ストレスチェック結果を女性活躍推進に役立てるには?
はじめに
今年もストレスチェックが実施され、集団分析が実施されている時期だと思います。今回は昨今企業の大きな課題となっている女性活躍推進、特に女性管理職比率の向上のためにストレスチェック結果を役立てる方法を解説したいと思います。なお、今回はストレスチェックに用いる調査票は57問の職業性ストレス簡易調査票を想定します。
職業性ストレス簡易調査票:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/dl/stress-check_j.pdf
分析のための準備
ストレスチェック結果を活用して女性活躍推進、特に女性管理職の向上につながる分析をするための初手は、ストレスチェック結果を性別×管理職/非管理職で分けて分析することです。ストレスチェックを外部ベンダーに委託して実施している場合、ベンダー側が性別×管理職/非管理職のクロス集計に対応していないという理由で、性別×管理職/非管理職で分けた分析が実施されていないことも多いです。ベンダー側が対応出来なくても、予め性別と管理職/非管理職を組み合わせた属性項目を企業側が用意することで、実質的に性別×管理職/非管理職のクロス集計を実施することが可能となる場合もあります。
場合によっては個人IDや性別、管理職/非管理職以外の部署や職種といった個人情報を除外した個人データをベンダーに企業側に提出してもらって分析することが考えられます。なお、この方法は厚生労働省のストレスチェック制度関係 Q&Aにおいても個人情報の提供に該当しないという見解が示されています。
管理職の範囲は最低数人の部下をマネジメントする立場に限定します。組織によっては部下がいないのに一定勤続年数の従業員を管理職扱いしている場合もありますが、本分析においては組織内の職位に拘らず、明確に数人以上の部下をマネジメントしていると言える職位を管理職と定義して分析を行うことがポイントです。
心理的ストレス反応、身体的ストレス反応の比較
性別×管理職/非管理職で分けた集計結果が得られたら男性管理職、女性管理職の心理的ストレス反応、身体的ストレス反応といったアウトカムを比較してみましょう。心理的ストレス反応には不安感、抑うつ感、不安感等が含まれ、身体的ストレス反応には、めまいがする、腰が痛い、首筋や肩がこるといった身体に現れるストレス反応が含まれます。心理的ストレス反応も身体的ストレス反応も年代や役職による差が大きいのですが、管理職に限定した場合、大きな差がないことが想定されます。しかし、組織によっては大きな差が見られることもあります。t検定等によって統計的に男女差があるかを確認することもお勧めします。
なお、数十万人のストレスチェック結果を分析した結果では、女性の方がメンタルヘルスが悪いという結果が得られることが多いです。
例:東京海上日動メディカルサービス「2023年度TMSナビ ストレスチェックの結果に関する調査」https://www.tokio-mednet.co.jp/.assets/2023%E5%B9%B4%E5%BA%A6TMS%E3%83%8A%E3%83%93%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E7%B5%90%E6%9E%9C%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%AA%BF%E6%9F%BB-%E7%AC%AC1%E5%BC%BE.pdf
ストレスの原因となる職場環境要因の比較
心理的ストレス反応、身体的ストレス反応を比較したら、今度はそれらの原因となっている仕事の量的負担、職場での対人関係などの職場環境要因も男性管理職、女性管理職で比較します。男性管理職と女性管理職で差があるかを統計的に調べるにはt検定などの統計手法を用いることをお勧めします。
一般には男性労働者の方が仕事の量や質がストレス源となっており、女性では対人関係に関するストレス源が多い傾向がありますが、自社の管理職ではどのような傾向になっているでしょうか?
典型的な結果の例としては女性管理職の方が上司からの支援が少ないという結果です。上位の管理職が男性だけで構成されている組織で発生しやすい結果です。女性管理職から上司に相談しづらい、上司からも女性管理職に声を掛けづらいという事態が発生している一方で男性管理職は上位の管理職と意思疎通や相談がスムーズに出来ており、プライベートでも趣味や飲食を共にする関係であるといった事態が想定されます。
組織によっては男性管理職と女性管理職で仕事の適性度に差がある場合があります。女性管理職が少ない中で周囲から「お手並み拝見」いう見られ方をされたり「○○部門初の管理職」として大々的にPRされる等によって過度なプレッシャーに晒され適性度を低く感じているというケースが想定されます。あるいは、管理職同士の相談相手が少ないために自分がどの程度マネジメント出来ているのか自信が持てない、本人が管理職志向がないのに半ば強制的に管理職に昇進させられたといった場合に仕事の適性感が低くなっている場合があります。
職場環境要因と心理的ストレス反応、身体的ストレス反応の関係の強さの比較
最後は、職場環境要因と、心理的ストレス反応、身体的ストレス反応の関係の強さを相関係数を算出することにより比較します。女性管理職の方が相関係数が高い職場環境要因で男性管理職よりも良いものは女性管理職の働きやすさの促進要因になっている可能性があります。一方で、女性管理職の方が相関係数が高い職場環境要因で男性管理職よりも悪いものは女性管理職の働きやすさの阻害要因になっている可能性があります。なお、「男性管理職と女性管理職で相関係数に差があるのか?」という疑問に対しても統計的に答えを出すことが出来ます。
終わりに
女性活躍推進を進めるにあたっては「他社がやっている」ということだけを根拠に施策を実施しても成果は上がりません。自組織の女性管理職が働くうえで何が阻害要因になっていて、何が促進要因になっているのかを明らかにして、それにらを参考に施策を実施することが重要です。
一般に女性活躍推進を担当する部署とストレスチェックを担当する部署は同一でないことが多いです。しかし、女性活躍推進を根拠にもとづいて進めるためには、両部署が連携して「根拠にもとづく女性活躍推進」を進めることが望まれます。今回の分析を社内で実施することが難しく、ストレスチェックベンダーに追加費用を払って分析を実施してもらう必要があるという場合には、ストレスチェック部門の予算ではなく女性活躍推進の担当部署の予算を活用する、分析結果は両部門で共有して、施策の実施でも連携するといった方法もあるのではないでしょうか?
<執筆者紹介>
宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了。
以 上