テレワーク時代に重要となる余暇のリカバリー経験

はじめに

最近ではテレワークが大都市圏を中心に普及し、働き方の一つの選択肢として普及しています。労働者にとっては働き方の選択肢が増えることは望ましいのですが、テレワークを利用して働く人からは「オフィス勤務時に比較しても疲れる」といった声を聴くことが多くなりました。

その一つの原因として、テレワークにおいては、仕事と私生活の境界が曖昧になりがちであるということが言えると思います。

この点についてはアメリカ心理学会(翻訳は日本心理学会)による「新たにテレワーク(在宅勤務)をする人へ,心理学者からのアドバイス」にも、

「いくつかの研究によると,テレワークの人は,職場で働く人に比べて,より多くの時間働き,その結果,家庭と仕事との境界が曖昧になる傾向にあることが示されています」

と述べられています。

https://psych.or.jp/special/covid19/tele_work/

上記の記事中では、仕事とプライベートの境界を明確化するために一定のルーティン(決まった習慣)を実行することがアドバイスされています。

たとえば、仕事を始める時と終える時に掃除をする、毎日仕事を始める時に前日分の領収証の整理をする、個室のない人は仕事を始める時には仕事スペースを整え、仕事を終えた時は片付けるといったことを習慣にすることが考えられます。

それに加えて、仕事以外の余暇に一旦仕事から離れて、気分を切り替えてリフレッシュすることが重要と考えられます。

そこで、今回は、仕事外の余暇の時間における「リカバリー経験」という心理学で注目されている概念に注目します。

リカバリー経験とは?

「リカバリー経験」とは仕事中にストレスフルな経験をしたことによるストレスやそれらの経験によって生じた心理社会的なリソースを元通りにするための活動を指します。

リカバリー経験には具体的に下記の4つの領域が含まれるとされています。

<心理的な距離>
余暇において、仕事から物理的にも精神的にも離れることです。

<リラックス>
身体的にも精神的にもつくろぐことです。
散歩したり音楽を聴いたりすることが例として挙げられます。

<熟達>

余暇の時間に上達が楽しめる活動をすることです。習い事をすることが例として挙げられます。

<コントロール>
余暇の時間に何をするかの選択権、決定権を持つことです。
仕事以外の余暇の時間が確保されていたとしても、家事や育児、介護といった、やらなけれならない事柄が押し寄せる状態では、コントロールを持てていないと言えます。

以上のようなリカバリー経験を余暇中に経験することが、心身の健康に良い影響があることがさまざまな研究で分かって来ています。

たとえば、日本において、2,520人の労働者を対象とした調査において、余暇に上記の心理的距離、リラックス、熟達、コントロールが出来ていると回答した人ほど、メンタルヘルスが良好で、ワーク・エンゲイジメントが高く、仕事のパフォーマンスが高いと感じている結果が出ています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/joh/54/3/54_11-0220-OA/_pdf/-char/ja

心理的距離の重要性

リカバリー経験のうち、心理的距離が心身の健康に関連があるとして注目されてます。日本の首都圏居住の3次産業で働いている労働者を対象にして心理的距離について詳しく検討した研究を紹介します。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/indhealth/advpub/0/advpub_2015-0097/_pdf/-char/ja

この研究では、労働者が余暇に心理的距離をどれだけ取っているかが、メンタルヘルスやワーク・エンゲイジメントとどのような関係があるのかを調査しています。

なお、心理的距離は、「仕事のことを忘れる」、「仕事のことは全く考えない」、「仕事と距離を置く」といった項目への回答で評価されています。

この研究で明らかになったこととして、以下の2点です。

メンタルヘルスに関しては、心理的距離が大きい人ほど、つまり仕事と距離を取れている人ほど、良好な傾向にあった。

一方で、ワーク・エンゲイジメントに関しては、心理的距離が中程度の人が最も高かった。心理的距離が極端に大きい人と極端に小さいはワーク・エンゲイジメントが低かった。

この研究は一時点の調査なので、因果関係を結論することは出来ませんが、仕事との距離を程よく取ることが、いきいき働くことにつながる可能性が示唆される結果となっています。週末には仕事のことを忘れて趣味等に没頭しつつも、日曜日の夕方には月曜日以降の仕事について少し思いを馳せるといった程度の仕事との距離の取り方が、職業人としては最も良い仕事との距離の取り方かもしれません。

終わりに

緊急事態宣言が一旦解除され、一定程度の施設利用等が再開される等徐々に経済社会生活の再開の兆しが出ています。いわゆる「3密」を避けながら、余暇に、趣味や散歩等の軽い運動を楽しんだり、オンラインで可能な習い事を新たに始めてみるといったことが、テレワークでの心身の疲労を回復し、より高い仕事のパフォーマンスにつながるかもしれません。

以 上

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