2023年度上半期メンタルヘルス業界の動向

はじめに

2023年度も8月半ばに差し掛かっています。今回は2023年度上半期のメンタルヘルス業界動向を、行政資料や業界各社から公表されたリリースをもとに概観してみたいと思います。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

船員の健康確保に関する新たな制度が施行

2023年4月より船員の健康確保に関する新たな制度が施行されています。
具体的には、「常時50人以上の船員を使用する船舶所有者」に対して船員向けの産業医の選任や、ストレスチェック制度の実施が求められることになりました。

https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001590421.pdf

これらの制度は、厚生労働省が所管する労働安全衛生法にもとづく事業場向けの産業医制度やストレスチェック制度を、船舶業界を所管する国土交通省が船員向けにアレンジした制度となっており、基本的な考え方は、従来の事業場向けの産業医制度やストレスチェック制度と同様です。健康管理の対象が、地上で働く労働者から船舶で働く船員に適用が拡大された形となっています。メンタルヘルス業界にとっては需要が一定程度拡大されたと言えます。

職域における心の健康関連サービス活用に向けた研究会が設立

7月25日に株式会社NTTデータ経営研究所が職域における心の健康関連サービス活用に向けた研究会(以下、研究会)」を設立しています。
https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/230713_02/

上記リリースによれば、「本研究会では、雇用主・サービス提供事業者・アカデミアの3者によって、民間サービスの情報開示の在り方についての検討が行われるほか、雇用主・サービス提供事業者の各作業部会を構成し、雇用主による「心の健康関連サービス(以下、サービス)」の選択を支援するツールの開発や検証などを行います」とされており、雇用主・サービス提供事業者・アカデミアの3者でメンタルヘルス関連サービスの品質や効果検証について検討が行われるとされています。

同様に上記リリースによれば、研究会での実施内容は下記の通りとなっており、今後、研究会の活動を通じて、報告書の作成、ワークショップ等の開催が見込まれます。

  • 需要サイド(雇用主)、供給サイド(サービス提供事業者)、アカデミアの3者が参加する研究会により、民間サービスの情報開示の在り方について検討し「職域の心の健康保持増進における民間サービスの情報開示のあり方」についての提言を作成
  • 雇用主によるサービスの選択を支援するツール(プロトタイプ)を開発し、可能性や課題を検証する(2024年1月頃に企業の担当者によるワークショップ等を開催予定)
  • 本年度、3回の研究会とサービス提供事業者、雇用主の各立場から検討を進める作業部会を開催予定

研究会メンバーを見ると、企業、EAP業界団体、メンタルヘルスサービス提供企業、アカデミア(職場のメンタルヘルス、計量経済学)が含まれています。現在、徐々に普及しているメンタルヘルスサービスですがその内容や品質に関する情報発信や効果検証については必ずしも十分とは言えません。同様に、メンタルヘルス業界としての情報発信や提言といった動きも決して十分とは言えません。今後メンタルヘルス業界の業界としての動きにつながるか、どのような提言が公表されるのか今後の動きに注目したいと思います。

人的資本開示への動き

岸田政権の目玉政策の1つである「人への投資」に端を発した人的資本開示もメンタルヘルス業界に影響を及ぼしています。上場企業に対しては人的資本に関する事項の有価証券報告書への記載が2023年3月期の有価証券報告書から義務化されており、メンタルヘルス業界でも一部の企業で対応した動きが見られました。

株式会社アドバンテッジリスクマネジメントは人的資本に関してノウハウを有する企業と顧問契約を締結しています。

https://www.armg.jp/news/newsrelease/2022/1223/

株式会社メンタルヘルステクノロジーズからは人的資本経営に関する調査結果が公表されています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000073.000027306.html

メンタルヘルステック5社が合同で、業界の最新トレンドを発表

メンタルヘルステック系のサービスを提供する5社より、メンタルヘルステック業界の現状やトレンドに関する調査結果が公表されています。参加している企業は、いわゆるEAP企業とは異なり、メンタルヘルスアプリやオンラインカウンセリング等を提供する会社です。これまでメンタルヘルス業界では、複数の企業が合同して調査や提言を実施することは極めて稀でしたが、サービスの普及や重要性の向上に伴い業界としての情報発信が求められる段階に来ていると思います。今回の5社に限らずメンタルヘルス業界として見解をまとめる、調査を実施するといった動きを期待したいと思います。

https://cotree.co/posts/mentalhealthtech

オンラインカウンセリングの株式会社cotree、オンラインマインドフルネスの株式会社Melon、精神疾患向け治療用アプリのemol株式会社、AIジャーナリングアプリのミッドナイトブレックファスト株式会社、AI解析によるコミュニケーションサポートの株式会社I’mbesideyouの5社は、メンタルヘルステック業界の各専門領域サービスを展開する企業として、業界の現状やコロナ禍以降の展開、最新トレンドなどについてまとめました。

https://cotree.co/posts/mentalhealthtech

30代の高ストレス割合が最も高い

東京海上メディカルサービスが6月9日に2022年度のストレスチェックのデータを集計分析した結果を公表しています。約24万人のデータを分析した結果で、女性の方が高ストレス者の割合が多い点、残業時間が長いほど高ストレス者の割合が高い点、年代別の結果で30代が最も高ストレス者比率が高くなっているのが特徴です。

https://www.tokio-mednet.co.jp/.assets/2022%E5%B9%B4%E5%BA%A6TMS%E3%83%8A%E3%83%93%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E7%B5%90%E6%9E%9C%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%AA%BF%E6%9F%BB-%E7%AC%AC1%E5%BC%BE.pdf

全国の健診機関を通じてストレスチェックを提供する公益社団法人全国労働衛生団体連合会による調査(2022年7月公表。令和3年度版)においても、約136万の回答結果を分析した結果、男女ともに30代の高ストレス者割合が高い結果が得られており、近年の労働者のメンタルヘルスの特徴の一つと言えます。

https://www.zeneiren.or.jp/cgi-bin/pdfdata/20220930151629.pdf

職場で中堅として活躍が期待される30代でメンタルヘルスの状況が厳しいという現状に対しては、企業、メンタルヘルス業界としても、メンタルヘルス対策への一層の取り組みが望まれる結果と言えます。

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以 上

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