日本のメンタルヘルス業界の歴史を振り返る
はじめに
コロナ禍で女性や若年層の自殺が増加する等、メンタルヘルスへの影響が指摘される中、メンタルヘルス関連サービスにも注目が集まっています。そこで、今回は日本におけるメンタルヘルス関連サービスの歴史を時系列で振り返ってみたいと思います。
電話相談開始期
この時期には民間企業によってメンタルヘルスや健康に関する電話相談が開始され始めたことが特徴です。
- 1987年 ダイヤルサービス 電話健康相談開始
- 1988年 保健同人社 「笑顔でヘルシーダイヤル」開始
- 1989年 ティーペック 「ハロー健康相談24」開始
- 1992年 フィスメック電話相談サービス開始
EAP、メンタルヘルス関連サービス提供企業設立期
この時期は、EAP やメンタルヘルスサービスを標榜する企業が多く設立されています。2000年のいわゆる電通事件最高裁判決により安全配慮義務が判例として確立され、2008年には安全配慮義務が労働契約法に盛り込まれる等、メンタルヘルス対策が企業のリスク対応として注目された時期と言えます。
- 1993年 ジャパンイーエーピーシステムズ設立
- 1998年 ピースマインド設立
- 2000年 電通事件最高裁判決
- 2002年 アドバンテッジEAP提供開始(会社設立は1995年)
- 2002年 イープ設立
- 2007年 保健同人社EAPコンサルタントサービス開始
- 2008年 イーパートナー設立
- 2008年 労働契約法施行
オンラインカウンセリング及びメンタルヘルス関連サービス増加期
この時期の大きな出来事として労働安全衛生法の改正によるストレスチェック制度の義務化があります。それまでストレスチェックを提供していなかった既存のメンタルヘルス関連企業がストレスチェック事業を開始したほか、保険会社が保険の付帯サービスとしてメンタル相談サービスやストレスチェックを提供開始する傾向もみられました。
また、2010年代後半の特筆すべき動きとしてオンラインカウンセリング普及の動きがあります。オンラインカウンセリング専業企業が設立されたり、既存の心理相談室や病院などがオンラインでカウンセリングを提供を開始する動きがありました。この動きの背景にはスマートフォンの普及やZOOMやSkypeといったオンラインのコミュニケーションの普及が影響していることが考えられます。
その他にも2018年には第1回公認心理師試験が実施されるなど、メンタルヘルスケアの担い手にも社会的な注目度が集まった時期と言えます。
- 2014年 cotree設立
- 2015年 ストレスチェックを義務化する改正労働安全衛生法施行
- 2016年 313(マイシェルパ)設立
- 2016年 アクサ生命保険メンタルサポートサービス、ストレスチェックを附帯サービスに追加
- 2017年 ポジウィル設立
- 2018年 明治安田生命が付帯サービスとして「福利厚生サポートサービス」提供開始
- 2018年 第1回公認心理師試験実施
- 2020年 労働施策総合推進法の改正によりパワーハラスメント防止措置が義務化
2020年代以降の展望
2020年代以降の大きな問題としては前半のコロナ禍が挙げられます。コロナ禍をきっかけにテレワークという新しい働き方が普及したことに加えて、ジョブ型雇用の採用が話題になる等、人と企業の関係性が見直される時期だと予想されます。その結果、従業員のキャリアや健康管理に関して自己裁量や自己責任が求められ、これまでの企業が従業員に対する福利厚生あるいは安全配慮義務の履行としてメンタルヘルスケアサービスを提供するという色彩は弱くなる可能性があります。個人が必要に応じてオンラインカウンセリングなどを契約して利用するという形態が広がっていく可能性も考えられます。オンラインでのスキルシェアマーケットの普及もそうした傾向に拍車をかける可能性があります
また、これまでメンタルヘルス関連サービスはネガティブなものをゼロにする目的で認識されることが一般的でしたが、今後は、学びなおしやキャリアの棚卸、メンタルスキルの開発により仕事のパフォーマンスの向上を目的とする、プラスをよりプラスにする方向性でのアプローチも増加する可能性もあります。2010年代後半からキャリアやコーチングに関する企業が増加していることもそのことの裏付けと言えます。
以 上