結果を何らかの数値に変換して評価します。このプロセスはスコアリングと呼ばれます。選択肢については、「はい/いいえ」、「当てはまる~当てはまらない」「そうだ~ちがう」など多くのバリエーションがありますので、検討が必要です。どのような選択肢とするかがその後のスコアリングに大きく関わってきますので、慎重な検討が必要となります。
なお、スコアリングに関しては、1項目ごとに点数を割り振る方式もあれば、尺度(scale)といって複数の項目の合計点や平均点をもとにスコアリングする考えもあります。その他、全国調査のデータを使った偏差値などによる表示や、A、B~Eのようなランク表示、リスク度のような指標もあり得ます。サーベイの目的に応じて使い分ける必要があります。
項目の検証
調査票が完成したら、調査票の検証が必要になります。自社の従業員や調査会社のモニターに開発した調査票に回答してもらいます。いわゆる天井効果、床効果の確認はもちろん、期待された度数分布となっているかなどを確認します。回答者の大半が最上位あるいは最下位のスコアリングとなるような項目は望ましくありません。その他、回答者から現在の表現でわかりにくい部分がないかについてフィードバックを受けることも必要です。
この段階では、項目間で相関係数を算出し、期待される相関係数のパターンが得られるかも確認することが一般的です。類似した概念、あるいは反対の概念を測定する別の調査票を併せて実施してそれぞれ正の相関、負の相関となることの確認も望まれます。従業員エンゲージメントであれば勤続年数とは正の相関、離職意思とは負の相関があることが望まれます。
サーベイの目的によっては、この段階で調査票が別の状態を予測出来ることの検証も必要です。たとえば、仕事のパフォーマンス向上をサーベイの目的とするのであれば、サーベイの結果と回答者の人事評価、個人や部門の業績とサーベイで測定された従業員エンゲージメントを紐づけて、一定の予測精度があることを確認することが望まれます。
サーベイシステムの設計
調査票の項目の確認が完了したら、システム設計の段階です。下記のような論点について検討します。弊社の標準的な論点リストでは100以上の論点がこの部分で存在するため1つずつ検討します。ここで入念に検討しておくほど以降の開発が楽になります。
<サーベイシステム設計のための論点リスト(抜粋)>
- 回答者データの仕様
- 組織分析データの仕様
- 回答画面のユーザーインターフェース
- 個人フィードバック画面仕様
- 組織フィードバック画面仕様
- 人事部門向け管理画面仕様
- 性別、年代等の属性項目
- 過去の回答結果との紐づけをするか(個人)
- 過去の回答結果との紐づけをするか(組織)
- 組織分析の最低人数
- 回答率促進のための機能
- 回答休止機能
終わりに
弊社ではサーベイの開発を住宅建築に喩て説明することが多いです。住宅建築においては、「材料」、「間取り」、「デザイン」といった要件も重要ですが、そこに住む人が「その家でどのような暮らしをしたいか」の検討が最重要と言えます。サーベイにおいても「そのサーベイは何を目的とするのか?」の検討が最重要です。この点をしっかり検討したサーベイほどコンセプトの一貫した分かりやすいサーベイとなります。弊社においては、これまで多くのサーベイを開発した実績をもとに、顧客企業によるサーベイの目的の綿密な検討を支援し、実際のシステム設計、開発に至る支援を実施しています。
以 上