テレワーク下でのストレスチェックを活用するには?
はじめに
今回はテレワーク下でのストレスチェックのポイントについて述べたいと思います。
ストレスチェックの目的はメンタルヘルス不調の未然防止です。テレワーク下でのストレスチェックにおいても、メンタルヘルス不調の未然防止を目的とすることに変わりはありませんので、テレワーク下においても、従業員のメンタルヘルスの状態を把握し、同時にメンタルヘルス不調につながりそうな要因をストレスチェックで把握し、対策実施のための材料とすることがポイントとなります。
テレワーク頻度・時間との関連を把握する
テレワーク下でのストレスチェックにおいては、テレワーク利用頻度・時間を把握して、職場環境要因やストレス状況との関連を分析することをお勧めします。
これまでの学術研究において、テレワークの利用頻度・時間がメンタルヘルス不調と直接あるいは間接的に関連している可能性が示唆されており、テレワーク施策の従業員のメンタルヘルスへの影響を考慮する上で有益な情報となるためです。
各社員のテレワークの利用頻度・時間を人事部門がデータ化している場合には不要ですが、そうではない場合は性別、年齢層といったストレスチェック時に収集する属性項目として、テレワークの利用頻度・時間を含めることをお勧めします。
時間単位のテレワークを実施している場合は、週当たりのテレワーク時間数を尋ね、日単位のテレワークを実施している場合は、週当たりのテレワーク日数を尋ねると良いでしょう。
従業員のメンタルヘルス状況へのテレワークの影響の検討
次に、従業員のメンタルヘルスの状況の把握ですが、職業性ストレス簡易調査票(57問)、新職業性ストレス簡易調査票(80問)にストレス反応に関する項目が含まれていますので、その結果を把握します。
特に、ストレス度が高いと考えられる高ストレス者比率については前年度の結果と比較することが重要です。また、単純な昨年度との比較でなく、テレワーク頻度・時間での高低(多少)別に高ストレス者比率を集計し、昨年度と比較することをお勧めします。
テレワーク利用頻度が低い従業員では高ストレス者比率が昨年度と変わらないが、テレワーク頻度が低い従業員では高ストレス者が上昇した、あるいは低下したという結果が出た場合には、今年度開始したテレワーク利用が従業員のメンタルヘルス状況に何らかの影響を及ぼしていることが示唆されます。
より深堀りするためには、テレワークの頻度・時間と、ストレスの原因、ストレスを緩和する要因(緩衝要因)の関連を分析することをお勧めします。
具体的には、、職業性ストレス簡易調査票(57問)、新職業性ストレス簡易調査票(80問)に共通に含まれている「仕事の量的負担」、「仕事の裁量度」、「上司の支援」、「同僚の支援」との関連を分析します。これらの4要因に注目するのは、総合健康リスクという職場の状況を把握する指標の算出要素となっているためです。
テレワークを実施している企業において、テレワーク利用頻度・時間が高い従業員において、「仕事の裁量度」は上がっている、「上司の支援」はあまり変化ないか、やや低下、「同僚の支援」は相当程度低下しているのが典型的な結果と言えます。このような結果が得られた場合には、テレワーク利用の多い従業員において「同僚の支援」が低下していることの弊害が生じないような対策が望まれます。
仕事と家庭生活(プライベート)の葛藤・対立の分析
テレワーク下において注目すべき要因として、仕事と家庭生活の対立・葛藤が考えられます。これまでの学術研究からも、テレワークによって家庭生活との両立がしやすくなるプラス面と、逆にテレワークによって家庭生活との境界が曖昧になることによる弊害の両面が指摘されています。テレワークによる弊害のうち主なものは、家庭生活(プライベート)が仕事のパフォーマンスに悪影響している、あるいは逆に仕事が家庭生活(プライベート)に悪影響しているというものがあります。
そこで、たとえば、下記のような設問を追加してみては如何でしょうか?
- 仕事が原因で家庭生活(プライベート)に支障が出ている
- 家庭(プライベート)の問題が原因で仕事に集中できないと感じる
選択肢としては、「ちがう・ややちがう・まあそうだ・そうだ」を用意します。
それらの設問とテレワークの頻度・時間の関係、さらには、高ストレス者比率の関係を分析します。その結果、たとえば以下のような結果を得ることが出来るかもしれません。
ここまででの結果を併せて、たとえば、テレワークの頻度・時間と「仕事が原因で家庭生活(プライベート)に支障が出ている」に関連があり、「仕事が原因で家庭生活に支障が出ている」と高ストレス者比率との関連があるのであれば、テレワークの頻度が多いことが、家庭生活に影響して従業員のストレスにつながっている可能性があります。具体的には、自宅で勤務することにより家族関係に不和が生じている、同居する家族に気をつかいながら仕事をすることがストレスになっているといった状態が考えられます。
その場合には、たとえば、一部の社員だけがテレワークするのではなくテレワーク可能な従業員によるオフィス勤務とテレワークとのローテーション制にするといった施策を検討することが考えられます。
あるいは、時差出勤等で感染リスクを低減しつつ、テレワークを午後の業務限定としたり、最大週5日まで認めていたテレワークを最大週3日を原則としてテレワーク時間数を減少させるといった施策を検討します。
逆に、分析の結果、テレワークの頻度・時間と「仕事が原因で家庭生活に支障が出ている」に関連がなく、「仕事が原因で家庭生活に支障が出ている」と高ストレス者比率の間に関連がある場合には、テレワークとは別に、仕事が家庭生活に影響している可能性があります。たとえば、残業時間が長いため、家庭生活との両立が難しくなっていない等他の要因の可能性を検討することになります。
まとめ
テレワーク下においてストレスチェックを有効活用して従業員のメンタルヘルス状況を把握する方法のまとめです。
- テレワークの頻度・時間に関する設問を追加する。
- 「仕事から家庭(プライベート)への影響」、「家庭(プライベート)から仕事への影響」を測定する項目を追加する。
- テレワークの頻度・時間と高ストレス者比率の関連を分析する。
- テレワークの頻度・時間と「仕事の量的負担」、「仕事の裁量度」、「上司の支援」、「同僚の支援」の関連を分析する。
- テレワークの頻度・時間と「仕事から家庭(プライベート)への影響」、「家庭(プライベート)から仕事への影響」を測定する項目の関連を分析する。
- 「仕事から家庭(プライベート)への影響」、「家庭(プライベート)から仕事への影響」を測定する項目と高ストレス者比率の関連を分析する。
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以 上