ワーケーションを企業が導入する際の課題

前回のブログではワーケーションを取り上げました。下記にまとめを示します。

  • ワーケーションとは、地方や観光地やリゾート地で休暇を取りながらテレワークする働き方を指す。
  • 日本においては自治体による観光資源として提唱が始まったが、コロナ禍で普及したテレワークと打撃を受けた観光業の振興策が相まって知名度上昇が進んでいる。
  • ワーケーションの効果を検証するために複数の実証実験が行われており、ストレス反応の低減や仕事のパフォーマンス向上の効果が期待されている。

今回はワーケーションを企業が制度として導入する上での課題について考えてみたいと思います。

労務管理上の課題

ワーケーションを行うにあたっては、業務時間と休暇時間の区別、言い換えれば、業務時間の正確な把握が前提条件となります。

労働時間の正確な把握は、労務管理上も重要ですが、労災認定にも関係します。たとえば、ワーケーションのためホテルに滞在して部屋の中で執務している場合には、業務中に部屋の中で起こった、業務に起因する事故であれば労災認定の可能性がありますが、業務中でなければ労災に該当しません。ワーケーション中に従業員が怪我をしたり事故に遭った際に、業務時間であったかどうかが労災認定のために重要な情報となります。

ただ、労務管理の問題は従来の出張や自宅やサテライトオフィスでのテレワークにも伴う課題であり、出張勤務やテレワークが運用出来ている企業であればクリアできていると考えられます。

テレワーク規定が未整備あるいは十分に整備されていない企業であれば、下記の厚労省によるテレワークモデル就業規則等を参考に社内規定の整備と運用方法の周知を進めることをお勧めします。

https://www.tw-sodan.jp/dl_pdf/16.pdf

組織マネジメント上の課題

ワーケーション導入が進まない理由としては上記の労務管理上の障壁に加えて、組織マネジメント上の障壁も考えられます。

ワーケーション実施者の仕事のパフォーマンスに対する懐疑

組織マネジメント上の課題としては、ワーケーション実施者に対する「ワーケーションは仕事にならない」、「ワーケーションで仕事のパフォーマンスが下がるのでは」といった懐疑的な目線が挙げられます。

この点については、ワーケーションでは仕事をさぼるという意識のない従業員であれば、オフィス勤務時の上司や同僚からふいに声を掛けられる、電話で話す同僚の声がするといったことがないため、オフィス勤務時よりも仕事のパフォーマンスは上がることはあっても下がることはないと考えられます。また、業務時間外に観光が出来る場所であれば、無駄な残業をせずに集中して業務を行うインセンティブになると考えられます。

ワーケーション利用者の仕事のパフォーマンスを高くするためには、ワーケーションに送り出す側が「しっかり仕事して来てね」という意識で送り出すことも重要だと考えらえます。たとえば、これまでの長期休暇の帰社時にはお土産を所属部署に配布することが慣例ですが、あくまでワーケーションを業務と捉えるのであれば、長期休暇と区別する意味でも、お土産の配布は行わない慣行として、ワーケーションはあくまで仕事の一形態という意識を醸成することが考えられます。

ワーケーション出来る出来ないの不公平感の問題

実はこれが最大のネックと言えるかもしれません。つまり、ワーケーションの対象となる従業員とそうでない従業員がいた場合に、後者が不満を感じるといった問題です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html

こういった組織の中で資源の配分が公平に行われているか、意思決定は偏りなく行われているかといったことは学術分野では組織公正と呼ばれています。組織公正が損なわれていると感じている従業員は仕事のパフォーマンスが低く離職意思が高く、心身の健康が悪い傾向が示唆されているため、ワーケーションがなるべく組織公正を損なわないような制度設計が重要です。

ワーケーションを巡る不公平感をなくす、組織の公正を損なわないようにするにはワーケーションを原則として全員が利用可能な制度とすることが、近年の「同一労働同一賃金原則」の観点からも望ましい対応と言えます。

営業や事務部門がワーケーションを利用出来ないのに、企画部門やエンジニア部門は利用者が多いといった状態になってしまうと、ワーケーションが社内の分断を深める一因となってしまいます。

また、ワーケーションを利用者可能な対象者が少数の場合、利用者が引け目やプレッシャーを感じてしまいワーケーションによって十分な成果を上げられなくなる可能性があります。また、ワーケーションを行うことの安心感がないため、そもそもワーケーション希望者が出づらくなるという可能性もあります。

ワーケーションは全社で利用可能な態勢が望ましいとしても、社内での十分な検討の結果、利用不可能な職種や部門が存在する、職種や部門によって利用回数や日数に制限が有る場合は、その合理的な理由を従業員に説明することも、組織公正を損なわないために重要です。

おわりに

ここまで、ワーケーションを企業として導入する際に考えられる課題について解説しました。

上記の労務管理上の問題にしても、組織マネジメント上の課題についても実際にワーケーションを運用してみることで対策が分かったり、逆にそれまで見えていなかった課題が浮かび上がることが往々にしてあります。

ワーケーションを本格導入する前にトライアルで実験し、トライアル参加者から実際の感想や課題感をヒアリングすることで、ワーケーションを全社導入するかどうかの判断材料とすることをお勧めします。

以 上

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