カスタマーハラスメント対応方針作成のポイント
はじめに
最近「カスタマーハラスメント」という言葉が急速に認知度を高めており、各社においてカタマーハラスメント対策が急速に進んでいます。特に、カスタマーハラスメント対策企業マニュアルで、基本方針の策定が1番目に挙げられていることから、カスタマーハラスメントに対する基本方針を策定し公表する企業が増えています。
カスタマーハラスメント対策企業マニュアルにおいても下記の通り、基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発の重要性が示されています。
4.2 基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
企業のトップは、カスタマーハラスメント対策への取組姿勢を明確に示す必要があります。企業として、 職場におけるカスタマーハラスメントをなくす旨の方針を明確にし、 トップ自ら発信することが重要です。企業として、基本方針や姿勢を明確にすることにより、企業が従業員を守り、尊重しな がら業務を進めるという安心感が従業員に育まれます。 企業の姿勢が明確になることで、 カスタマーハラスメントを受けた従業員や周囲の従業員も、 トラブル事例や解消に関して 発言がしやすくなり、 その結果、 トラブルの再発を防ぐことにもつながります。
出所)カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
カスタマーハラスメントに対する基本方針のポイント
カスタマーハラスメント対策企業マニュアルには基本方針に盛り込む要素例として下記のようなものが示されています。
・カスタマーハラスメントの内容
・カスタマーハラスメントは自社にとって重大な問題である
・カスタマーハラスメントを放置しない
・カスタマーハラスメントから従業員を守る
・従業員の人権を尊重する
・常識の範囲を超えた要求や言動を受けたら、 周囲に相談して欲しい
・カスタマーハラスメントには組織として毅然とした対応をする
出所)カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
現在各社が公表しているカスタマーハラスメント対応方針を見ても概ね上記の内容が盛り込まれています。たとえば、JR東日本グループであれば、「はじめに」でカスタマ―ハラスメント対応方針を定めるに至った経緯、「カスタマーハラスメントの定義」、「カスタマーハラスメントへの対応姿勢」、「当社グループにおける取り組み」という流れとなっています。
https://www.jreast.co.jp/press/2024/20240426_ho01.pdf
ここでは、カスタマーハラスメント対応方針を策定する際に気を付けたい点について2点述べたいと思います。
1点目は、カスタマーハラスメントの具体的な類型は、自社でのカスタマーハラスメントの実態把握をもとに自社に即したものとするということです。カスタマーハラスメントの基本的な類型はカスタマーハラスメント対策企業マニュアルに示されていますが、業種ごとに類型が少し異なることが想定されます。そのため、アンケート調査やカスタマーハラスメント記録等を元に自社のカスタマーハラスメントの実態を把握し、それをカスタマーハラスメントの対応方針策定に生かすのが重要です。たとえば、東京電力エナジーパートナーであれば、下記のような類型がカスタマーハラスメント対応方針で示されており、実際に現場で発生した事例をもとに策定されたものと思われます。
手続きに必要な情報の提供拒否 | 必要な情報の提供を拒否し、手続きを強要する行為 |
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他にも、ブックオフグループであれば「関係者以外立ち入り禁止区域への侵入、居座り行為」が類型として示されており、こちらも自社で実際に発生した事例をもとに盛り込まれたものと思われます。
2点目は、カスタマーハラスメント対応方針を作成する際に、顧客や利用者からの正当なクレーム、業務改善につながるコメント等を排除する訳ではないという姿勢を同時に示すことです。たとえば、JR東日本グループであれば、「はじめに」において「当社グループは、お客さまからのご意見・要望に対して、これからも真摯に対応してまいります。しかしながら、カスタマーハラスメントに該当する行為に対しては、毅然とした対応を行い、(以下略)」と述べており、顧客からの意見・要望に対しては従来通り真摯に対応する点が述べられています。カスタマーハラスメント対応方針は公表されることが前提となるため、それを目にした利用者や消費者が企業との対立構造を意識することなく納得感をもって受け止めてもらえるような工夫が望まれます。
おわりに
今回は各社のカスタマーハラスメント対応方針を例にとって、カスタマーハラスメント対応方針策定のポイントについて解説しました。今後自社でカスタマ―ハラスメント対応を進める上でカスタマーハラスメント対応方針の策定は一丁目一番地と言える取り組みです。ぜひ自社ならではのカスタマーハラスメント対応方針を策定して従業員、顧客等に周知することをお勧めします。
<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了
(参考)各社のカスタマーハラスメント対応方針
JR東日本グループ
https://www.jreast.co.jp/press/2024/20240426_ho01.pdf
ANAグループ、JALグループ
https://press.jal.co.jp/ja/release/202406/008157.html
損保ジャパン
https://www.sompo-japan.co.jp/-/media/SJNK/files/news/2024/20240709_1.pdf?la=ja-JP
ブックオフグループ
https://www.bookoffgroup.co.jp/site/customerharassment.html
東京電力エナジーパートナー
https://www.tepco.co.jp/ep/support/cc/customerharassment/
以 上