カスタマーハラスメント対策における部門間の役割分担、連携について

<執筆者紹介>

宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了。

カスタマーハラスメント対策推進における役割分担の重要性

ここ数年、カスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題として注目されています。今年の4月から東京都の条例が施行され、本国会において事業主にカスタマ―ハラスメント対策を義務付ける法案が提出されることが予定されています。

これまで企業におけるハラスメント対策では主に人事労務部門(場合によっては産業保健部門)とコンプライアンス部門が推進に関わってきました。今回注目されているカスタマーハラスメントは、人事労務部門、コンプライアンス部門に加えて顧客対応・CS部門が関わることが特徴です。したがって、各部門の役割を整理しないと、それぞれの部門部門がお互いに「向こうの部門の所管だ」と認識してしまい、結果として必要なカスタマーハラスメント対策が十分に実施されない可能性があります。野球でいう「お見合い」状態です。

そこで、今回は人事労務部門(+産業保健部門)、顧客対応・CS部門、コンプライアンス部門がカスタマーハラスメント対策においてどのような役割を果たし、どのように連携すべきかについて述べたいと思います。

カスタマーハラスメント対策推進における役割分担の例

一般的な企業の職務分掌とカスタマーハラスメントにおける役割を整理しました。

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㈱ベターオプションズ作成

人事労務部門のカスタマーハラスメント対策における主な役割はカスタマーハラスメントによるメンタルヘルス不調の防止、従業員のセルフケア、管理職によるラインケアの強化と考えられます。カスタマーハラスメントは一般的にBtoC企業に限定されると考えられがちですが、BtoBであっても取引先からのクレーム等が発生するため、カスタマーハラスメントも発生する可能性があります。その際に、従業員がしっかりセルフケアを実施し、管理職はカスタマ―ハラスメントの被害に遭った部下のメンタルヘルスケアをしっかり実施することが重要です。

産業保健部門は社員の健康に責任を持つ部門です。カスタマーハラスメント対策では、人事労務部門と連携してカスタマーハラスメントによる健康被害を把握・対策することが期待されます。特にカスタマーハラスメントの被害に遭った社員のケアは産業保健部門としての専門性を発揮して対応することが望まれます。

コンプライアンス部門は、社内の法令遵守、不正防止が主なミッションです。カスタマーハラスメント対策においては犯罪に該当するようなカスタマーハラスメント事案が発生した場合には弁護士や警察とも連携しながら対応することが望まれます。カスタマーハラスメントは自社の社員が被害者になる場合だけではなく加害者となる場合もあります。その場合は他社のコンプライアンス部門とも連携して対応する必要があります。

顧客対応・CS部門は、まさに顧客と接している部門のためカスタマーハラスメントに遭いやすい部門と言えます。カスタマーハラスメント対策においては対応マニュアルの作成・見直しを行い、対応記録やエスカレーションルールを整備することが重要です。また、対応者の心理的負担を軽減するための取り組みも望まれます。

連携のポイント①人事労務部門とコンプライアンス部門

人事労務部門とコンプライアンス部門が競合し得るのは、たとえばカスタマーハラスメント対策のための研修をどちらが実施するのかという場合です。

カスタマーハラスメント対策ための研修はどちらが担当という考え方ではなく、両部門がそれぞれの観点で実施することが望まれます。コンプライアンス部門が実施する研修では、カスタマーハラスメント対策として社員として求められること、逆にやってはいけないことを法的根拠も踏まえながらしっかり理解してもらうことが目的となります。

人事労務部門が実施する研修では、管理職が部下がカスタマーハラスメントの被害に遭った場合に適切に対処できることになることが目的となります。カスタマーハラスメントの被害に遭った部下のメンタルケアを実施する、カ必要に応じて産業医や保健師、あるいは医療機関につなぐといった適切な対応が取れるようロールプレイ等を交えた実践的な研修が望まれます。

連携のポイント②人事労務部門と顧客対応・CS部門

間接部門である人事労務部門が直接部門である顧客対応・CS部門を支援するというのが基本的な形となります。たとえば、人事労務部門が現場のマネージャー向けの顧客対応スキルを向上させる研修を企画する、あるいは外部相談窓口の利用を周知することが考えられます。

連携のポイント③コンプライアンス部門と顧客対応・CS部門

顧客対応・CS部門とコンプライアンス部門の関係性は、「現場は勝手にやっている」、「現場のことを分からない煙たい存在」とお互いに反目しがちなものに陥りがちです。しかし、カスタマーハラスメント対策においては、顧客対応・CS部門で悪質な事案が発生した場合に、企業として初動を間違わないためには、日頃から両部門に信頼関係があり、顧客対応・CS部門が早急にコンプライアンス部門に相談することが重要です。

事が起こって連携するのではなく、顧客対応・CS部門が作成した顧客対応マニュアルが法的な観点から問題ないか、必要な場合にはコンプライアンス部門に相談するフローとなっているか、コンプライアンス部門が責任をもって確認することが望まれます。

終わりに

今回はカスタマーハラスメント対策を、人事労務部門、コンプライアンス部門、顧客対応・CS部門がどのように実施し、どのように連携すべきかを解説しました。各部門で調整しながらカスタマーハラスメント対策を推進することが望まれますが、最終的には、経営層がリーダーシップを発揮して各部門の役割を明確にし、適切な連携を確立することが重要です

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以 上

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