高スキル人材をリテンションするには?~大規模調査からの知見~

はじめに

近年、IT業界やコンサルティングなどのプロフェッショナルサービスを提供する業界を中心に人材争奪戦が起こっています。人材確保のために給与水準を大幅に向上させたというニュースもよく耳にします。同時にこれらの業界は人材の流動性が高いため、人材の採用はもちろん、採用した人材に長く働き続けてもらうことも難しい業界と言えます。

そこで、今回は弊社が監修協力してサイオステクノロジー株式会社(https://sios.jp/)が開発したエンゲージメントサーベイであるOurEngage(アワエンゲージ)(https://www.ourengage.jp/)(※)のデータを元に、これらの業界の労働者が現在の勤務先に長く勤めたいと思う意欲(以下、長期就業意欲)について分析してみたいと思います。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

※OurEngage(アワエンゲージ)は、サイオステクノロジー株式会社にて登録商標申請中です。

<OurEngageサーベイ2022概要>

調査期間:2022年3月

調査対象:日本の500名以上の企業に所属する労働者2,800名(20~65歳、製造業、情報通信業、学術研究、専門・技術サービス業など400名ずつ7業種)

管理職は長期就業意欲が低く、専門職では迷いが特徴

 OurEngageは、従業員のエンゲージメントにつながる10要因の組織の状態を把握出来るサーベイです。製造業、情報通信業など400名ずつ7業種のベンチマークを備えており、個人や組織の結果を比較することが可能です。今回は、ここから「情報通信業」、「学術研究、専門・技術サービス業」それぞれ400名ずつ合計800名のサンプルを用いて検討します。

まず、長期就業意欲を職種別に見てみると、「管理的職業」において「今の勤務先でなるべく長く働きたいと思う」という設問に対して「あまり当てはまらない」「当てはまらない」の割合が最も高くなっています。

一般に管理職は長期就業意欲が高いと思われがちですが、「情報通信業」、「学術研究、専門・技術サービス業」においては、管理職であってもさらなるキャリアアップを目指すという姿勢が伺えます。売り手市場と言われるITエンジニアやデータサイエンティストが含まれると思われる「専門的・技術的職業」においては、「どちらでもない」と回答した人の割合が高いのが特徴です。待遇や業務内容次第で判断するという人が多いかもしれません。

長期就業意欲が高まるのは勤続20年以降

次に、勤続年数別に長期就業意欲を見てみると、勤続年数20年以上で長期就業意欲が高くなっています。

逆に言えば、入社直後から中堅・ベテランまでは、機会があれば、別の企業に転職したいと考えている人が一定割合で存在していることが伺えます。特に、「5-10年未満」で、「どちらでもない」という回答が最も高くなっています。職場で戦力として貢献し始める年数で、今の勤務先で勤め続けるかどうか迷いが出て来るということかもしれません。

長期勤続したい人は他人に自分の職場への就職を勧めたいと思っている

次に、「今の勤務先でなるべく長く働きたいと思う」という設問と、「勤務先は自分の大事な人に就職を勧めることの出来る職場である」の設問の回答の組み合わせを見てみます。

この結果からは、「今の勤務先でなるべく長く働きたいと思う」に「やや当てはまる」「当てはまる」と回答した人の半数近くが「勤務先は自分の大事な人に就職を勧めることの出来る職場である」に対しても「やや当てはまる」「当てはまる」と回答していることが分かります。一方で、「今の勤務先でなるべく長く働きたいと思う」に「当てはまらない」と回答した人の約半数は「勤務先は自分の大事な人に就職を勧めることの出来る職場である」に対して「当てはまらない」と回答しています。つまり、長期就業意欲の高い人ほど、勤務先を自分の大事な人に勧めても良いと思っている一方で、長期就業意欲が低い人は勤務先を自分の大事な人に勧めたくないと思っていることが分かります。したがって、長期就業意欲の高い従業員の多い職場は、既存の従業員の紹介によってさらに良い人材が採用出来るということも考えられます。近年、従業員の紹介や推薦にもとづいて人材採用するリファラル採用が採用方法として一般的になってきていることを考えると、極めて示唆に富む結果と言えます。

長期勤続意欲の高い従業員はエンゲージメントが高い

最後に、長期就業意欲とエンゲージメントの関係を見てみたいと思います。

OurEngageで評価されるエンゲージメントと長期就業意欲の関係性を確認してみると、「情報通信業」、「学術研究、専門・技術サービス業」のどちらの業種においても、エンゲージメント評価が高いほど長期就業意欲が高いことが分かります。つまり、従業員がエンゲージメント高く働くことのできる職場は、従業員に長く働き続けてもらえる職場であると言えます。したがって、従業員に長く働いて欲しいと思うのであれば、OurEngageのようなエンゲージメントサーベイを活用して、エンゲージメント向上のための施策を実施していくことが重要と言えます。

まとめ

  • 「情報通信業」、「学術研究、専門・技術サービス業」においては、管理的職業で長期就業意欲が比較的低く、売り手市場とされる専門的・技術的職業では迷いの有る中立的な回答の割合が高いのが特徴である。勤続年数別に見ると20年以降に長期就業意欲が高い傾向であり、5-10年の中堅層で「どちらでもない」という迷いの有る回答が特徴である。
  • 「情報通信業」、「「学術研究、専門・技術サービス業」においては、長期就業意欲が高い従業員は、自分の大事な人に自分の職場を勧めることが出来ると思っている割合が高く、長期就業意欲が高い従業員の多い企業は、リファラル採用を通じて人材採用面でも有利であると考えられる。
  • 「情報通信業」、「学術研究、専門・技術サービス業」においては、エンゲージメントが高い従業員ほど長期就業意欲が高いため、従業員が長く働きたいと思える職場となるには、エンゲージメントの向上が重要であると考えられる。

※OurEngage(アワエンゲージ)は、サイオステクノロジー株式会社にて登録商標申請中です。

エンゲージメントサーベイOurEngageの情報はこちら

https://www.ourengage.jp/

サイオステクノロジー株式会社の情報はこちら

https://sios.jp/

以 上

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