カスタマーハラスメント対策のポイントは権限委譲とモニタリング

はじめに

今回はカスタマーハラスメント対応の対応のポイントについて解説したいと思います。カスタマーハラスメント対策のポイントは、①法律や条例で定義されたカスタマーハラスメントの定義をもとに、自社・自団体に適した具体例を示して現場がカスタマーハラスメントに該当するか否かを判断しやすくし、②最終的なカスタマーハラスメントの判断を現場に委ね、③経営・本部として現場の判断をモニタリングすることにあります。①~③のポイントについて順に説明しましょう。

現場に役立つカスタマーハラスメントの判断基準作り

カスタマーハラスメントは、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等で示されている定義を参考に今後法律や条例で定義が示されると思いますが、現場にとっては抽象的なのでさらに噛み砕く必要があります。

出所)厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

たとえば、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」においては下記のように具体的な類型が示されており、これらをもとに、企業・団体でカスタマーハラスメントの類型を作成し、現場の従業員に周知徹底していきます。

たとえば、マニュアルで示されている下記のような類型に関しても、「身体的な攻撃」に、これまでの自社事例をもとに、胸倉をつかむ、蹴るといった具体的な行為を追記することも有効と言えます。「威圧的な言動」についても、「机をたたく・蹴る」といった具体的な行為を追加し、「拘束的な言動」については具体的な時間の目安も含めると現場がより判断しやすくなります。

(要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの)

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言)
  • 威圧的な言動
  • 土下座の要求
  • 継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
  • 拘束的な言動

最終判断は現場に任せる

前項のような対策を取ったとしても、全てのカスタマーハラスメント類型を網羅することは到底不可能であり、最終的には現場に判断を委ねることが重要です。逐一本部の指示を仰ぐことなく必要に応じて現場がカスタマーハラスメントと判断した顧客等に対しては警察を呼ぶ等の措置を講じます。

下記の例であれば、身体的な攻撃、精神的な言動、土下座の要求は分かりやすいのですが、威圧的な言動継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動に関しては判断が分かれるケースがあるかもしれません。たとえば、舌打ちをする、足を踏みならす、机を一度だけ叩くという行為が威圧的な言動に該当するかどうかは判断が分かれる可能性があります。

(要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの)

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言)
  • 威圧的な言動
  • 土下座の要求
  • 継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
  • 拘束的な言動

カスタマーハラスメントの定義に照らすと、要求内容が妥当でなければ、下記の行為もカスタマーハラスメントに該当するとされています。逆に言えば、企業側にミスがあった場合にはカスタマーハラスメントに該当しない訳ですが、あまりにも高額の金銭を要求する場合は威圧的な言動に該当する可能性、土下座の要求をしないまでも威圧的な言動で長時間謝罪を要求するような場合は拘束的な言動に該当する可能性があり、現場として判断が迷うところでしょう。しかし、企業として現場にカスタマーハラスメントの判断基準を徹底した後であれば、最終的な判断は現場の主観に任せることがポイントです。

(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの)

  • 商品交換の要求
  • 金銭補償の要求
  • 謝罪の要求(土下座を除く)

現場の判断をモニタリングする方法

経営層、本部からすると、「本来カスタマーハラスメントでないものも、カスタマーハラスメントとして対応してしまい、顧客を失ってしまうのでは?」、「現場は顧客を失うことを恐れてカスタマーハラスメントとして対応出来ないのでは?」という懸念があるため、現場に判断を委ねることに抵抗感があるかもしれません。

そこで、お薦めしたいのは、現場に権限移譲しつつも、経営・本部がしっかり現場の判断結果をモニタリングし、必要な場合は現場に指導することです。具体的な方法を1つ紹介します。

多くの企業・団体が現場で起きたクレーム・トラブルを報告書といった形で報告させていると思います。カスタマーハラスメント対策が準備出来たら、現場に事例ごとにカスタマーハラスメントとして判断をしたかどうかも付記するようにします。本部や経営は、現場から上がって来た事例について、現場の判断を伏せた状態でカスタマーハラスメントか否かを判断します。現場の判断と本部の判断を付け合わせて、本部も現場もカスタマーハラスメントに該当すると判断した事例数、現場は該当しないと判断したが本部は該当すると判断した事例数、、、といった具体に下記のような表で集計して把握するようにします。

本部が該当すると判断した事例のうち現場も該当すると判断した割合(感度)、本部が該当しないと判断した事例のうち現場も該当しないと判断した割合(特異度)を求めます。感度、特異度ともに高い状態がカスタマーハラスメントを現場が正しく判断出来ている状態と言えます。

上記の表では、感度、すなわち、本部が該当すると判断した事例のうち現場も該当すると判断した割合=10/(10+2)=83%、

特異度、すなわち本部が該当しないと判断した事例のうち現場も該当しないと判断した割合=15/(1+15)=94%

となります。感度、特異度の両方が高い状態が理想です。たとえば、店舗ごとにカスタマーハラスメントの判定がうまくいっているかを本部が視覚的に把握するには、縦軸に感度、横軸に1-特異度をプロットします。

感度も特異度も高い状態が理想ですので、このグラフでは左上にあるほど理想です。感度が低い店舗、つまり、カスタマーハラスメントであるものをカスタマーハラスメントとして判断出来ていない傾向にある店舗に対しては、現場のカスタマーハラスメントの理解を確認した上で、積極的にカスタマーハラスメントとして判断するよう指導します。逆に、特異度が低い、つまり、カスタマーハラスメントでない事例をカスタマーハラスメントとして判断している傾向にある店舗に対しては、同様に、カスタマーハラスメントの理解を確認した上で、カスタマ―ハラスメントとしての範囲を現状よりも狭く解釈するよう指導します。このようなツールを使うことで、現場のカスタマーハラスメントの判断が適切かどうかを視覚的にモニタリングすることが可能となります。

終わりに

今回のポイントを繰り返すと、①法律や条例で定義されたカスタマーハラスメントの定義をもとに、自社・自団体に適した現場の担当者が理解しやすいカスタマーハラスメントの判断基準を現場に提供し徹底すること、②最終的なカスタマーハラスメントの判断は現場に委ね、③経営・本部として現場の判断をモニタリングし必要に応じて修正する、となります。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

以 上

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