テレワークに向いている人、向かない人はどんな人?

はじめに

新型コロナウイルス対応で5月6日を期限として宣言されていた緊急事態宣言が5月31日を期限として延長されることになりました。

これを受けて、テレワークの期間を延長したり、あるいはこの機会にテレワークを常態化しようと考えている企業の担当者も多いと思われます。

来年のオリンピック開催を踏まえると、少なくとも東京都内においては、新型コロナウイルスの流行が収束した場合であってもテレワークの利用者が高止まりするのではないかと考えられます。

現状は新型コロナウイルス対応を目的として、業務テレワークが可能な業務は極力テレワークに、テレワークが難しい業務はオフィス勤務で対応するという、業務ベースでテレワークの可否の判断がされることが一般的かと思います。

今後、新型コロナウイルス収束後には感染症防止やBCP目的ではなく、生産性向上を目的としてテレワークが利用されることになると思われます。

その際には、テレワーク可能な業務か否かという業務ベースの判断に加えて、テレワークに向いている人と向いてない人、という個人ベースの可否判断の軸も必要と考えられます。

そこで、今回は、テレワーク利用が日本よりも進んでおり、テレワークに関して研究が多い米国やカナダの研究を参考に、テレワークに適した人はどのような人か考えてみます。

自己効力感との関連に関する研究

まず、2003年に公表された、Raghuramによる自己効力感に関する研究を紹介します。これは、北米の電話通信会社の従業員の756人から回答を得て、個人の自己効力感(自分は物事をやれる、出来ると思える気持ち)と、構造化行動(前向きに計画し、一日を設計する行動)と、テレワークへの適応力との関連を検討した研究です。テレワークにおいては、常に上司から指示を受ける訳ではなく、より自律性が求められるため、特に前者の構造化行動が仕事のパフォーマンスに影響すると考えられます。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S000187910300040X?via%3Dihub

調査の結果、自己効力感が、構造化行動、テレワークへの適応の両方と関連していることが分かりました。すなわち、自己効力感が高いほど、構造化行動が多く、テレワークへの適応が進んでいることが分かりました。

さらにこの研究は、週に3日を超えてテレワークしている人と3日以下の人に分けて、自己効力感と、構造化行動、テレワークへの適応の影響を検討しています。その結果、構造化行動とテレワークへの適応の両方において、週に3日を超えてテレワークしている人の方が、自己効力感との関連が強いという結果となりました。

つまり、テレワークの頻度が高いほど、自己効力感という個人の資質の1つが、テレワークへの取り組み方と関連していることが分かります。

なお、この研究結果は、テレワークの経験の長さ、性別、職種統制して得られた結果となっています。

性格特性との関連に関する研究

次に、テレワーク勤務する従業員による勤務時のネットサーフィンのような仕事外でのインターネット利用行動の要因を検討したO’Neillらによる研究です。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0747563214000752

テレワーク制度を有するカナダの投資系の企業と、人材系の企業の従業員から得られた調査結果をもとに、勤務時の仕事外でのインターネット利用と従業員の性格等の要因との関連を検討しました。なお、回答した従業員は、最低月1日はテレワークを利用していました。

勤務時の仕事外でのインターネット利用と最も関連していたのは、仕事や決定を先延ばしする先延ばし特性で、先延ばししがちな従業員ほど勤務時の仕事外でのインターネット利用をしがちという結果でした。

また、先延ばし特性よりは関連が弱いものの、協調性、正直さが強いほど勤務時の仕事外でのインターネット利用をしにくいという結果が得られています。

この研究では、テレワーク時の満足度と主観的な仕事のパフォーマンスと従業員の性格等の要因との関連についても検討しました。その結果、誠実さがテレワーク時の満足度と主観的な仕事のパフォーマンスと最も関連が強いという結果が得られています。

テレワークにおけるマネジメントへの示唆

以上の2つの研究からは、自己効力感の高い従業員にはテレワークを許可しても生産性の低下につながりにくいと考えられるが、先延ばし傾向のある従業員、協調性、正直さに欠ける従業員にテレワークを許可すると生産性が落ちる可能性があるということが言えます。

自己効力感や、協調性、正直さは性格検査のような専門的な測定がされることで測定されますが、普段の仕事ぶりを観察している上司が判断することも出来ると考えられます。

たとえば、自己効力感については、新しい業務を指示したときに、積極的に取り組む姿勢があるか、逆に出来ない理由を並べるかといった点から判断することが出来ると考えられます。出来ない理由を並べる従業員は自己効力感が低いと判断して良いでしょう。

同様に、上司が指示した業務や社内の提出物の期限が守れないといった行動が目立つ従業員は先延ばし傾向が強いと考えて良いでしょう。

テレワーク利用が多い企業において、テレワークの出来ない従業員は不公平感を感じやすいという研究結果(※)もありますので、同じ部署で極端に差をつけることは望ましくないですが、自己効力感や先延ばし傾向から判断して、部下のテレワーク可能な日数を週2日から5日の間で上司の判断で個人別に設定することは検討しても良いと思います。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0018726707084303

また、そういった個別の対応が難しく一律にテレワークを許可する場合にも、先延ばし傾向の強いと思われる従業員については、テレワーク時の進捗管理を細かく行うことで、テレワークによる生産性の低下を防ぐことが可能と考えられます。

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