パワーハラスメントの防止措置が義務化へ

2018年12月14日に厚生労働省労働政策審議会 (雇用環境・均等分科会)において、「女性の職業生活における活躍の推進及び職場のハラスメント防止対策等の在り方について(報告書案)」が提出され、パワーハラスメントの防止措置を事業主に義務付ける方向性が決定しました。

https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000456686.pdf

同審議会での議論は、「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」における使用者側代表者、労働者側代表者、研究者代表者等による議論を受け継いだものです。検討会から審議会に至るまで、パワーハラスメント行為そのものを罰則対象とすることを求める意見と、パワーハラスメントの定義や正当な指導との線引きが難しいため法規制化に反対する意見が対立しておりましたが、パワーハラスメントの防止措置を法的に義務付けることで方向性が決定したものです。

パワーハラスメントの防止のために事業主が取るべき措置の内容については、今後制定される指針によって具体化される予定ですが、既に事業主に対する防止措置が義務化されている、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に対するハラスメントと同様の措置が求められるのではないかと考えられます。

セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に対するハラスメントについて事業主に求められる措置はこちらです。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000137179.pdf

パワーハラスメント防止に関しても、事業主の方針の明確化及びその周知・啓発、相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、職場におけるパワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応、パワーハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置等が義務付けられるものと思われます。

セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に対するハラスメントと比較して、パワーハラスメントについては、潜在的な対象者の拡大と実際の解釈の難しさがその特徴と言えます。

潜在的な対象者の拡大という意味では、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に対するハラスメントでは、主に女性が被害者になることが多かった(※)のに対して、パワーハラスメントは下記のように定義されているため、潜在的には組織内の全社員が対象となり得ます。たとえば、管理職から部下といった関係のみならず、先輩と後輩の関係、あるいは業務上立場の強い部署の社員と立場の弱い部署の社員、といった様々な関係が有り得ます。

※セクシュアルハラスメントの対象には同性に対するものも含まれます。

職場のパワーハラスメントの定義について

ⅰ) 優越的な関係に基づく
ⅱ) 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
ⅲ) 労働者の就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

また、これまでの検討の経緯についても、パワーハラスメントに該当しない正当な指導との線引きが難しいとの意見が出ておりましたが、実際の職場においては、ⅱ) 「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」に該当するか否かの解釈が難しいと考えられます。

報告書案においても、職場のパワーハラスメントの防止措置に関する指針において、パワーハラスメントの典型例、パワーハラスメントに該当しない例を示すことが求められていますが、各企業での取り組みの際には、職場で混乱を招かないように、指針で示された例を参考に、外部の専門家の意見も参考にしながら、自社に適した例を社員に周知することが重要です。その際には、社員にとってなるべくリアリティがある事例、実際に過去に発生した事例をもとに、パワーハラスメントに該当する例、しない例を示すことが有効と考えられます。

弊社の経験からは、パワーハラスメントが疑われる事例の発生する組織とそうでない組織が二極化しており、前者においては、頻繁にパワーハラスメント事例が発生することが多いと感じております。その背景には、パワーハラスメントが起こりやすい組織的な要因が影響していると考えており、今回の機会を捉えて、自組織にパワーハラスメントを生みやすい素地がないか点検してみることも重要と考えております。

たとえば、新卒採用中心で中途採用が少ない組織においては、その組織特有の「常識」が継承される傾向が強く、その「常識」がパワーハラスメントに該当しないかどうか、外部の客観的な視点を入れて点検してみることをお勧めします。たとえば、ノルマ未達者が定期的に部門会議で立たされたまま叱責される、上司や先輩が部下に対して個人的な用事を命じるといったことが許容される組織文化は、パワーハラスメントを生む素地があると言えます。

また、パワーハラスメントは正当な指導との線引きが難しいと言われますが、正当な指導がパワーハラスメントにエスカレートしやすい組織の常として、そもそも社員に対する業務スキルの教育が不十分・非効率である場合が往々にしてあります。

たとえば、現場配属前の教育が不十分なまま現場に配属するといった運用が行われている場合には、現場での指導者の指導負担が重くなり、指導者の言葉が乱暴になったり、叱責がエスカレートするリスクが大きくなります。現場に出る前に、基本動作の現場外でのトレーニング、機械や器具・営業知識等についての理解の確認のような十分な教育とその定着の確認をして、現場の指導者の負担を減らすこともパワーハラスメントの防止につながります。

また、昨今の売り手市場の影響も有って、仕事の大変な面、厳しい面を含めて業務、職業についての正しい認識がないまま配属される、適性を欠いたまま配属されるといった事例を仄聞しますが、パワーハラスメントの防止の観点からは要注意です。そのような場合にも、指導者の負担が重くなり、特に余裕のない現場では、上司や先輩からの指導が厳しくなる傾向にあり、場合によっては、パワーハラスメントにエスカレートしやすくなるリスクがあります。

最後に、パワーハラスメントの加害者の特徴として、ストレスコーピング力やアンガーマネジメント力が欠如している例、何らかの疾患を抱えているため感情のコントロールがしづらくなっている例、それらに加えて加害者自身が家庭の問題や自身のキャリアの問題でストレスを抱えている例が散見されます。そういった場合には、当該対象者を人事部門が産業医、保健師等の産業保健スタッフ、あるいは外部相談機関につなぐといったアプローチが適している場合もあります。

一般に仕事のパフォーマンス管理と言われると、管理職から部下に対する管理がイメージされますが、管理職自身の管理職としてのパフォーマンスにが問題がある場合も多くあります。管理職のパフォーマンスや言動に問題がある場合に、さらに上席の管理職や人事部門等のしかるべき部門に情報が伝わり、適切な対応がされる仕組みになっていることも重要です。

パワーハラスメントの防止措置を義務付ける法案は2019年度の国会への提出が予定されており、施行は2020年度からとなる見込みです。法律、指針で求められる措置に対応することはもちろんですが、パワーハラスメントを生む素地となり得る、自組織の組織文化について再点検する、現場の指導者の負担が重くならないように採用、人材育成の在り方について見直す、管理職の言動に関する情報が人事部や産業保健スタッフに適切につながる体制となっているか等、多角的に検討する機会とすることが重要です。

 

以 上

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