人事部門のデジタル化(DX)の前に考えるべきこと

今年9月に菅総理大臣が誕生して以来、「デジタル化」の動きが加速しています。これまでもデジタル化、IT化の必要性は叫ばれておりましたが、その動きは鈍い状態でした。新型コロナウイルスの感染拡大により、政府や企業、学校、医療機関等でデジタル化が進んでいないことの弊害が顕在化したことが、今般、政府がデジタル化に本腰を入れるようになった原因と思われます。

この流れは民間企業にも波及することが予想され、サービスの提供方法や営業手段はもちろんのこと、経理財務人事総務といった内部業務に関してもデジタル化の波が及ぶと考えられます。

経営層からの「わが社でもデジタル化を進めるので、各部門でデジタル化のためのプランをまとめて欲しい」と指示があって検討している部門も多いのではないでしょうか?

ここで注意したいのは、往々にして起こりがちな事態でもあるのですが、デジタル化を進めること自体を目的とするのではなく、デジタル化はあくまで企業の競争力を高めるための手段であるということを忘れないようにするということです。

人事部門を例に取ると、その目的は企業が競争力を高めるために必要な人材を採用し、育成し、働き続けてもらうことだと思います。その目的を達成するために、どのような業務が必要かを改めて検討し、必要な業務をいかにデジタル化するかという順で検討する必要があります。

これまで日本でデジタル化が進んで来なかった理由として、デジタル化を試みたものの思うような成果が上がらなかったということが挙げられます。その原因としては、上記のような企業の競争力向上という観点で必要な業務という観点での検討をせずに、既存業務をそのままオンライン化したり、外部ベンダーから提案された既存のパッケージを導入することが目的となっていたからだと考えられます。

もちろん既存のパッケージであっても企業の競争力を高めるための観点から開発された商品も存在します。しかし、本来、企業の競争力を高めるための業務は企業ごとに異なり、独自のノウハウが多く含まれているはずです。

例外的に法令等によって求められる業務であり企業の独自性を出す余地のない業務に関しては既存のパッケージでの対応が可能と言えますが、それ以外に関しては、既存のパッケージで対応してしまうと、企業の競争力の源泉が失われることになり、結果として、デジタル化したものの競争力が低下してしまうことにもなりかねません。

企業によっては自社独自のシステムを開発している場合もあります。ただし、その場合も、競争力向上の観点からのあるべき業務を検討せずに、既存の業務フローをそのままデジタル化することに終わってしまっている例も多いように思われます。そのため、従来の非効率な業務フローをそのまま再現するために必要以上に複雑かつ運用保守コストの高いシステムが出来上がったり、デジタル化したものの業務効率化がそれほど進まなかったということが起こりがちです。

あるいは、デジタル化ありきでスケジュールが経営層の独断で決定され、上記のようなあるべき業務の検討が時間的余裕のなさから行えないまま、発注元として十分な要件定義を行わずに、要件定義部分からベンダーが作成してものをそのまま踏襲しているという例も多いように思われます。

繰り返しになりますが、人事部門のデジタル化で大事なことは、競争力を高めるために、その企業に必要な人材はどのような人材で、何人、いつ必要なのかをなるべく具体的に定義してから、それを実現するための手段としてデジタル化考えることです。

必要な人材が定義出来たら、そのような人材をどのようにすれば採用でき、どのように育成し、どのようにすれば働き続けてもらえるかを具体的に検討します。

「必要な人材を採用する」に関しては、必要な人材にどのように自社を認知してもらうか、自社に応募してもらうにはどうすれば良いか、自社に必要な人材をどのように選抜するか、他社と競合した際に自社を選んでもらうにはどうすれば良いか等を検討します。

「必要な人材を育成する」に関しては、育成のためにどのようなインプットを与えるか、育成の進捗をどのような可視化するか、育成の進捗をどのように本人にフィードバックするか、育成がうまく行かない場合はどのようにフォローするか等を検討します。

「働き続けてもらう」には、給与や職位といった待遇面に加えて、安全健康に配慮すること、働き甲斐や組織への愛着を持ってもらうこと等が含まれます。

以上のような内容を整理し、「必要な人材を確保維持するために必要な業務」をなるべく具体的に定義します。それをもとにシステム開発部門やシステムベンダーと議論して、デジタル化のための要件をまとめていくことが望まれます。その際に、あるべき要件と既存の業務を照らし合わせて必要ないと判断した業務や企業の競争力向上のために貢献していないと判断される業務は廃止することが重要です。

弊社の経験からは、特に社員の研修に関しては人材開発の観点から多額の投資が行われている企業が多いのですが、その多くが効果検証されずにそのまま引き継がれ毎年実施されている印象です。先ほど定義した必要な人材の定義を用いて、自社に必要な人材がそのような研修で育成されるのかは十分に検討した方が良いと思います。

以 上

【登録者800人突破!】行動科学・データサイエンス、職場のメンタルヘルス、健康経営等に関する、人事担当者様、産業保健スタッフ・心理職の方に有用な情報を配信する株式会社ベターオプションズによる無料不定期メールマガジンはこちらから登録できます。


 

※登録後に「申し訳ありませんが、サーバーエラーが発生したようです。また、後ほどお試しください」というメッセージが表示されることがありますが、登録は完了しておりますのでご安心ください。

Follow me!