教員のメンタルヘルスの状況
はじめに
近年学校教員のメンタルヘルス が社会問題化しています 。そこで今回は教員のメンタルヘルスの状況について見てみたいと思います。
<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了
教員のメンタルヘルスの状況
文部科学省による公立の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校における教職員を対象にした調査結果によれば、教育職員の精神疾患による病気休職者数は令和4年度では6,539人となっています。平成25年度が5,079人であったと比較すると、約1.3倍になっており、教員のメンタルヘルスが悪化している可能性が伺えます。
https://www.mext.go.jp/content/20231222-mxt_syoto01-000033180_1.pdf
教員のメンタルヘルス悪化の背景
この背景には 教員志望の減少による人員不足や保護者の要求の高度化などがあると考えられます。同時に学校という世界では民間企業に比べてメンタルヘルス対策が弱いということも考えられます。文部科学省による学校における働き方改革特別部会の検討資料を見ても、メンタルヘルスケアを含む労働安全衛生対策が手薄であることが指摘されています。
〇労働安全衛生法は一部を除く国家公務員、地方公務員の大部分労働安全衛生法では、教育公務員を含む地方公務員は適用除外とされておらず、学 校現場にもその規定が適用される。このとき一般に、労働安全衛生法上の「事業場」は各学校を指し、「事業者」は学校の設置者を指すこととなる。
〇労働安全衛生法では、事業場の業種・規模等に応じて、安全衛生管理体制整備の観点から事業者が講ずべき措置が定められている。例えば、常時50人以上の労働者 を使用する事業場においては、衛生管理者や産業医の選任、衛生委員会の設置等が 義務付けられている。また、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業 場においては、衛生推進者の選任等が義務付けられている。
〇しかし、このように各事業場の規模によって義務付けられた体制整備について、特 に小・中学校においては、整備率が9割程度(産業医については8割程度)にとど まっているのが実情である。
学校の労働安全衛生管理の在り方についてhttps://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/08/30/1408728_1_1.pdf
また、制度として労働安全衛生対策が実施されていたとしても、一般企業と比較して個人の独立性が強い業務であること、上司と部下 という明確な関係性がないため悩み事が有っても自分一人で抱え込みがちであったり、上司からのラインケアや産業医の介入による実効性のあるメンタルヘルス対策が実施されていないことも推測されます。
近年の文部科学省の動き
こうした状況を受けて文部科学省は、「公立学校教員のメンタルヘルス対策に関する調査研究事業」を展開しています。同事業では、都道府県・市町村の教育委員会を委託先として、専門家・民間企業等と協力しながら病気休職やメンタルヘルスの問題に対して実証的な取り組み対策を行うこととしています。
https://www.kyouiku-kaihatu.co.jp/uploads/file/material/pdf/rf64b9e521e0f5e/kenshu695.pdf
同事業の中で神戸市はメンタルヘルスケアアプリを提供するemol社と共同して、神戸市教育委員会の若手教員に対してメンタルヘルスケアの実証研究を進めています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000043787.html
終わりに
資源のない日本においては 教育による人材育成が国家としての競争力に直結すると考えられます。その教育を預かる教員が厳しいメンタルヘルス状態にあるということは決して放置して良い問題ではありません。文部科学省や教育委員会に加えて、民間事業者や大学等のアカデミアが連携して問題解決にあたることが望まれます。
以 上