はじめに
ストレスチェックとは労働安全衛生法により事業者に年に1度以上の実施が義務付けられている制度です。多くの企業はストレスチェックの実施を、ストレスチェックをサービスとして提供する企業(=以下、ストレスチェックベンダー)に委託しています。弊社ではこれまでに多くのストレスチェックベンダーからストレスチェックデータの分析を受託しています。今回は、ストレスチェックベンダーの保有するストレスチェックデータの分析事例について、①前処理、②分析、③結果のまとめの順で解説します。
①前処理
最初に、ストレスチェックデータのデータクリーニングを行い、尺度得点の計算を行います。マークシート実施の場合には回答のないデータがあり、WEB調査のみの場合でも、データの管理状況によっては分析に適さないデータが入っている場合があります。データを丹念にチェックし、適切に処理します。
ストレスチェックは通常のアンケート調査と異なり1問1問ではなく複数の設問の合計点や平均点を用いて評価します。職業性ストレス簡易調査票、新職業性ストレス簡易調査票の尺度得点計算法にもとづき計算します。総合健康リスクと呼ばれるロジスティックモデルにもとづく指標を計算する必要があったり、ストレスが高い方が点数が高い、またはストレスが低い方が点数が高いといった違いもあるため、この作業にはノウハウが必要です。
②分析
ストレスチェックデータの前処理と尺度得点の計算が完了したら、ヒストグラム、度数分布、平均値、標準偏差といった基本的な集計に加えて、業種別、実施年度別、実施年度×業種別といった区分で集計します。ここでのポイントとして、性別、年代といった属性項目に加えて、勤続年数、役職(管理職・一般従業員)、業種、職種、企業規模のような区分があると有用な結果が得られます。データとして存在しない区分では分析できないため、ストレスチェックを実施する前に回答項目にそういった区分を入れておくことがポイントです。
場合によっては複数間のデータを連結して、年度間の変化を検討することもあります。例えば、コロナ禍の2020年の前後でストレスの傾向に変化が有ったかどうかを示すことも可能です。単純に年度の平均の推移を集計することも出来ますが、個人単位の年度間の変化を分析することも出来ます。この場合は、異年度の同じ回答者を同じとして紐づけが出来るよう、回答者に固有のIDが割り振られていることが前提となります。
ストレスチェックの調査票である職業性ストレス簡易調査票及びその後継である新職業性ストレス簡易調査票は、ストレス反応やワークエンゲイジメントといった労働者の心理的な状態に関する項目と、仕事の量的負担、職場での対人関係、上司の支援といった、ストレス反応やワークエンゲイジメントの原因となる項目も含まれています。労働者の心理的な状態に関する項目とその原因となる項目の相関係数(※)を求めることにより、どの項目を改善するとストレス反応やワークエンゲイジメントが改善しそうかのヒントを得ることが出来ます。
相関係数以外にも回帰分析等の手法により、性別や年代、職種等の属性の影響を考慮した仕事の量的負担とストレスチェック反応の関連の度合いを分析することも出来ます。その他、複数年度のデータを用いて、「どの項目の改善がストレス反応やワークエンゲイジメントの改善につながるか」といった分析を行うことも可能です。
※2つの変数が直線的関係にある度合いを評価しする指標。一般に用いられることの多いピアソンの積率相関係数以外にも順位相関係数や四分相関係数等バリエーションが存在する。
③結果のまとめ
ストレスチェックのデータの分析結果をどのようにまとめるかは、結果を誰が使うか、誰が見るかによって異なります。例えば、営業資料に使うのであれば、自社サービスの営業につながるような結果を分かりやすくまとめる必要があります。ストレスチェックの結果は1点~5点、あるいは偏差値のような形で集計結果が出されることが一般的です。しかし、一般には「製造業の平均値が2.98です」といってもインパクトがありません。代わりに高ストレス者比率を使って「製造業の高ストレス者比率は12.6%です」の方が分かりやすいのです。弊社では営業資料にはなるべく、高ストレス者比率のような割合の指標を使うことを勧めています。
セミナー資料に使うのであれば、「なるほど」「そうなんだ」と思ってもらえるような興味深い分析結果が望まれます。その際に自社のデータの分析結果だけではなく、研究者による研究結果で関連するものを紹介できると、インパクトが増します。なお、統計解析を行った結果は一般には難解と思われがちですので、グラフ等で視覚的に分かりやすく作成することが望ましいです。
最後に
ストレスベンダーの保有するストレスチェックデータの回答者は、これまでの累計にすると数十万、複数年度を合わせると、数百万人になることも珍しくありません。しかし、ストレスチェックのデータから、営業やセミナーに役立つ資料を作成するには、上記で述べたように、分析に有用な項目が調査票に予め含まれていることが前提です。例えば、勤続年数、役職(管理職・一般従業員)、業種、職種のような興味深い分析結果が得られるような集計区分が調査票に盛り込まれていたり、異年度の同じ回答者を同じとして紐づけが出来るよう回答者に固有のIDが割り振られていなければ、興味深い分析結果を得ることは出来ません。
「データを取る前にデータ収集方法を考える」が鉄則です。弊社ではストレスチェックの分析について精通したスタッフを抱えているため、ストレスチェックの分析のみならず、そもそも、どのようにデータを収集するべきか、分析に有用な集計項目は何かといったアドバイスを提供することが可能な態勢となっています。
ストレスチェックデータについては、ややもすれば分析に意識が向きがちですが、ストレスチェックベンダーが売上・利益を向上させていくためには、「ストレスチェックデータのどのような分析結果が出ると営業やマーケティングに有用か?」という視点から、どのようなデータ収集し、どのように分析するべきかを考える点が非常に重要です。弊社では、ストレスチェックベンダーの経営戦略や営業戦略を理解した上で、最適なストレスチェックデータの活用についてもコンサルティングしています。
以 上