ストレスチェック義務化の勝ち組はどこか?~ストレスチェック市場の現状~

2018年も残すところわずかとなりました。2015年12月1日に義務化されたストレスチェック制度は今月で4年目に入ったことになります。そこで、ストレスチェック市場の現状を概観するため、各ストレスチェックベンダーがホームページや学会にて開示した情報をもとに、ストレスチェックの受検人数をもとにしたストレスチェックベンダーの市場シェアを推計しました。

<シェア推計上の注意点>

  • 自社実施の受検者数をホームページや学会にて開示しているベンダーが非常に少ないため、大手と思われるストレスチェックベンダーであっても今回の結果に含まれていないベンダーが多数存在します。
  • なるべく直近の2017年度分の受検者数をもとにしましたが、2016年までの数値のみ公表されているベンダーは2016年度の数値を利用しました。
  • 開示された受検者数が一定の条件で抽出されたものである場合には当該ベンダーの実際の受検者数よりも少なくなります。
推計結果

調査の結果、下記のストレスチェックベンダー10社で受検者数を把握することが出来ました。

<推計の根拠>
1.労働衛生団体連合会 :平成29年 全衛連ストレスチェックサービス実施結果報告書http://www.zeneiren.or.jp/cgi-bin/pdfdata/20180926141250.pdf

2.アドバンテッジリスクマネジメント:第26回日本産業ストレス学会ランチョンセミナー荒木氏による発表資料

3.保健同人社&ヒューマネージ:同社ニュースリリース http://www.teams-eap.com/information/20180115-100018.shtml

4.ピースマインド・イープ:日本ストレス学会学術総会臼倉氏ほかによる発表資料(http://www.peacemind-jeap.co.jp/files/uploads/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E7%B5%8C%E5%B9%B4%E5%A4%89%E5%8C%96%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf)および同社ニュースリリース(http://www.peacemind-jeap.co.jp/NewsRelease/archives/6)の受検率から推計

5.東京海上メディカルサービス:2017年度 TMSナビ ストレスチェックの結果に関する調査② http://www.tokio-mednet.co.jp/.assets/2017%E5%B9%B4%E5%BA%A6TMS%E3%83%8A%E3%83%93%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E7%B5%90%E6%9E%9C%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E2%91%A1.pdf

6.NEC VALWAY:同社統計分析レポート  2 万人以上の回答がいる利用企業・団体は除去される等抽出処理されている。 https://nec-vw.com/mentalhealth/

7.ジャパンEAPシステムズ:槇本氏・高橋氏による第26回日本産業ストレス学会発表資料

8.ドクタートラスト:日本産業看護学会第7回学術集会瀧澤士ほかによる発表資料 2年分のため1/2でカウント https://kyodonewsprwire.jp/release/201811120235

9.株式会社情報基盤開発:同社ストレスチェックマガジンより弊社集計 https://www.altpaper.net/b/archives/2755

10.メディックス・ハートサポート:同社ホームページの2016年度実績 http://www.medix.or.jp/stresscheckplan/

1位の全国労働衛生団体連合会は300万人近い受検者数となり、2位のアドバンテッジリスクマネジメント以下を大きく引き離す結果となっています。ただし、全国労働衛生団体連合会は会員となっている全国の約90健診機関に全国労働衛生団体連合会方式のストレスチェックを卸す方式で提供しているため、ベンダー単体で考えると、シェア1位は受検者数約140万人のアドバンテッジリスクマネジメントになると思われます。また、3位の保健同人社&ヒューマネージは2社が共同運営しているストレスチェックの結果のため、1社単体で考えると順位が下がる可能性があります。

義務化前の2014年度から義務化後の2017年度への受検者数の変化を見ると、全国労働衛生団体連合会は約7.5万人から約300万人への増加で約40倍(※1)、アドバンテッジリスクマネジメントは約16万人から約143万人への増加で約9倍(※2)となっています。両社がストレスチェック義務化に伴う急激な市場拡大を捉えて規模を拡大したことが伺えます。

※1 平成25年度全衛連メンタルヘルスサービス実施結果報告書および平成29年度全衛連メンタルヘルスサービス実施結果報告書 http://www.zeneiren.or.jp/research_list/index.html

※2 同社リリース「ストレス対処パターンの違いがストレス反応に大きく影響」http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1302339および第26回日本産業ストレス学会ランチョンセミナー資料

全国労働衛生団体連合会については、ストレスチェック義務化以前から定期健康診断の実績が豊富なことや、実施した1事業場あたり人数が約154人となっていることから、定期健康診断と同時にストレスチェックを実施したい中小~中堅規模の企業・団体のニーズを全国規模で取り込むことに成功した可能性があります。

