行動科学から考えるテレワーク時代の人材育成
はじめに
新型コロナウイルス対応を目的として急速に普及しているテレワークですが、5/25の緊急事態宣言解除以降も、大都市、ホワイトカラーの職場の多くにおいて継続される見込みが高いと考えられます。
その理由としては、政府や経済団体の推奨、従業員からの継続希望の2つがあります。
まず、政府が新型コロナウイルス対応として、密集、密着、密接の、いわゆる「3密」を避けるために、テレワークを推奨しており、それを受けて多くの業界団体で制定されている新型コロナウイルス感染拡大防止のガイドラインにおいてもテレワーク推進が盛り込まれています。
たとえば、経団連が発表している、「新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」においても、テレワークが推奨されています。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/040.html
多くの調結果によって従業員側からもテレワークの継続を求める声が多いことも今回のテレワークの継続の後押しとなると考えられます。
たとえば、以下の調査結果でも過半数以上がテレワークの継続を希望しています。
パーソル総合研究所による調査
テレワークを続けたい⇒53.2 %
https://rc.persol-group.co.jp/news/202004170001.html
日本生産性本部による調査
テレワークを継続したい⇒「そう思う」24.3%、「どちらかと言えばそう思う」38.4%
https://www.jpc-net.jp/research/detail/004392.html
そこで、今回は、テレワークの恒久化を踏まえた、企業内での人材育成について、テレワーク下で何か課題となるかを行動科学的な観点から検討したいと思います。
行動科学的観点からの企業内人材育成
行動科学的な観点からは、企業内人材育成については、以下の3つの機会が重要と考えられます。
①知識を得る機会
②手本を見ること(モデリング)の機会
③行動にフィードバックを受ける機会
①の機会としては、業務手順書、マニュアルによって知識を得たり、業務に関連する書籍、研修等によって知識を得ることが一般的です。基礎的なマナーや、仕事の進め方、社内の手続き、業務に必要な知識等については新入社員研修で学ぶと思います。
②の機会については、営業同行で先輩の商談の進め方を目にする、オフィス内で先輩が上司に相談している様子を目にする、社内外の会議で上司や先輩がプレゼンしている様子を見る、先輩が顧客と電話で話している内容が耳に入るといった機会が考えられます。「門前の小僧習わぬ経を読む」ということわざは、まさにこのモデリングによる人材育成を表現したものです。
③については、実際の商談やプレゼンテーションの後に上司や先輩から、良かった点、修正した方が良い点を指摘される機会が該当します。他にも作成した資料について上司や先輩から添削を受けるいった機会が考えられます。
期末の評価面談の際に、評価の伝達だけでなく、その期を通した業務の進め方や勤務態度等に関する改善点等を指摘されるといった機会も行動にフィードバックしている機会がある考えられます。
さらに広い意味では顧客からのフィードバックや受注出来た、出来なかったというビジネスの結果が出る場面もフィードバックを受ける機会と捉えることが出来ます。
行動科学的には、②手本を見ること(モデリング)が、ある行動を習得するための学習の基本であると考えられているほか、「自分が出来る」という自己効力感につながることも知られています。
また、③についても、行動学的に考えると、ある行動に対して報酬(昇給する、褒められる、良い評価をされる、受注する)が与えられることでその行動の頻度が増え、逆に罰(減給される、叱責される、注意される、クレームを受ける、失注する)を受けることでその行動の頻度が下がることが想定されています。
山本五十六司令長官が部下の育成に関して語ったと言われる「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、 ほめてやらねば、人は動かじ」は上記の②と③を表現したものと解釈することが出来ます。
テレワーク下においては、この②手本を見ること(モデリング)、③行動にフィードバックを受ける機会、が損なわれてしまうことが特に問題と考えられます。以下では、それに対する対応を考えてみたいと思います。
テレワーク下での課題
手本を見ること(モデリング)の機会確保
テレワーク下においては、まず、人間の学習の根幹である、「手本を見ること(モデリング)」の機会が相当程度減少してしまうことが懸念されます。
この点への対応としては、オンラインのミーティングの録画機能を積極的に活用し、社内外の会議を録画することをお勧めします。
顧客とのミーティングの録画には事前に顧客に同意を得ておくことが必要となりますが、社内の議事録作成をするといった正当な目的があれば、許可が得られる可能性が高いと思います。顧客からしても、言った言わないでもめることを防ぐことになるメリットがあると考えられます。
トップセールスや社内で出世頭と目されている人物が主導したミーティングや商談を録画し、録画された人物にミーティングや商談の狙い、進め方のポイント、反省点などを簡単に文書にまとめてもらいます。その文書と録画した動画をセットで保存し、社内え共有し、後輩や部下のためのトレーニング教材とすることが考えられます。
社内の調整業務のようなオンラインミーティングツールではなく、メールやチャット、slackやteamsといった会議ツールを中心に用いる業務の場合は、上記のような動画によるモデリングが難しいかもしれません。その場合にも、手本にして欲しいことを部下や後輩に事前に伝えた上で、メールのCCや会議ツールのスレッドに入れておけば、モデリングをつなげることが出来ます。ここでのポイントは事前に手本にして欲しい点、意図や狙いをあらかじめ伝えておくことです。社内でメールで会議ツールを利用している場合、情報量が膨大となるため、そういった意図を伝えておかないと、ただ、情報として流れてしまい、モデリングにつながりづらくなります。
行動にフィードバックを受ける機会の確保
従業員の仕事の進め方が見えづらくなるため、上司や先輩から部下や後輩への行動にフィードバックの頻度や質が低下してしまう可能性があります。
この点への対応についてもミーティングの録画が有効です。特に、新入社員や若手社員のように今後の成長が期待される従業員のミーティングを録画し、顧客からの意図に即した回答が出来ていない、プレゼンのペースが速くなってしまっている、語尾が聞き取りづらい等、本人が気づきづらい点を事後にフィードバックすることが、成長のために役立つでしょう。
なお、このようなフィードバックはなるべく時間をおかずに直後に実施することが重要です。行動科学的にも行動とフィードバックの間隔が空き過ぎると学習につながりにくくなることが知られています。
効率の良い、即時のフィードバックを実行するには、以下のようなやり方が考えられます。
録画するミーティングについては、上司や先輩社員が気になる部分について会議内のの時間帯とフィードバック内容を組み合わせた簡単なメモを取っておきます。フィードバック対象の社員がそのメモを読みながらそのメモが指摘した時間帯の録画を見ることで、すべての動画を見ることなく、該当部分だけ再生することで効率的に内省を深めることが出来ると考えられます。なお、新入社員等であれば、先輩社員が一緒に動画を見ながら、気になる点を逐一アドバイスすることも考えられます。
なお、行動のフィードバックが機能するためには、フィードバックを受けることが自分の成長につながっているという実感を得ることも重要です。そのために、半年、あるいは1年に一回といった頻度で自身のミーティングやプレゼンテーションの動画を保存しておき、定期的に見直して自身の成長を確認することもフィードバックを活用した成長促進につながると考えられます。
おわりに
上記では、オンライン上での録画というテレワークだからこそ可能となったモデリング、フィードバック手法について触れました。
テレワークにおいては、従業員の勤務の様子が見えづらい、対面の場合に比べて細かいニュアンスを伝達しづらい、職場でのコミュニケーションが減りがちというデメリットもあります。テレワークだからこそ可能になるテクノロジーを活用して、そういったデメリットを補うことが重要です。
人事部門においては、現行の階層別研修の内容をテレワークに対応したものに見直す機会を持つことを強くお勧めします。
以 上
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