最新白書でわかる!業界ごとのメンタルヘルスリスクと有効な対策ポイント
はじめに
企業や組織で効果的なメンタルヘルス対策を進めるためには、日本全体のメンタルヘルスに関する動向や、業界ごとの特徴を統計的に把握しておくことが重要です。そうした現状を知るうえで参考になるのが、2025年10月末に厚生労働省が公表した「令和6年度過労死等防止対策白書(令和7年版過労死等防止対策白書)」です。https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/karoushi/25/index.html
本記事では、その中から特徴的な統計結果をもとに、今後のメンタルヘルス対策を考えるうえでのポイントを紹介します。
労災発生状況のトレンド
まず、「過労死等の状況(脳・心臓疾患事案)」をみると、労災請求件数および支給決定件数は令和2年度から令和4年度にかけて減少傾向にありました。しかし、令和5年度には大きく増加しています。これは、新型コロナウイルス感染症の影響により経済活動が一時的に停滞し業務負荷が軽減したものの、その後の経済回復によって再び業務量が増え、労働者の負担が高まったことが背景にあると考えられます。

次に、精神障害に関する労災保険給付の請求件数は年々増加しており、特に令和5年度には大幅な増加が見られました。この傾向の背景には、精神障害による労災申請の認知度が高まっていることや、医療・介護業界などでの厳しい労働環境が続いていることがあると考えられます。

精神障害事案の「出来事別の割合」(平成24年度~令和4年度の合計)をみると、業界によって発生要因が異なっていることがわかります。

建設業では「重度の病気やケガ」に関連するケースが多く、医療業界では「悲惨な事故・災害の体験や目撃」や「同僚からの暴行・いじめ」に関する割合が高い傾向にあります。IT産業や芸術・芸能分野では「仕事内容・仕事量の大きな変化」が多く、外食産業や自動車運転従事者では「月80時間以上の時間外労働」、建設業では「2週間以上の連続勤務」が特徴的です。さらに、教職員では「上司とのトラブル」や「パワーハラスメント」が精神障害の主な要因となっています。
結果をもとにした対策の必要性
今回の過労死等防止対策白書の結果から、今後のどのような対策が求められるでしょうか?まず、脳・心臓疾患による労災事案が経済活動の活発さと連動していることからは、長時間労働や過度な業務負荷にならないような対策は依然として必要と考えられます。また精神障害等による労災事案が増え続けていることからは、セルフケア、ラインケア、ハラスメント防止のための取り組みも必要であることが分かります。
業種別の労災発生状況の特徴から、メンタルヘルス対策は「業界の特性に合わせたアプローチ」が必要であることが明らかです。たとえば、医療業界では同僚間の人間関係トラブルを防ぐためのハラスメント研修の優先順位が高いと考えられる。学校現場では、管理職によるパワーハラスメントを防止する内容を中心にした研修が望ましいでしょう。一方、IT業界や外食産業、自動車運転従事者などでは、長時間労働を防ぐための労働時間管理の徹底や、顧客対応の負担軽減、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対策の強化が求められます。カスハラ対策は、労働施策総合推進法によって事業者に義務づけられており、職場全体のメンタルヘルス環境を見直すきっかけにもなるでしょう。
以 上