働く女性のストレスの特徴とは?

はじめに

昨今社会では女性活躍がますます求められており、実際女性の労働参加率も向上しています。そこで、今回は働く男性と比較して働く女性の仕事のストレスにどのような違いがあるのか考えてみたいと思います。

労働安全衛生調査(実態調査)による調査結果

まず参考となるのは、全国の労働者を対象に厚生労働省が年に1回実施している労働安全衛生調査(実態調査)の個人調査です。

令和5年度版では、「あなたは現在の自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレス(以下「ストレス」といいます。)となっていると感じる事柄がありますか。」という質問に対して、強い不安、悩み、ストレスの内容を3つまで挙げてもらう形式で回答しています。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r05-46-50_kekka-gaiyo02.pdf

男性労働者で該当者が多いのは、仕事の量(41.9%)、仕事の失敗、責任の発生等(39.2%)、仕事の質(28.9%)、対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)(26.3%)、会社の将来性(25.8%)となっています。

女性労働者では、仕事の失敗、責任の発生等(40.2%)、仕事の量(36.3%)、対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)(33.7%)、顧客、取引先等からのクレーム(28.0%)、仕事の質(25.2%)となっています。

女性労働者においては、仕事の量や質に対するストレスが少ない代わりに、対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)に対するストレスが多いことが分かります。女性労働者で、第4位となっている、顧客、取引先等からのクレーム(28.0%)は、小売業、ホテル、医療・介護といった対人接客業務が中心となる領域で女性労働者が多いことが影響している可能性があります。昨今ではカスタマーハラスメント対策が注目を集めている領域です。

強い不安、悩み、ストレスの内容を1つ以上挙げた労働者の割合は男性で、84.0%、女性で81.1%となっており、日本の労働者全体では男性の方がストレスを感じている労働者が若干多いことが分かります。

EAPによるストレスチェックデータ

次に、EAPによるストレスチェック結果から、労働者のストレスの傾向を男女別に比較してみたいと思います。東京海上日動メディカルサービスが公表している約21万人のストレスチェックデータを分析した結果では、高ストレス者が男性14.0%、女性15.0%となっており、女性の方が高ストレス者が多いという結果となっています。

https://www.tokio-mednet.co.jp/.assets/2023%E5%B9%B4%E5%BA%A6TMS%E3%83%8A%E3%83%93%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E7%B5%90%E6%9E%9C%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%AA%BF%E6%9F%BB-%E7%AC%AC1%E5%BC%BE.pdf

もう1社の結果として、セーフティネットが公表している2019年から2021年度のストレスチェックデータ分析した結果を見ても一貫して女性の方が男性よりも高ストレス者比率が高くなっています。

全国調査とストレスチェックで男女の傾向が違う理由

労働安全衛生調査(実態調査)では男性労働者の方がストレスを感じている割合が高く、ストレスチェックでは女性労働者の方が高ストレス者比率が高いという一見矛盾する結果が得られました。ここではその理由を考えてみたいと思います。

理由の1つは対象となっている労働者の属性の違いです。上記で紹介したEAPにストレスチェックを委託をして実施しているのは中堅企業、大企業が多いため、労働安全衛生調査(実態調査)が対象としている日本全国の労働者とは傾向が異なっている可能性があります。

もう1つは厚生労働省による労働安全衛生調査(実態調査)では、ストレスの原因を問うものであり、実際のストレス反応は聞いていないという点です。上記で紹介したEAPによる分析結果は労働者がストレス反応(イライラ感、不安感、抑うつ感)をどの程度感じているかを数値化したものです。従って、男性の方がストレスの原因を多く感じているが、女性の方がストレス反応につながりやすいストレスの原因を多く感じているという可能性です。

セーフティネットが公表しているストレスチェックの分析結果では、ストレスチェックで調査されるストレスの原因と、心理的なストレス反応、ワーク・エンゲイジメント等との相関係数を求めています。高ストレス者比率と概念の近い心理的なストレス反応との相関係数が高いストレスの原因として、職場での対人関係、情緒的負担が挙げられています。情緒的負担とは「仕事の上で,気持ちや感情がかき乱されることを指し、感情労働で負担が大きいことが知られています。

労働安全衛生調査(実態調査)では女性の方が、対人関係、顧客、取引先等からのクレームといったストレスを感じているというという結果であり、そうした要因はストレス反応につながりやすいため、ストレスチェックでの女性の高ストレス者比率の高さにつながっている可能性はあります。

終わりに

今回は単純に男女別の結果を検討しましたが、女性労働者をメンタルヘルスの観点から支援していくためには、結婚、出産といった女性ならではのライフイベントを考慮して年代別、子供の有無等も分析の軸として分析していく必要があるでしょう。

<執筆者紹介>

宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了。

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