2018年度公認心理師予想問題「労働者の心の健康に関する法令や指針」

今回は、労働者の心の健康に関する法令や指針に関する予想問題を作題してみました。

下記の①から④の4つの文章の中で適切なものを2つ挙げている選択肢を選択しなさい。

この問題の解答は、試験実施に関する官報公告の日(平成 30年 2 月 2 日)に施行されている法令等によること。

①労働者の心の健康の保持増進のための指針においては、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア及び事業場外資源によるケアのいわゆる4つのケアが推奨されている。

②労働者の心の健康の保持増進のための指針においては、長時間労働等により疲労の蓄積が認められる労働者や強度の心理的負荷を伴う出来事を経験した労働者に対しては、プライバシー保護や話しやすさの観点からなるべく管理監督者よりも事業場内産業保健スタッフが直接話を聞くことが推奨されている。

③男女雇用機会均等法に基づく指針は、いわゆるセクシュアル・ハラスメント、パワーハラスメントの予防に関する措置に加えて妊娠、出産等に関するハラスメントの防止措置を使用者に義務付けている。

④自殺対策基本法に基づく自殺総合対策大綱は、社会経済情勢の変化、自殺をめぐる諸情勢の変化、本大綱に基づく施策の推進状況や目標達成状況等を踏まえ、おおむね5年を目途に見直しを行うとされている。

<選択肢>

1.①②

2. ①④

3. ②③

4. ②④

如何でしょうか?

以下では順に設問文を検討していきたいと思います。

設問文①

労働者の心の健康の保持増進のための指針に関する設問文です。同指針は、メンタルヘルスケアの促進を目的として労働安全衛生法第七十条の二第 1 項を根拠として制定された指針です。直近ではストレスチェック制度の導入に合わせて2015年に改定が行われています。現任者講習会テキストでは直近の改定があった点が触れられていませんのでご注意ください。なお、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」は別の指針ですのでご注意ください。

<労働安全衛生法>(健康の保持増進のための指針の公表等)

第七十条の二 厚生労働大臣は、第六十九条第一項の事業者が講ずべき健康の保持増進のための措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。

同法第七十条の二で参照されている第六十九条もお示ししておきます。

(健康教育等)

第六十九条 事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。

 

したがって、同指針は、法律上は努力義務とされている条文に基づくものとなりますが、労働基準監督署の立ち入り検査の際にメンタルヘルス対策として同指針に基づく措置の実施を強く指導されることがあるそうですので、実効性は高い指針と言えるのではないかと思います。

同指針に関しては厚生労働省と(独)労働者健康安全機構のこちらのパンフレットが分かりやすいと思います。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000153859.pdf

同指針のポイントは 衛生委員会等を活用した方針、計画づくりを起点とするPDCAサイクルが意識されていること、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」のいわゆる4つのケアを中心に事業場でのメンタルヘルス対策を進めることとされている点です。特に、4つのケアは重要だと考えられますので名称と内容は暗記しましょう。以下では4つのケアの内容について簡単に説明します(詳細は上記パンフレットを是非ご一読ください)。

 
セルフケア
セルフケアは従業員自身によるケアと言い換えることも出来ます。ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解をしたり、ストレスに気付けるようになることです。
 
ラインケア
ラインケアは、管理監督者によるケアと言い換えることも出来、職場環境等の把握と改善、労働者からの相談対応、職場復帰における支援、などを指します。
 
事業場内産業保健スタッフ等によるケア
事業場内産業保健スタッフ等によるケアの中身は、具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案、個人の健康情報の取扱い、事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口、職場復帰における支援、などが含まれます。事業場内産業保健スタッフ等には、メンタルヘルスケアの企画立案や外部資源との連携など専門家としての知見、経験と事業場に関する情報をもとにした役割を期待されていると言えます。
 
なお、同指針での事業場内産業保健スタッフ等には「産業医等、衛生管理者等及び事業場内の保健師等」に加えて「び事業場内の心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理スタッフ等」が含まれています(上記パンフレット26頁の「10.定義」参照)。現実問題として、小規模事業場においては、産業医や保健師等の医療職が配置されていることは稀で、人事労務スタッフが衛生管理者や産業カウンセラーの資格を取得し、事業内産業保健スタッフ等によるケアを担っている場合が多いです。
 
事業場外資源によるケア
事業場外資源によるケアには、情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用、ネットワークの形成、場復帰における支援、などが含まれます。
事業場外資源は事業場外でメンタルヘルスケアヘの支援を行う機関及び専門家を指す言葉で、いわゆる外部相談機関以外にも産業保健総合支援センター(地域窓口)、健康保険組合 労災病院等が含まれていることが特徴です。
 
ここまでで選択肢①は適切な選択肢だと分かります。
 
 
 

