日本カスタマーハラスメント対応協会代表の島田様と対談しました

はじめに

弊社代表取締役の宮中大介がアドバイザーを務める日本カスタマーハラスメント対応協会(https://customer-harassment.or.jp/)代表の島田恭子様と対談しました。

島田様は外資系コンサルティング会社を経て東京大学大学院にて博士(保健学)を取得された後、大学での研究教育に関わりながら、メンタルヘルス支援を通して豊かな生活と健康増進に寄与する活動に従事されております。

近年は、カスタマーハラスメント対策の重要性の高まりを受けて、 カスタマーハラスメントの抑止コンサルティング、調査研究に尽力しておられます。

今回は、日本カスタマーハラスメント対応協会のWEBサイトのオープンを記念して、協会の活動内容やカスタマーハラスメントの現状等についてお話を伺いました。

島田恭子様プロフィール

一般社団法人ココロバランス研究所代表理事。大学卒業後、企業の人材開発業務に従事。産業精神保健の重要性を感じ、大学院にて公衆衛生・精神保健(メンタルヘルス)を学ぶ。日本では、気軽にストレス対処の専門的サポートを受けづらく、多くの人が病んでから長く苦しみ、それがいかに企業に損失を生んでいるかを痛感。

「病む前の、悩みのうちに必要なものを届けたい」と、(社)ココロバランス研究所を設立。メンタル未病向けオンデマンド型セルフケアツールを開発・提供。現在はカスタマーハラスメント抑止コンサルティング・調査研究等を通じ、「人と組織のウェルビーイング向上」を支援する活動を行っている。精神保健福祉士・保健学博士。

日本カスタマーハラスメント対応協会URL:https://customer-harassment.or.jp/

日本カスタマーハラスメント対応協会の活動について

宮中:島田様、本日はよろしくお願いいたします。

島田様:よろしくお願いいたします。

宮中:実は我々は東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻の同級生なのですが、相変わらず多岐にわたってご活躍されている島田様のお話を伺えるのを楽しみにしておりました。早速ですが、日本カスタマーハラスメント対応協会の活動について教えてください。

島田様:当協会は、昨今社会問題となっている、顧客による悪質クレームなどの迷惑行為、いわゆる“カスタマーハラスメント”(カスハラ)への対応支援を行っています。

宮中:なるほど。具体的にカスタマーハラスメントの被害を受けやすい業界などはあるのでしょうか?

島田様:カスタマーハラスメントの被害を受けやすい業界や職種は、報道されているようなスーパーや飲食店のほか、介護施設や病院、学校や自治体など広範囲に及びます。

宮中: なるほど。企業だけではなく学校、自治体など、ほぼ全ての働く人が関係しそうですね。

島田様:はい、私たちはまず、そういった業界が健全に発展していく環境を整えること、そして、働く人の心身を守りワークエンゲイジメントを高めることを活動の軸としています。その手段として、個人、組織、業界それぞれに活用していただけるメニューをご用意しています。

宮中: 個人、組織、業界という角度から、カスタマーハラスメント対策をしていく、ということですね。日本カスタマーハラスメント対応協会の特徴はどういったところにあるのでしょうか?

島田様:わたしたちの取り組みには、大きく4つの特徴があると考えています。

 1つ目は、クレーマーの排除ではなくカスタマーハラスメントの抑止・啓発を行っていることです。まずは対応者や組織だけが泣き寝入りせずにすむように、ストレスマネジメントに加え、業界をこえて広く社会への啓発活動に取り組んでいます。これまでの研究で、迷惑行為の発現メカニズムや心理的背景などが明らかになってきています。それらに加えて心理学・行動医学の最新知見を活用することで、“クレーマー排除“ではなく、カスタマーハラスメントを“しない・させないしくみ作り”を、提供し始めています。

