COVID-19のメンタルヘルスへの影響

はじめに

日本全国では新型コロナウイルスの感染者数が一旦落ち着いたかに見えましたが、東京都を中心として再び感染者数の増加が見られる状態が続いています。

経済活動の再開が図られる一方で、かつてのような自由な活動が制限されている現状においては、閉塞感や不安感といったストレスを感じている人が多いと推察します。

そこで、今回は、新型コロナウイルス(COVID-19)が、日本の人々のメンタルヘルスにどの程度影響を及ぼしているかを検討したいと思います。

メンタルヘルスの状態を測定するには

メンタルヘルスの状態は目に見えない概念のため、その測定には調査票が用いられることが一般的です。メンタルヘルスを測定するための調査票には非常に多くの種類がありますが、今回は、K6という国際的に有名な不安や抑うつ症状を測定する調査票を用いた調査や研究に限定して検討します。

K6はハーバード大学の研究者によって開発された調査票で、日本語版を含む世界各国の言語版が作成されています。

K6では、「過去30日の間にどれくらいの頻度で次のことがありましたか?」という質問に対する回答で測定します。具体的には、下記の6項目に対する回答を、「全くない=0点、少しだけ=1点、ときどき=2点、たいてい=3点、いつも=4点」のように数値化して合計することでメンタルヘルスの状態を測定します。

1.神経過敏に感じましたか
2.絶望的だと感じましたか
3.そわそわ、落ち着かなく感じましたか
4.気分が沈み込んで、何が起こっても気が晴れないように感じましたか
5.何をするのも骨折りだと感じましたか
6.自分は価値のない人間だと感じましたか

上記の6項目を上記の合計して一定以上の得点である場合に、うつや不安の問題があると判断することが一般的です。研究者の世界では下記の3段階の基準が用いられることが多く、とりわけ5点以上、あるいは13点以上に該当することをもって基準とすることが多いです。

5 点以上: 何らかのうつ・不安の問題がある可能性
10 点以上: 国民生活基礎調査で、うつ・不安障害が疑われるとされる
13 点以上: 重度のうつ・不安障害が疑われるとされる

参考:「うつ・不安に対するスクリーニングと支援マニュアル」

https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/phn/depanx_manual.pdf

新型コロナウイルスによるメンタルヘルスへの影響

まず、緊急事態宣言中の2020年4月17日から5月6日にかけて全国1万人として実施された三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)が公表している調査結果を見てみましょう。

https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2020/06/survey_covid-19_200601.pdf

同調査結果の図表1をもとに計算すると、K6の5点以上に該当した人は全体で51.9%となっています。年代別に見ると、若年者ほどK6の5点以上に該当した人の割合が高い傾向が伺えます。

同調査結果では、「平成 28 年 国民生活基礎調査」の結果と比較しています。「平成 28 年 国民生活基礎調査」においては、K6の5点以上に該当した人は全体で32.2%となっています。特筆すべきなのは、年代による差がほとんどない点です。

MURCが実施した調査と「平成 28 年 国民生活基礎調査」は同一のサンプルではなく調査方法も同一ではないのですが、どちらも全国の人々からほぼ無作為に抽出されたサンプルであると仮定すると、新型コロナウイルスによる精神的な影響は若年者ほど大きかった可能性があります。また、 「何らかのうつ・不安の問題がある可能性」というK6が5点以上という基準で見ると、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下では、コロナ以前と比較して約20%高かったと言えそうです。

次に、この数字を、過去の日本の大災害時の被災者のデータと比較したいと思います。

まず、2013年10月から2014年1月にかけて実施された、東日本大震災に伴う福島第一原発の事故による影響で仮設住宅で居住する人を対象にした研究の結果と比較します。

https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/track/pdf/10.1186/s12888-016-1134-9

この研究では、全体では33.8%が、K6で5点以上に該当していました。

次に、東日本大震災の影響で宮城県仙台市の仮設住宅で居住している人を対象とした縦断研究から得られた結果とも比較してみます。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5942419/pdf/bmjopen-2017-018211.pdf

この研究では被災から半年が経過した2011年9月から 2016年1月時点まで追跡可能だった284人が分析対象となっています。仮設住宅における居住期間別に、K6が5点以上に該当した人の割合が示されており、居住期間が3年未満の人は59.6%、3年から4年未満は57.6%、4年以上は62.2%となっています。

以上の結果を踏まえると、日本においても緊急事態宣言が宣言されていた時期に人々が感じていた不安や抑うつの程度は、東日本大震災の被災者で仮設住宅に居住する人に次ぐ水準だった可能性があります。

まとめ

今回は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下において、日本の人々が感じていた不安や抑うつ度について、調査結果や研究論文をもとに検討しました。

あくまでK6という調査票で捉えられるメンタルヘルスの状態という留保条件付きですが、今回の緊急事態宣言下で人々が感じていた不安や抑うつの程度は東日本大震災の被災して仮設住宅に住んでいる人の感じていたものに匹敵する可能性があることが分かりました。

なお、東日本大震災の被災者においては、K6で捉えられない他のストレス反応や、PTSDといった症状が認められたことが分かっており、今回の新型コロナウイルスの影響についても不安や抑うつ以外のメンタルヘルスの影響も考えられます。

過去の大災害時の経験も参考にしながら、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う様々な措置により、人々のメンタルヘルスにどのような影響が生じ、どのような心理的なケアが必要かを科学的なメンタルヘルスの測定を根拠に検討していく必要があると考えられます。

以 上

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