設問文②

設問文②は、上記指針の中のラインケアに関する部分を読めば不適切な文章だと分かります。上記指針のパンフレットの16~18頁をご参照下さい。

管理監督者には、部下の服装や言動で「いつもと違う」と感じた場合には、部下の話を聞いて(特に傾聴が重要)、産業医等の専門家につなぐ役割が期待されています。医師ではない管理監督者には病気の診断は求められてはいませんが、部下の不調に気付く、話しを聞く、産業医等の専門職につなぐまでは管理監督者に期待されている役割です。もちろん、普段強圧的に接している上司に呼び出されるような場合には従業員が却ってストレスに感じてしまいますので、日頃から部下と気軽に話せる関係を構築しておくことが大前提です。

以上のような部下の不調に対する気づきや、相談対応に加えて、休復職対応、照明、温度、作業レイアウト、仕事の進め方などを改善してストレス低減を図るいわゆる職場環境の改善もラインケアに含まれている点にも注意が必要です。

設問文③

設問文③は男女雇用機会均等法に関する設問文です。男女雇用機会均等法は正式名称を「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」と言い、当初は雇用の面での男女の均等な機会の達成を主な目的として制定されましたが、昨今では、同法第十一条および第十一条の2を根拠とするいわゆるハラスメント対策が社会的な注目を集めることが多くなっています。

同法では第11条において、いわゆるセクシュアルハラスメント対策、同法第十一条の二において、いわゆるマタニティハラスメント対策を事業主に義務付けています。ここは少し細かい部分ですが、マタニティハラスメントのうち妊娠出産に関するものは男女雇用機会均等法第十一条の二、育児休業に関するものは、育児 ・ 介護休業法(正式には育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)の第 二十五条に定められています。こんなところにもいわゆる「縦割り行政」を垣間見ることが出来ます。

<雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律>

(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

3 (略)

 

<雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律>

(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
第十一条の二 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

3 (略)

 

<育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律>

第二十五条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

セクシュアルハラスメント対策については厚生労働省による下記パンフレットが分かりやすいと思います。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/00.pdf

事業主に義務付けられる措置が6頁以降で説明されています。①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発、②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応、④①から③までの措置と併せて講ずべき措置の4つの柱に基づく10項目の措置が求められています。また、5頁の「対価型セクシュアルハラスメント」「環境型セクシュアルハラスメント」についても「初めて聞いた」という方は用語と内容について理解しておきましょう。

同法第十一条の二にもとづくいわゆるマタニティハラスメントの防止に関する措置は2017年1月に施行された比較的新しい規定です。妊娠、出産に関する不利益取り扱いは従来から禁じられていたところですが、妊娠、出産に関して就業環境を害するような言動に対する規制に踏み込んでいることが特徴です。大部ですが厚生労働省による下記の資料の5~11頁が参考になります。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000137179.pdf

パワーハラスメントに関しては、現状(2018年4月2日現在)法的な根拠のある防止措置がありません。弊社ブログでも以前触れましたが、昨年職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会が開催され法規制化も含めて議論がされました。議論の中では法規制まで踏み込むべきだという考え方と、パワーハラスメントに該当する行為の曖昧さ等から啓発に留めるべきという考え等が対立し、先日公表された報告書(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11909500-Koyoukankyoukintoukyoku-Soumuka/0000201264.pdf)においても法規制化も含めたいくつかの政策の選択肢が提示された段階です。

パワーハラスメントの防止措置の法規制化までは少し時間がかかるとみて良いと思います。現時点での結論が上記報告書の27~29頁にまとめられておりますので、この部分だけでも目を通しておくと良いでしょう。

以上を踏まえると「男女雇用機会均等法に基づく指針がパワーハラスメントに防止措置を義務付け」という点が誤りなので設問文③は不適切です。

設問文④

最後は自殺対策基本法に基づく設問文です。自殺対策基本法は自殺者が3万人を超えていた時期に自殺予防を目的として2006年に施行された法律です。同法第十二条にあるように、自殺対策の具体的な内容は自殺総合対策大綱に示されています。

(自殺総合対策大綱)
第十二条 政府は、政府が推進すべき自殺対策の指針として、基本的かつ総合的な自殺対策の大綱(次条及び第二十三条第二項第一号において「自殺総合対策大綱」という。)を定めなければならない。
 自殺総合対策大綱は大部なのでまずは下記資料で概要を掴みましょう。
 
 
 
自殺総合対策大綱の本文は以下です。さらっと読むだけでも厚生労働省のみならず文部科学省、経済産業省など多くの省庁が関わって総合的な対策を打ち出していることが分かります。
 
 
 
 
大綱の最終頁には下記のように書かれてあり、5年を目途に見直しすることが規定されています。労働災害防止計画もそうでしたが、この手の計画や大綱の見直しは5年であることが多いです。
 
4.大綱の見直し
本大綱については、政府が推進すべき自殺対策の指針としての性格に鑑み、社会経済情勢の変化、自殺をめぐる諸情勢の変化、本大綱に基づく施策の推進状況や目標達成状況等を踏まえ、おおむね5年を目途に見直しを行う。
ここまでで設問文④は適切な文章であることが分かります。
 

まとめ

適切な設問文は①と④なので選択肢としては①④の組み合わせの、2が正答になります。
 
 

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以 上
 
 

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