宮中:なるほど。カスタマーハラスメントを生まないように根本的な原因にアプローチしているのですね。

島田様:2つ目は、対応者に対するアプローチだけでなく、クレーマー視点も重要視していることです。両方の視点をバランスよく取り入れ両輪で回すことが、カスタマーハラスメント問題を根本的な解決に導くために、きわめて重要です。我々は、犯罪心理学(加害者の心理行動メカニズム)と精神医学(被害者のセルフケア)の知見を、カスタマーハラスメントモデルとして組み込み、データ検証を元に対応策を提示します。これまでの対処療法的なカスタマーハラスメント対応の進化形ではないのが、研究者・専門家が参加している強みだと言えます。

宮中:カスタマーハラスメント対策と聞くと、店員への研修などが浮かびますが、クレーマー視点が有る点は特徴だと思います。犯罪心理学や精神医学の知見も考慮されているのは大きな特徴だと思いますね。

島田様:ありがとうございます。3つ目は、アカデミックと現場の知見が融合していることです。世間には多くのビジネスノウハウがありますが、多面的に問題の本質を捉え、かつ科学的エビデンスがあるものは多くありません。わたしたちは、ビジネス現場経験知はもちろんのこと、現状を高度なデータ分析で検討し、心理学・行動科学の専門家が科学的エビデンスを活用するなどし、課題解決を図ります。特に組織や業界にフィードバックするシステムや、応用研究のキーとなる高度なデータ分析においてベターオプション様のノウハウが不可欠となっています。

宮中:ありがとうございます。弊社もデータ分析の観点からカスタマーハラスメント対策に貢献出来ればと考えています。最近は機械学習等さまざまな手法がありますので、カスタマーハラスメント対策に使えそうな手法を積極的に使っていきたいと考えています。

島田様:  4つ目は、従業員、管理職、組織にとって役立つ知識を、最適化して届けるツールがあることです。今の時代は、SNSや動画配信サービス等を通じて、専門家と繋がるプラットフォームが整いつつありますが、まだまだ専門家個人が一方的に発信しているのが現状です。わたしたちの活動には有り難いことに、多くの技術者が協力してくださっています。彼らと協働しながら、組織や個人が専門家集団と繋がることができ、自分に最適化された確かな情報を受け取ることができる仕組みを作っているところです。

宮中:さまざまなリソースがばらばらにあると利用者にとっても不便なので、一つのプラットフォームでさまざまなリソースに一度にアクセスできるのは利用者目線では助かりますね。特に接客業やコールセンターでは管理職一人に対して従業員の数が多く、従業員へのケアがどうしても行き届かないのでこういったリソースがあるのは助かると思います。

カスタマーハラスメントを減らすには

島田様:私は、予防精神医学が専門なのですが、日本は海外に比べ、自分のこころをケアする仕組みが整っていません。それは、素晴らしいものはあるのにそれを多くの人に気軽に届けられる”最適なツール”がないからです。もったいない話です。わたしたちは、そのツール作りを可能にする専門家集団と共に、よいものをより多くの必要な人に届けられる仕組みづくりに尽力していきたいと、強く思っています。

宮中:そうですね。ストレスチェック制度義務化やパワーハラスメント対策の法制化等、徐々にメンタルヘルスの重要性の認知度は上がっていますが、やはり英米などに比べると日本はまだまだ道半ばと感じています。カスタマーハラスメントによる被害を減らすには、どのような方法がありますか?

島田様:一般的には、顧客のクレームが”悪質⇒ハラスメント”とならないよう、顧客対応の体制づくりや教育研修など、対応者、管理職、組織、社会、顧客それぞれにアプローチする方法が考えられます。

しかしまずは、これらの努力を阻害する要因を明らかにしておく必要があります。これまで、カスタマーハラスメント対策が進まなかった背景には、企業が顧客を「クレーマー扱い」するのを避けてきた経緯があります。(詳細は、当協会理事・桐生教授がインタビューにて説明しておりますので、ぜひご参照ください[悪質クレーム大国・日本には「カスハラ規制法が必要だ」 犯罪心理学者が「加害者」千人調査(弁護士ドットコム)](https://www.bengo4.com/c_5/n_13637/)。

