50名未満事業場へのストレスチェック義務化を巡る直近の動向

<執筆者>
宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了。

目次

  1. はじめに
  2. 50名未満事業場での実施動向
  3. 普及のための実務的方策
  4. 実例:三井住友カードの取組み
  5. 展望

はじめに

現在、ストレスチェック制度は、現行では常時50名以上の労働者を雇用する事業場にのみ義務付けられています。本年度の通常国会において労働安全衛生法が改正され、50名未満の小規模事業場への適用拡大が決定し現在検討会での検討が実施されています。

50名未満事業場での実施動向

これまでにも考察していますがいくつかの点で50名未満事業場でのストレスチェックの実施は低調に留まる可能性があります。

50名未満事業場の多くが中小企業の事業場であり、ストレスチェックに要する費用の捻出が困難である点、さらに現行の50名以上事業場とは異なり、50名未満事業場については労働基準監督署への実施報告義務が課されない見通しです。すなわち、制度としての強制力が著しく弱いという特徴を持ちます。人材確保のための賃上げや物価高の影響に悩まされる中小企業からすると、ストレスチェックへの支出は後回しにならざるを得ないと思います。

ストレスチェックを提供するベンダー側からすると、小規模事業場であっても集客、営業、契約といったマーケティング・営業向コストがかかることを考えると、一定上の価格を提示しないとコスト倒れになるという事情から、50名未満の事業場に対して1人あたり1,000円を切る価格の提示は難しいと考えられます。

普及のための実務的方策

こうした状況を踏まえますと、50名未満事業場に対するストレスチェックの実施は次の3つのアプローチが現実的であると考えられます。

  1. 健診機関が健康診断とセットで実施する方法
  2. 既に中小企業と接点を持つ企業が、既存サービスに付帯する形でストレスチェックを提供する方法

これらの方式であれば、新規営業やマーケティングに要する工数を抑制でき、比較的低コストでの実施が可能となります。

実例:三井住友カードの取組み

この方向性の一例として、三井住友カードが中小企業オーナー向けクレジットカードの付帯サービスとしてストレスチェックと医師面接を提供する動きを見せています。ヘルスケアアプリや保険とセットで提供される予定で、ストレスチェックと医師面接業務は同社が直接担うのではなく、外部のAvenir社に委託する方式となっています。

https://www.smbc-card.com/company/news/news0002072.pdf

ただし、上記サービスの提供価格は月3 万円(税抜き)となっており年間36万円(税抜き)となるため、なるべく支出を削りたい中小企業側からすると、10~20万程度のストレスチェックや医師面接のみを提供するベンダーが存在すればそちらが魅力的に思える可能性が高いと考えます。

今後も同様のスキームでストレスチェックを中小企業に提供する動きがカード会社に限らず、オフィス用品メーカーや複合機メーカーなど、中小企業向けに広範なサービスを提供している企業に波及する可能性が高い思われますが、中小企業が現実的に支出可能な価格で提供できるるかが普及の分かれ目となるでしょう。

展望

50名未満事業場への義務化は、制度面での強制力が限定的であるため、ベンダーがどの程度魅力的な価格を提示出来るかが普及要因となるでしょう。健康診断とセットで提供する方式や中小企業向けのサービスを提供する企業の
付帯サービスとしての提供モデルを通じて普及が進む可能性を持ちます。

以 上

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