心理的安全性を高める上司の特徴は?
<執筆者>
宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了。
目次
- はじめに
- 上司な謙虚なリーダーシップ、心理的安全性とプレゼンティーイズムに関する研究
- 分析の結果
- 研究から得られる示唆
はじめに
「心理的安全性」という言葉が人事界隈でよく聞かれるようになりました。心理的安全性の定義は研究者によっていろいろありますが、ここでは、最大公約数的に「組織のメンバーが自身の意見や疑問、不安などを安心して表現できる状態」と考えます。たとえば、「上司が反論を許さないような雰囲気なので自由に意見を言いやすい」、「会議では異論が許されない雰囲気でいつも恐る恐る発言している」という職場では心理的安全性が欠如していると言えます。
現在、心理的安全性を保つ、向上させることが重要だと思われていますが、心理的安全性が高まると組織に何が良いのか?心理的安全性を高めるにはどうすれば良いのかは必ずしも明らかではありません。
そこで今回は、上記の問いに答えるヒントとして今回は日本の労働者を対象として、上司の謙虚なリーダーシップ、心理的安全性、プレゼンティーイズムの関連を検討した研究を紹介したいと思います。
上司な謙虚なリーダーシップ、心理的安全性とプレゼンティーイズムに関する研究
ご紹介するのは松尾らによる論文です。
Matsuo, A., Tsujita, M., Kita, K., Ayaya, S., & Kumagaya, S. I. (2024). The mediating role of psychological safety on humble leadership and presenteeism in Japanese organizations. Work, 79(1), 437-447.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11492106/
この研究は日本の異なる企業に所属する 462人の労働者を対象に実施され、心理的安全性と上司の謙虚なリーダーシップ、プレゼンティーイズムについてはそれぞれ学術的に信頼性や妥当性が検証された調査票を用いて測定されています。
プレゼンティーイズムは、SPQという日本でよく用いられている調査票で評価されています。病気やけがで仕事でどれだけ生産性の損失が生じているか評価しています。
心理的安全性および上司の謙虚なリーダーシップは下記論文で開発されたそれぞれの日本語版調査票で測定されています。
Matsuo, A., Tsujita, M., Kita, K., Ayaya, S., & Kumagaya, S. I. (2024). Developing and validating Japanese versions of psychological safety scale, knowledge sharing scale and expressed humility scale. Management and Labour Studies, 49(3), 375-388.
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0258042X231191871
心理的安全性は下記の7項目で評価されています。
1 チームメンバーがミスをすると、しばしば白い眼で見られる。*
2 このチームのメンバーらは、問題や困難について話し合うことができる。
3 このチームのメンバーらは、自分とは異なるという理由で他者を拒絶する可能性がある。*
4 このチームでは、リスクを取っても安全だ。
5 このチームでは、他のメンバーに助けを求めることは困難だ。*
6 このチームには、私の努力を無駄にしようとするメンバーはいない。
7 このチームのメンバーと一緒に仕事をするとき、私ならではのスキルや才能が価値を認められ、生かされている。
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0258042X231191871
上司の謙虚なリーダーシップは、下記の9項目で評価されています。なお、質問文中の「この人物」は上司を指すことが教示文で説明されています。
1 この人物は、批判的な内容であっても、フィードバックを積極的に求める。
2 この人物は、何かのやり方がわからないとき、そのことを認める。
3 この人物は、自分よりも他人のほうが多くの知識やスキルを持っているとき、 そのことを認める。
4 この人物は、他人の長所に注意が向く。
5 この人物は、他人の長所をよく褒める。
6 この人物は、他人の特異な貢献に対して感謝を示す。
7 この人物は、他人から意欲的に学ぼうとする。
8 この人物は、他人のアイデアに耳を傾ける。
9 この人物は、他人の助言に耳を傾ける。
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0258042X231191871
分析の結果
媒介分析という手法を用いて検討した結果、上司の謙虚なリーダーシップとプレゼンティーイズムの間の直接効果は有意ではなかったのに対して、
上司の謙虚なリーダーシップ→心理的安全性→プレゼンティーイズムの間接効果は有意な結果となりました。つまり、上司の謙虚なリーダーシップが出来ていることで心理的安全性が高まり、その結果としてプレゼンティーイズム(生産性損失)が低かったということが示唆される結果です。
研究から得られる示唆
この研究からは上司の普段の職場での態度が心理的安全性と関連していることが分かりました。今回紹介した、謙虚なリーダーシップに関する項目に該当すればするほど謙虚なリーダーシップを有する上司と言えますので、管理職の方はご自身がどの程度実行できているか自己チェックしてみても良いかもしれません。人事部門で心理的安全性を高めようと思っている人は上記の調査票を参考にして管理職の謙虚なリーダーシップを高めるための研修を企画するのも良いかもしれません。
以 上