ピープルアナリティクスの初めの一歩を踏み出すには②

はじめに

前回はピープルアナリティクスを開始するポイントとして、分析に適したデータを用意することを述べました。今回はピープルアナリティクスを始める上でもう一つ大事な点について説明したいと思います。それは「モデルの設定」です。モデルとは、概念と概念、あるいは変数間の関係性と言えます。

たとえば、テレワークで仕事のパフォーマンスが高いのか、オフィスでの勤務とした方が仕事のパフォーマンスが高いのか、ということをピープルアナリティクスによって検証したいとします。この場合、

勤務形態(テレワーク/オフィス)⇒仕事のパフォーマンス

のような関係性を想定します。⇒は影響を与えているという意味です。これがモデルの例です。

〇が原因で△に影響を与えているという因果関係を検証するのは非常に難しいですが、モデルを考える段階では、暫定的に因果関係を考えた方が議論がしやすいと思います。

もちろん、従業員の勤続年数と組織への愛着の間に関連がある(勤続年数が長くなると愛着が湧く、愛着が湧くことで勤続年数が長くなる)といった関連性のみのモデルを考えることも可能です。

勤続年数⇔組織への愛着の間

のように表現することが考えられます。

モデルを設定すると何が良いか?

さて、このようなモデルがなぜ必要という点について述べたいと思います。

多くの企業において従業員満足度調査が実施されていると思います。従業員満足度調査においては非常に多くの項目が設定されていて、会社全体はもちろんのこと部門ごと、年代ごとに平均値や標準偏差が集計されているのが一般的だと思います。さらに何らかのベンチマークに基づいたスコアという形で結果が表示されてることも多いかと思います。

従業員満足度調査のような調査を実施する目的としては実態把握に加えて、結果をもとにした従業員の満足度の向上のための政策立案があると思います。その際にどの要因(項目)を改善すれば従業員満足度が向上するのかが分からないと何に対して手を打てばいいのかが分かりません。

従業員満足度調査では往々にしてこのモデルが想定されておらずすべての項目が並列に並べられている場合があります。その場合、モデルが想定されていないため、結果を見てもある指標を改善するためにどの要因を改善していけば良いのかが明らかでないということがあります。また、非常に多くの項目が並列に並んでいると結局どの項目の結果を重視すれば良いのかも分かりにくいと言えます。その点で、調査の項目間のモデル(例:仕事の満足度⇒従業員のエンゲージメント、対人関係⇒従業員のエンゲージメント等)が想定されていればそのモデルに従って改善進めていくことができます。

外部ベンダーに調査を委託する場合以外に、自社で独自の分析を行う場合には特にモデルの不在が問題となります。モデルがない場合、ピープルアナリティクスを実行しようと思って社内で利用出来そうなデータを整理したは良いものの、その後どのような分析を実施すれば良いか分からないということが多くあります。さまざまな指標の平均値を出したり、データ間の散布図を描いたり相関係数を出すこともあると思います。その結果、全体として関連性は見えたものの、業務に役立つ示唆が得られないということが起こりがちです。

モデルを設定するには?

それでは、これまでに述べた「モデル」をどのように想定すれば良いのでしょうか?それには組織行動論や心理学の教科書や論文に掲載されている研究者が作成したモデルが参考になります。モデルで想定した因果関係の検証がプロの研究者でなければなかなか難しいということも、教科書や論文を参考にモデルを設定する理由です。もちろん、そのモデルの因果関係をそのまま使う必要はありません。ある程度似た概念であれば、自社の状況、入手できるデータ、分析の目的に応じてアレンジすることも可能です。

例えば従業員の離職について検討しているとします。その場合はいろいろ論文を探してみた結果、たとえば以下のようなモデルを考えたとします。

そうすると、「対人関係、待遇(への満足度)、仕事のやりがい、職務満足度、離職意思に関するデータを探せば良い」と見通しが良くなります。対人関係や仕事のやりがい、職務満足度、離職意思に関しては従業員満足度調査の結果を活用する、待遇に関しては従業員満足度の項目を利用したり実際の年収額を用いることを想定しても良いかもしれません。また、離職率の高さが問題となっている部門や年代があれば、その部門や年代の職務満足度、対人関係、待遇、仕事のやりがいを検討し、結果が悪いものがあればそれを優先的に改善する、といったことが考えられます。

終わりに

今回はピープルアナリティクスを開始する上で、分析の目的に即した概念(変数)間の関係性=モデルを設定することで、どのようなデータを集めれば良いかの見通しがよくなり、分析から示唆を得やすいということを説明しました。また、モデルの設定にあたっては、教科書や論文を参考に研究者が作成したモデルを参考にアレンジすると効率が良いことも説明しました。

以 上

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