ChatGPTはストレスチェックの職場環境改善に役立つか?
はじめに
2023年以降生成AIが社会のいたるところで影響を及ぼすようになりました。特に生成AIのうちChat GPTは無料版が提供されていることもあり、人々が生成AIの威力を感じる機会になっています。そこで、今回は 無料で使えるChat GPT がストレスチェック制度、とりわけ ストレスチェック後の職場環境改善にどの程度活用できるかを試してみました。 なお使用したChat GPT は無料版のバージョン3.5です。
ChatGPTに聞いてみた
まず具体的な職場の状況 ストレスチェックの結果を伝えてアドバイスをもらうことにしたいと思います。 この時に「職場環境改善の専門家として答えてください 」という表現を使うことで回答精度が上がることが知られていますので、今回も そのような表現を使いたいと思います。 以下は、Chat GPT に質問した結果です。
総合健康リスクの計算に用いられる4つの職場環境要因についてアドバイスをもらうことができました。専門家から見ても妥当な内容と言えます。
次に、総合健康リスクの水準について解釈を聞いてみました。
総合健康リスクが133という数値はストレスレベルが一定の基準を上回っているという回答が得られました。総合健康リスクは100を基準として100を上回る場合は、健康問題が発生するリスクが高いことが知られているため、妥当な内容と言えます。https://mental.m.u-tokyo.ac.jp/old/hanteizu/Technote.htm
次に、上司の支援を改善するための実行プランとスケジュールについて聞いてみました。あくまで一般論ではありますが、妥当な内容が示されました。
最後に、管理職で職場環境改善に前向きでない人がいる場合の対応について聞いてみました。
こちらも一般論ですが、妥当な内容と言えます。その他、一通り使ってみた感覚ですが、ストレスチェックの担当となった人事担当者、集団分析レポートを受け取った職場の担当者が使うというのであれば十分使えるという印象を持っています。 ChatGPTに具体的に個別の会社の情報を入力するのは機密保持の観点から望ましくないですが、今回のように企業名を出さずに総合健康リスクの数値をもとにアドバイスを求めたり、職場環境改善の進め方についてアドバイスを求めれば良いでしょう。
職場環境改善における人間ならでは価値とは?
さて、このようなアドバイスがChat GPT から得られるとすると、人間の職場環境改善コンサルタントの付加価値はどこにあるのでしょうか?その1つとしては従業員や管理職の感情に働きかけ、行動変容の起爆剤となり、新たな行動を習慣化するという心理コンサルタントとしての役割ではないかと思います。
そもそも人間は決まりきった習慣を変えたくないものです。職場環境改善をいざ実行するとなった場合は通常の業務に追加の業務が発生しますし、職場の従業員皆がストレスチェックや職場環境改善の意義をちゃんと理解していたり、 賛同してくれるわけではありません。場合によっては反発もあります。そうした人も巻き込んで、ストレスが少なく働ける環境を作るために一人一人の行動を変えさせる、やる気にさせることは今のところ AI では代替不可能と思います。
現在、職場環境環境改善のアドバイスを提供しているのはストレスチェックの実施者を務める産業医や保健師が多いと思われます。今回見たように一般論であればChatGPTでも対応可能と言えますので、今後は上記で述べたような従業員を動機づけたり、新しい行動を習慣化させるといった心理学、行動科学に関するスキルも身に付けていく必要が増していると言えるのではないでしょうか?
<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了
以 上