一方で、アドバンテッジリスクマネジメントについては、同社のホームページで公表されている導入企業例を見る限り、東京、大阪などの大都市に本拠を置く大企業を中心にストレスチェック義務化を契機に顧客を増やしたことが伺えます。

また、両社に加えて4位のピースマインド・イープを加えた3社は厚生労働省のストレスチェックの検討会に参考人として招聘(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000063619.html)されたことも、ストレスチェック義務化に際して知名度を獲得する上での強みとなった可能性もあります。

なお、平成 26 年経済センサスによれば、ストレスチェックの義務化の対象となる50名以上規模の事業所の従業員数は約2300万となっています。また、厚生労働省の調査(https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11303000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Roudoueiseika/0000172336.pdf)によれば、ストレスチェックの平均受検率は約78%となっています。

これらからストレスチェック受検者数を推計すると、約1800万人(=2300万×78%)となります。全国労働衛生団体連合会とアドバンテッジリスクマネジメント社の2社の受検者数を合計しても約440万人、全国の受検者に占める割合は約24%と1/4に届かない状況です。現状のストレスチェック市場は、多目に見ても10社程度の大手ストレスチェックベンダーを除けば、受検者数が1万~10万程度の数多くの中・小規模のベンダーが存在する、集中が進んでいない市場と言えます。

ストレスチェック市場において大手ベンダーへの集中が進みにくい背景の1つとして、全国展開をしている大手企業を除けば、企業と地理的に近い地場の健診機関や医療機関で定期健康診断と同時に実施している企業が多いことが推測されます。

併せて、面接指導を実施すべき事業場の産業医が面接指導に対応できない、あるいは、全国展開する大企業の営業拠点など50名未満の事業場で面接指導の希望者が発生した場合に、ストレスチェックベンダーに面接指導が求められることが多いことも、大手のストレスチェックベンダーへの集中が進んでいない原因と推測されます。面接指導は申し出た従業員の勤務する事業場、あるいは近隣の医療機関で実施することが多いため、地場の医師会や医療機関とのネットワークを有する、地場のストレスチェックベンダー(その多くが地場の医療機関や健診機関)が有利になるためです。

今後のストレスチェック市場動向

厚生労働省が公表したストレスチェックの実施状況の全国調査(https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11303000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Roudoueiseika/0000172336.pdf)によれば、300人から900人規模の事業場で実施率93%、1000人以上規模の事業場で実施率99.5%となっており、中堅以上の企業ではほぼ100%に近い実施がされていると考えられます。したがって、未実施の中小企業を除けば市場の伸び代は乏しく、ストレスチェック制度自体に大幅な変更がない限り、ベンダー間のシェアの大きな変動はないと考えられます。

ただし、テレビ電話等での遠隔での面接指導の要件が緩和された場合には、上位のストレスチェックベンダーへの集中が一気に進む可能性があります。現在は、厚生労働省による通達(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150918-1.pdf)により、テレビ電話等での遠隔での面接指導が可能な医師が事実上面接指導を申し出た従業員が勤務する事業場の産業医に限定されています。今後この要件が緩和され、たとえばストレスチェックベンダーから委託された医師によるテレビ電話等を利用した面接指導が可能となった場合には、医師の多い東京のストレスチェックベンダーが地方の遠隔の事業場での面接指導を受託できることになり、大手ベンダーへの集中が一気に進む可能性があります。

また、シェア自体に影響しませんが、弊社では、全国に多数存在する中小規模のストレスチェックベンダーのうち地理的に離れた競合しない複数の企業がストレスチェックシステムを共同開発し共同利用する形態が検討されても良いと考えています。各社がそれぞれ独自にシステムを開発・運用するのではなくシステムを共同開発・共同利用することにより、これまでの各社の実務で得られたノウハウを投入することができること、1社では負担が重くなるセキュリティレベルの高い堅牢なインフラを利用することが出来ることが、受検者の利益につながると考えるためです。共同利用システム内で受検者のデータを統合・集計することで、大手ベンダーに匹敵する規模でのビッグデータにもとづく知見獲得、ベンチマーク作成も可能となります。

労働安全衛生法にもとづくストレスチェック制度においては、ストレスチェックの調査票やアルゴリズムの差別化が難しいことも弊社が共同開発・共同利用が効率が良いと考える理由です。競合するメガバンクの間でも業務効率化のためにATMを共有するという動きが出ている昨今ですので、一考に値するのではないでしょうか?

最後に

今回調査にあたり、ストレスチェックベンダー各社のホームページを調査しましたが、自社の実績、パッケージの特徴、調査分析レポート等の開示が他業界に比べて非常に少ない、ホームページの構造や開示された情報が分かりにくい印象を受けました。各社に対外情報発信の強化、改善を期待したいと思います。

 

以 上

 

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