こんな授業・講義は生徒・学生から退屈だと思われる?イグノーベル賞からの知見

はじめに

今年のノーベル賞は残念ながら 日本人の受賞はなりませんでしたが、そのパロディー版とも言えるイグノーベル賞においては、今年も日本に関係する受賞者が出ています 。たとえば、国際基督教大学のチャン准教授らが「生徒の退屈」に関する研究で教育賞を受賞しています。

Past Ig Winners (improbable.com)

 そこで今回は、イグノーベル賞を受賞したチャン准教授らの研究チームによる研究を2本原著論文から紹介してみたいと思います。

退屈そうに見える教師の授業では生徒も退屈する

Tam, K. Y., Poon, C. Y., Hui, V. K., Wong, C. Y., Kwong, V. W., Yuen, G. W., & Chan, C. S. (2020). Boredom begets boredom: An experience sampling study on the impact of teacher boredom on student boredom and motivation. British Journal of Educational Psychology90, 124-137.

 https://psycnet.apa.org/record/2019-43511-001

この研究は教師の退屈度が生徒に伝播するのではないかという仮説をもとに実施されています。この研究は香港の中学生と教師と生徒を対象に10日間にわたって行われました。教師は毎日授業中に退屈を感じるかを調査票にて回答しました。生徒は各授業が終了した都度、自分が感じる退屈度と意欲、教師がどの程度退屈に見えるかを調査票にて回答しました。

分析の結果、教師の自己評価による退屈は生徒の退屈と関連がありませんでしたが、生徒が評価した教師の退屈度とは生徒自身の退屈との間に関連が見られました。つまり、生徒から見て退屈そうな教師の授業ほど生徒が退屈を感じていました。さらに、生徒が評価した教師の退屈度が生徒自身の退屈度を通じて、生徒の意欲とも関係していることが分かりました。

 この研究では教師自身が自己評価した退屈度と 生徒が評価した教師の退屈度には関連がありませんでした。教師本人がどう思ってるかとどう思われてるかというのは違っているということになります。 この論文では、なぜ 生徒は教師が退屈だと思うのかは今後の研究課題とされています。

研究授業などで同僚の教師等から、自分が「客観的に」どの程度退屈そうに見えるのかのフィードバックをもらうことが、生徒の授業への満足度を上げることに役立つかもしれません。

講義が退屈そうという予想が実際に退屈を招く

Tam, K. Y., Van Tilburg, W. A., & Chan, C. S. (2023). Whatever will bore, will bore: The mere anticipation of boredom exacerbates its occurrence in lectures. British Journal of Educational Psychology93(1), 198-210.

https://bpspsychub.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/bjep.12549

この論文は調査1~3の3つの調査研究から構成されています。

調査1

調査 1では英国の大学の学部の講義において、講義の約5分前に 講義がどれだけ退屈かという予想を調査票にて回答してもらいました。併せて、講義前の時点での学生自身の退屈を調査票にて回答してもらって評価をしました。 1時間の講義が終わった後で退屈度を調査票にて評価しました。分析の結果、講義前の退屈度の違いを統制しても、講義前に講義が退屈だろうと予想していた学生ほど 講義後の退屈度が高いことが分かりました。

調査2

調査2では、実際に学生の講義への退屈の予想を操作する実験研究を行うつもりでしたが 、実験操作に失敗したため調査研究に切り替えられています。その結果、研究1と同様に、 講義前の退屈度の違いを統制しても、講義が退屈だろうと予想していた学生ほど講義後の退屈度が高かったことが確認されました。

調査3

調査3では、調査2での失敗を踏まえて 実験室で研究が行われました。実験室に学生が呼ばれて、学生は現在の退屈度を調査票で評価された後で講義動画を見せられました。学生は無作為に次の3群に分けられていました。

退屈予想=高群2015年にイエール大学で最も退屈な講義として選ばれたと説明されて講義動画を見せられた。
退屈予想=中立群イエール大学の講義とだけ伝えられて講義動画を見せられた。
退屈予想=低群2015年にイエール大学で最も面白い講義として選ばれたと説明されて講義動画を見せられた。

 講義動画視聴後に学生は自身の退屈度を調査票にて評価され、併せて、講義動画視聴前に講義動画をどの程度退屈だと予想していたかも調査票で評価されました。

分析の結果、退屈予想=高群ではその他の群に比べて、講義動画視聴前に予想していた退屈度が最も高くなっていました。また、退屈予想=高群では、その他の群に比べて講義動画視聴後の退屈度が高かったことが分かりました。

この調査では3つの群は無作為に分けられてますので、講義前に与えられた、これから視聴される講義動画がどのようなものかという情報によって、学生の講義後の退屈度に差があったということになります。

 本研究からは、講義前に退屈だと予想され講義は実際に退屈に感じられてしまうということを示しています。それを避けるために、毎回講義前に講義に関連する興味深い宿題を出しておく、あるいは講義の開始直後にその後の内容に興味を持たせるような動画を見させるといった工夫をすることで、講義に対する学生のワクワク度を向上させておくことで講義の退屈度を低減させることができるかもしれません。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

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以 上 

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