宮中:なるほど。企業側としてカスタマーハラスメント対策に積極的になる必要がありますね。

島田様:はい、企業はこれまで顧客の迷惑行動を表沙汰にすることを拒んできたため、従業員は我慢するしかありませんでした。また研究者が迷惑行動に関するデータを科学的に分析するのにも、高いハードルがありました。

宮中:企業が腰を上げなければ、従業員はなおさら訴えをしづらいという状況が続いてきた訳ですね。

島田様:はい、ただ、企業側も事情があり、企業には立場の弱さだけでなく、クレーマーに対峙する道具を持たされていない現実があります。この場合道具として有効なのは、法律や世論、科学的エビデンスなどの、第三者がもたらす基準です。今後のカスタマーハラスメント対応に必要なのは、法整備や社会的醸成に加え、まさに科学的根拠に基づくカスタマーハラスメント抑止への提案ということになります。我々は、実証実験に基づくデータに裏打ちされたエビデンスの蓄積と、その活用の取り組みを進めているところです。

宮中:なるほど。「科学的根拠」「実証実験」といった点に関しては、御協会には研究者も多く関わっている点が強みですね。また、カスタマーハラスメント対策を、企業の課題と狭く捉えずに、社会全体の問題として捉えて解決していくために、御協会が政治や行政に対する働きかけ、ロビイイング等の窓口にもなる可能性があるということですね。

カスタマーハラスメントの企業経営への影響について

宮中:最後になりますが、カスタマーハラスメントは企業経営上どのような影響がありますか?

島田様:カスタマーハラスメントに限らず従業員へのハラスメントが、企業経営に悪影響を及ぼすことは、数多くのデータで示されています。対応者個人のメンタルヘルスの悪化はもちろん、ワークエンゲイジメント(仕事の活力)および生産性の低下、マクロな視点では、店舗・部署の売り上げ減少、顧客満足度の低下、離職率の増加等が考えられます。

宮中:従業員のワークエンゲイジメントに関しては近年特に注目されています。ワークエンゲイジメント向上の観点からもカスタマーハラスメント対策が重要ということですね。

島田様:おっしゃる通りです。また特筆すべきポイントとして、カスタマーハラスメントは職場における他のハラスメントと違い、対応者だけでなくその管理者にも影響が及ぶことが挙げられるでしょう。悪質度の高い事案になればなるほど対応者は、管理職に相談、対応を検討することが求められます。

そのため必然的に複数の対応者を統括する管理者にしわ寄せがきてしまいます。優秀なリーダーほど困った事案が多く集まるため、組織としては貴重な人的資源をケアしていくことが必要です。

宮中:これは確かにそうですね。ただでさえ、多くの仕事を抱えている管理職の大きな負担となり得ますね。

島田様:はい。つまり、リーダー個人のセルフケアに加えて、管理監督者としてのラインケア、両方のケアを組織的にバックアップすることが非常に大切になってきます。

このようなカスタマーハラスメントが及ぼす企業経営上の悪影響を多大なリスクととらえ、対処療法的な対策ではなく、カスタマーハラスメントをしない・させない仕組みづくりや、予防も含めた長期的な視野での組織体制の構築などが求められます。

宮中:健康経営という言葉の認知度が上がって来ましたが、カスタマーハラスメントの観点が漏れ落ちていたと思います。健康経営の枠組みでも、カスタマーハラスメント対策をしっかり考えていく必要がありますね。島田様、本日は大変貴重なお話を頂きありがとうございました。

島田様:ありがとうございました。

※本対談は新型コロナ感染症対策を考慮し、オンライン上で実施しました。

日本カスタマーハラスメント対応協会URL:https://customer-harassment.or.jp/

日本カスタマーハラスメント対応協会への取材やお問い合わせは下記まで。

kokorobalance[@]customer-harassment.org


以 上

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