測定機器でのストレス測定に意味はあるのか?

はじめに

昨今、コロナ禍の影響もあって従業員のストレスを測定するツールが注目されています。特にテレワークによるメンタルヘルス不調の予防を目的として、従業員に対するストレス測定を実施している企業が多いようです。

日清食品ホールディングスでの取り組み

https://www.nissin.com/jp/news/8820

現在、ストレスを測定する機器が多くの企業から販売されています。以下に挙げたのはほんの一例で、腕時計型のものやカメラで撮影した画像をもとにしたもの等たくさんの種類が開発されて販売されています。

村田製作所「疲労ストレス計 MF10」

https://medical.murata.com/ja-jp/products/fatigue

日立システムズ「疲労・ストレス測定システム」

https://www.hitachi-systems.com/ind/fses/

トントゥシステム ストレス・スキャナー

https://www.tonttu.co.jp/stress-scanner/

今回はこういったストレス測定ツールを導入しようと思う前に少し考えるべきことについて説明したいと思います

そもそもストレスとは?

まず考えたいのは、そもそも「ストレス」とは何かということです。「ストレス」というのは人間が環境に適応するために備えている生体反応のひとつです。

人間が、脅威に直面した場面を考えてみましょう。脅威は、原始時代であれば、自分より大きな捕食者に出会った、転倒して怪我を負った等が考えられます。現代社会であれば、顧客訪問のために電車で移動中に電車が停止してしまった、顧客から思わぬクレームが入った等が考えられます。

人間の脳が脅威を認識すると、いわば「闘争モード」に入るためにホルモンや神経系の働きに変化が生じます。その結果、例えば、心拍数が上がったり血圧が上がったりというといった生理的な反応が表れます。

脅威を感じている状態が長期化すると、イライラしたり、悲しくなったりという心理的な反応、眠れなくなったり首が凝ったりという身体的な反応、暴飲暴食などの行動面の反応としても表れてきます。

そうした脅威に直面した際の生理的、心理的、身体的、行動的な反応を総称して「ストレス反応」と呼びますが、市販されている「ストレス」を測定する装置では、そうした「ストレス反応」の一部、たとえば、脈拍や心拍数を測定するものが多いように思います。

ここで、注意したいのは、そもそも、ストレス反応は、人間が生きていくために必要な当然のメカニズムである点です。

自分にとって脅威となる事態が発生した場合は、自らの持てる資源を総動員して脅威への対処に当たる必要があります。原始時代に巨大な捕食者の影が見えた時に、一旦他の考えを止めて、どちらの方向に逃げるかを瞬時に判断し走り出すようでなければ人間は生き残ることが難しかったでしょう。

現代社会においても、仕事の大事なプレゼンテーション直前は心拍数が上がるとか、手に汗を握る等が起こると思いますが、こうしたストレス反応は集中力を向上させて良いパフォーマンスを出すために必要な反応と言えます。

したがって、「ストレス=悪者」という決めつけることは出来ず、例えば大事なプレゼンテーションの数日前から心拍数が高めになっていること自体が悪いとは一概に言えないことになります。

そもそもなぜストレスを測定するのか?

ここで、そもそも、なぜストレスを測定しようとするのかの目的に立ち返って考えてみてはどうでしょうか。

そもそも、多くの企業がなぜ従業員のストレスを測定しようと考えるに至ったかを推測すると、従業員のメンタルヘルス不調を防ぎたいからということではないでしょうか?そうであれば、やるべきことは、防ごうとしている従業員のメンタルヘルス不調を予測できるようなストレス反応をしっかり特定し測定することです。

したがって、導入しようとしているストレス計測機器が測定している「ストレス」がそのようなメンタルヘルス不調を予測できるものなのか、将来のメンタルヘルス不調につながるような兆候を検知するような機能が実装されているのかを確認することが基本となります。また、将来のメンタル不調の予測精度が科学的に検証されているのかの確認は当然必要と言えるでしょう。

導入する企業の態度としても、ストレス計測機器を従業員に貸与・配布しておしまい、ではなく、ストレス計測機器のフィードバックとして何らかのアラートが発出された際に、従業員が適切に対処できるように支援する態勢も必要です。フィードバックをどのように理解し行動すれば良いかの事前の十分な説明をすることに加えて、人事部門あるいは健康管理室が、従業員からの機器の利用やフィードバック結果に関して相談に乗るような態勢が整っていることも重要です。

ストレスだけがメンタルヘルス不調の原因ではない

また、必ずしもストレス反応だけが メンタルヘルス不調に寄与する因子であるとは限らない点にも注意が必要です。

例えば他者からの支援がメンタルヘルス不調の予防に有用であることが知られています。具体的には、職場の上司や同僚、家族、友人に相談出来たり、支援を求めたりすることが出来るかどうかも将来のメンタルヘルス不調と大きく関連してることが分かっています。

したがって、ストレス仕事で非常に重要なプロジェクトに配属されて長期間緊張感の下で働いてる場合はストレス反応が継続している状態かもしれませんが、仕事が終わった後で家族と団欒を楽しめたり、同僚と定期的に食事や飲みに行く等でリフレッシュできる環境があれば、メンタルヘルス不調に陥りにくくなると考えられます。逆に、そうした重要なプロジェクト内において各自が孤立した形で黙々と作業して上司や同僚間の関係性が希薄である、プライベートでも家族友人との付き合いがないという状態の場合は、ストレス反応が継続している期間が短くてもメンタルヘルス不調に繋がってしまう可能性があります。

まとめ

今回説明した内容をまとめると以下となります。

  • ストレス反応は人間としての当然の反応であり、単純に「ストレス反応=悪者」ではない。
  • ストレス測定機器が測定している「ストレス反応」もとにしたフィードバックが、将来のメンタルヘルス不調を予測するものかを確認するとともに、従業員がそうしたフィードバックに適切に対処できるような態勢を整える。
  • ストレス反応以外の他者からの支援が得られているかもメンタルヘルス不調に影響することに留意する。

以 上

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