学術研究から考える新型コロナウイルス対策とテレワーク対策
はじめに
本稿では、学術研究の成果を参考に、2021年も引き続き人事部門の優先課題となるであろう新型コロナウイルス対策とテレワーク対策について述べたいと思います。
新型コロナウイルス対策
1月4日時点で首都圏を中心とした緊急事態宣言の発出が検討されるなど新型コロナウイルスの感染拡大状況は予断を許さない状況が続いています。
将来的にはワクチンの普及が期待されますが、一度に国民全員が接種できるものではないこと、抗体がどの程度持続するのか明らかではないこと、さらなるウイルスの変異があり得ることから、感染が収束するまでには数年単位の時間を要するものと予想されます。
したがって、今後数年間は現状同様の感染予防策が企業も含めて社会全体に求められる可能性が高いと考えた方が良いと思われます。
感染対策の重要性については、東京大学の研究者が日本の労働者を対象に実施した下記の研究が参考になります。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/1348-9585.12134
この研究によれば、職場で実施されている新型コロナウイルス感染症対策が多いほど、労働者のメンタルヘルスが良く、仕事のパフォーマンスも高いということが明らかになっています。人事部門として経営層に感染対策の重要性を訴えて必要な投資を引き出す際には参考になる結果です。
感染防止に尽力することに加えて、実際に従業員から感染者が発生した場合には、従業員に対するメンタルケアが重要となります。
米国の電子健康記録を用いて行われた下記の研究によれば、新型コロナウイルスに感染した人は90日以内に精神疾患を発症しやすいことが明らかになっています。また、前年に精神疾患の既往歴がある人は新型コロナウイルスに感染しやすくなるという逆方向の関係もあることも明らかになっており非常に興味深い結果です。
https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S2215-0366%2820%2930462-4
従業員に感染者が発生した場合には、人事部門は社内外への連絡や消毒実施等の手続に忙殺されがちで、感染した従業員に対するメンタルケアには割く余力がなくなることが多いと思われます。また、普段接点のない人事部門が、感染後の従業員に突然面談を申し込むと、余計なプレッシャーを与えかねません。
保健師やカウンセラーといったメンタルケアの知識のある専門職が、感染者が回復して職場復帰以降に、定期的に面談等でフォローすることが望ましいと考えられます。上記のような専門職でなくても、管理職に感染者向けのメンタルケアを教育してノウハウを持たせておけば、信頼関係のある上司等が面談等でフォローすることも可能になると考えられます。
なお、新型コロナウイルスに感染した場合は同居者も感染者となる場合が多く、面談の際には、家族等のメンタルヘルスの状況についても可能な範囲でヒアリングし、必要な場合には企業として可能な支援を申し出ることも重要です。企業が従業員支援プログラム(EAP)と契約が有る場合には、従業員本人に加えて家族も利用可能な場合がありますので確認することをお薦めします。
テレワークへの対応
新型コロナウイルスの感染拡大防止のためには、今後もテレワークの推進が求められているのは論を俟たないところです。
こちらについても、学術研究の成果を参考に考えてみたいと思います。
イタリアで行われたCOVID-19以降にテレワークを開始した事務職員51名を対象にした研究を見てみます。この研究によれば、回答者の70.5%が筋骨格系の痛みを訴えており、腰の痛みが最も割合が高く (41.2%)、次いで首の痛みの割合が高い (23.5%)ことが明らかになっています。痛みとワーク・エンゲイジメント(仕事から活気を得ており、仕事に熱意をもち、仕事に没頭している状態)の関連についても検討しており、痛みを感じていない人は、感じている人よりもワーク・エンゲイジメントが高いことが明らかになっています。
https://www.mdpi.com/1660-4601/17/17/6284
テレワークの際には必ずしも仕事用に最適化されていない自宅の机等での作業を強いられることになり、執務中の身体的な負担が大きくなる可能性があります。テレワーク時の姿勢についての注意喚起、定期的な体操の呼びかけ、場合によってはテレワーク用の負担が少ない椅子、大きなディスプレイ等への補助等を検討しても良いかもしれません。
テレワークにおいて、特に経営層が最も懸念しているのが、仕事のパフォーマンスへの悪影響と考えられます。
本ブログでは、以前にもテレワークでのパフォーマンスに従業員のパーソナリティが関係していることを紹介しました。
今回は、テレワーク制度を有するハイテク業界の大企業の管理職とその部下を対象に行われた職場での孤立感(professional isolation)が仕事のパフォーマンスや離職意思に及ぼす影響を調査を紹介します。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19025257/
この研究からは、職場での孤立感が強い従業員ほど仕事のパフォーマンスが低いことが明らかになっています。また、特に、テレワークの勤務割合が高い従業員の場合には、職場からの孤立感の強さとパフォーマンスの低さの関連が強いことが明らかになっています。
テレワークであっても、従業員に孤立感を感じないような仕組みづくりが重要と言えます。たとえば、職場のメンバーとコミュニケーションが取れるように、オンラインツールを活用する、オンライン上での従業員間の交流する機会を定期的に実施する、といった取り組みが望まれます。
以 上
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