テレワーク格差による「本社」v.s.「現場」の分断が起こる?
はじめに
緊急事態宣言解除後に一旦収束したかに見えた新型コロナウイルスが、再び感染拡大の様相を見せています。それに伴い、一旦原則オフィス出社とした企業が、原則テレワークへ変更した例も仄聞します。そこで今回は、改めてテレワークの状況やテレワークに分断の可能性について考えてみたいと思います。
テレワークを巡る状況
緊急事態宣言解除後以降のテレワークに関する状況を知るために、パーソル総合研究所による調査結果を見てみましょう。同研究所は継続的にテレワークに関する調査を実施しており、今回は第三回目(2020年5月29日 – 6月2日実施)の結果となります。
https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/data/telework-survey3.html
同調査によると、全体としては、テレワーク実施者の割合は低下しているのですが、職種や業種によるばらつきが大きいことが分かっています。
7都道府県に緊急事態宣言が宣言された4月10日~12日と比較すると、コンサルタントは74.8%、経営企画は64.3%、商品開発・研究は56.5%と、4月比で10ポイント以上増えたテレワーク実施者の割合が状上昇した一方で、販売職は5.4%、理美容師は2.6%、配送・倉庫管理・物流は6.3%、医療系専門職は3.6%と、4月と比較しておよそ半減した結果となっています(図表4)。
また、業種別にテレワーク実施率をみると、情報通信業は63.9%と4月比で10.5ポイント増、学術研究・専門技術サービス業は52.0%と同7.5ポイント増となったが、生活関連サービス・娯楽業は16.0%と同8.4ポイント減となっています。
つまり、テレワークに適している、あるいはテレワークによる支障が少ないと考えられるホワイトカラー系の職種や業種ではテレワークが継続しており、逆に、テレワークが難しいいわゆる現場系の業務は、テレワークではなくオフィスや現場への出社が復活していると言えます。
別の調査も見てみましょう。経済産業研究所の森川氏によるディスカッションペーパーです。本ディスカッションペーパーは在宅勤務の生産性の検証を主な目的としていますが、在宅勤務者にどのような属性が多いのかも検証しています。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/20j034.pdf
上記ディスカッションペーパーによれば、「20 歳代及び 30 歳代、大学及び大学院、賃金、通勤時間、情報通信業、営業職、企業規模1,000 人以上の係数はいずれも統計的に有意な正値」となっています。つまりこれらの属性は在宅勤務をしやすい属性と言えます。
一方、「運輸業、医療・福祉といった産業、販売職、生産工程職種の係数は有意な負値」となっており、これらの属性は在宅勤務をしづらい属性と言えます。
LINE社と厚生労働省による全国約2400万人を対象にした調査では、こういった、在宅勤務をしづらいと考えられる職種では発熱率が比較的高いことが知られています(表1)。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10798.html
以上の結果を踏まえると、緊急事態宣言解除後は、テレワークしやすい職種や業種ではテレワークが継続しており、テレワークが難しい特定のグループの勤労者は感染リスクを抱えながら、業務に従事していると言えます。
テレワーク出来ない人の不満感
前節で述べた、テレワークしているグループとそうでないグループの分離が、同じ企業内で起こった場合には、従業員の不公平感を招く可能性があります。
たとえば、東京に本社があり、全国に販売拠点や製造拠点を持つような企業を考えてみます。そのような企業の場合、東京の本社で企画、調査、管理系の業務に従事している従業員は原則テレワーク、販売拠点や製造拠点では原則現場に出社となっているのではないかと思います。その場合、出社している従業員からすると、テレワークをしている本社の従業員に対して不満を感じることも想像されます。
テレワーク実施者がいる職場において出社を余儀なくされる従業員の不満感については、下記のパーソル総合研究所の調査結果が参考になります。
https://rc.persol-group.co.jp/news/202006100001.html
同調査では、「職場のテレワーカー比率と心理的ストレス」の箇所で非常に興味深い結果が出ています。職場におけるテレワーカーの比率が高くなるとともに、テレワーカーに対する出社者の疑念・不満も高くなっていくことが示されています(図表8)
今後の新型コロナウイルスの感染状況によりますが、ワクチンや特効薬が登場するまで、現状の感染拡大防止のための取り組みは継続する見込みです。そうした場合に、1つの企業内で、本社のテレワーク組、販売・製造現場の非テレワーク組のような分離が常態化してしまうと、組織の一体感が失われてしまう懸念があります。仮に、販売拠点や製造拠点で感染が発生し休業を余儀なくされた場合に、企業から十分な休業補償がされない場合には、両者の対立が先鋭化してしまう可能性があります。
終わりに
日本においては、企業の「強い現場」、「家族主義」といった特徴が高度経済成長に一定の貢献をしたと考えられています。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴うテレワークの普及は、仕事の仕方・自由度を高める意味では福音ですが、テレワークを利用できる/できないが、特に本社と現場で分かれてしまうと、本社と現場の分断が進み、組織の一体感が喪われることにより、企業の競争力の一部が損なわれてしまう可能性を持っています。
米国における暴動の問題は人種間の経済格差・分断が一因となったと言われていますが、日本においても、本社と現場のテレワーク格差・分断が、将来的に企業経営にとって大きな問題となる可能性があります。
以 上
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