パルスサーベイやエンゲージメントサーベイを導入する前に考えるべきこと

はじめに

「従業員エンゲージメント」という言葉がここ数年間で注目を浴びるようになりました。それと軌を一にして、従業員エンゲージメントを測定するツールが多くのベンダーによって提供されるようになっています。

2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大の防止のためにテレワークが急速に普及したこともあって、従業員の状態を直接観察できないため、経営層や人事部門が従業員のエンゲージメントがどうなっているのか把握したいというニーズが高まっているように感じます。

また、2020年のコロナ禍の影響で、1年に1回の従業員満足度調査よりも回答頻度の高い、いわゆる「パルスサーベイ」へのニーズも高まりつつあると感じています。

下記は弊社によるパルスサーベイセミナーの動画です。

2020年以前には、エンゲージメントメントサーベイやパルスサーベイの提供を専業としている企業によるサービス提供が多かった印象ですが、2020年以降には、人事管理システムや採用プラットフォームを提供しているベンダー等を含むさまざまなベンダー企業からも、エンゲージメントサーベイやパルスサーベイが提供されるようになっています。

その結果、多くの企業において従業員がエンゲージメントサーベイやパルスサーベイに回答する状況になりつつあると言えるのではないかと思います。

参考までに、2020年以降にリリースされたパルスサーベイの例を示しました。

ビッグママ社によるMind Weather(マインドウェザー)

Wantedly社によるPulse

https://www.wantedly.com/companies/wantedly/post_articles/241730

アスマーク社によるPulsign

テレワークを全面的に導入した事業会社においてもパルスサーベイの活用を検討する動きが出てきた点も注目されます。

従業員の高い自律性と信頼に基づいたピープルマネジメントにより、チームとしての成果の最大化や生産性向上を実現します。また、各々が物理的に離れた場所で仕事をする働き方へと大きく変容することに対する従業員からの声を随時吸い上げたり、仕事の状況を可視化、分析するデジタルプラットフォームを活用し、働き方の最適化を追求し続けます。

【実現に向けた施策】

ジョブ型人事制度の一般従業員への適用拡大。(2020年度中に労働組合との検討開始)

上司・部下間の1対1コミュニケーションの充実に向けた、全従業員対象の1対1コミュニケーションスキルアップ研修の実施。(2020年7月から実施)

従業員の不安やストレスの早期把握と迅速な対応を目的としたパルスサーベイ注6)、ストレス診断の実施。(2020年7月から実施)

「FUJITSU Workplace Innovation Zinrai for 365 Dashboard」を活用して蓄積されたメールや文書のタイトル、スケジュールなどのデータからAIで業務内容を可視化することで、現状の働き方の課題を抽出し、さらなる生産性の向上や業務の質の改善を実現。(2020年7月から順次展開)

社給スマートフォンの国内グループ全従業員への貸与拡大(注7)と、「Microsoft Teams」などのコミュニケーションツールの活用や業務システムとの連携強化による利便性向上。(2020年度中に開始予定)

富士通株式会社 2020年7月6日付プレスリリース https://pr.fujitsu.com/jp/news/2020/07/6.html ※太字は㈱ベターオプションズによる

構造的な組織課題に向き合えるか

以上に述べたようなサーベイ、特にパルスサーベイにおいては、毎日あるいは毎週といった従来の従業員 満足度調査(ES)に比べると高い頻度での回答を求められることになります。従業員にとっては日常業務をこなしながら回答することが求められ、業務負担が増えることになります。

パルスサーベイに代表されるサーベイを導入する意図としては、人事部門あるいは経営部門としては従業員の状態を一覧で把握するといった点があると思いますが、人事部門や経営部門が「見てるだけ」と従業員が感じてしまうと、従業員の回答するモチベーションは次第に低下していく可能性が非常に高いと言えます。

したがって、人事部門や経営部門が、サーベイにとって得られた結果をもとに、従業員が回答のメリットを感じられるような具体的なアクションを取っていくことが重要と言えます。

パルスサーベイにおいてもエンゲージメントサーベイにおいても、共通して言えるのは、もともと企業が内包している課題が数値化されて表れることが多いということです。特に、特定の部門、職種で、結果が良くない従業員が多い、特定の部門全体で結果が悪いという結果が得られがちです。

ここではエンゲージメントサーベイを例に取ります。エンゲージメントと一口に言っても定義が各社各様でさまざま違うのですが、A社のエンゲージメントサーベイでも結果が良くない部門は、B社のエンゲージメントサーベイにおいてもやはり結果が良くない、つまり、ベンダーによって得られる結果には大差ないことが多い印象です。ここでは、エンゲージメントを、「仕事に対して積極的に取り組んでいる状態」、「仕事にやりがいを感じている状態」、「勤務先に愛着を感じている状態」として考えておきます。

エンゲージメントサーベイを実施して結果の良くない部門には下記のような特徴があることが多いです。

  1. 一日中ルーチン業務に忙殺される
  2. 顧客対応のように顧客要望に振り回されがちで感情労働の負担が重い
  3. 昇格のためのキャリアパスが不明瞭(または存在しない)
  4. 一人の管理職に対して部下が多過ぎる
  5. 社内的な発言力がないため業務に必要な設備の配備等で後回しにされる
  6. 新入社員の配属人気が低い
  7. ノルマ達成のためのプレッシャーが重く労働時間が長い。
  8. 日常業務が社内的に価値を認められる機会がない

上記のような課題は、エンゲージメントサーベイ導入前に既に企業内で認識されていることが多く、エンゲージメントサーベイの実施によって改めて浮き彫りになることが多いです。また、上記のような課題は、そもそもの組織設計に由来することが多く、一般的な組織開発で改善することが難しいことも問題を一筋縄で行かないものにしています。

あえて導入しないことも選択肢である

上記のような部門の課題に対して、具体的なアクションを取る予定がない、あるいは改善のためのノウハウがないという場合には、エンゲージメントサーベイを一度実施して課題を確認するに留め、特に従業員に負担の重いパルスサーベイを敢えて導入しないというのも戦略としてあり得ると思います。

なお、パルスサーベイを全社展開する前に一部の部門でトライアルを実施するとことが多いと思います。その場合は、導入担当部門がトライアルを実施する部門になりがちですが、導入担当部門は、結果が比較的良いことが多く、従業員もパルスサーベイのようなツールに理解があることが多いといった点で、パルスサーベイに対する評価がポジティブな印象に偏ってしまう点には注意が必要です。そのため、いざ全社展開すると、業務の忙しい部門や課題の多い部門から想定以上の反発を招いてしまい全社展開に失敗するということも起こり得ます。

パルスサーベイのような負担の重いツールを導入するのであれば、全社展開時に課題が出そうな部門や従業員の反発が想定されそうな現場の部門から敢えてトライアルを実施する、少なくとも、バックオフィスではなくフロント部門で果てして日常業務を行いながらパルスサーベイの回答が可能なのかを全社展開する前に検討することをお勧めします。

エンゲージメントサーベイやパルスサーベイの導入には、導入のための費用負担以外にも、人事部門等の導入のための業務工数に加えて、回答に協力する従業員の工数も発生することになります。導入ありきではなく、上記のようなサーベイで得られる典型的な結果が得られた際の対応に対応できるか、日常業務に追われる現場部門においても高い回答率が得られるか等について検討することをお勧めします。

以 上

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