テレワークの現状(2020年末時点)

現在、1月に発令された2回目の緊急事態宣言が首都圏を中心に延長された状態が続いています。昨年初頭以降の新型コロナウイルス感染拡大以降の社会、特に働く人にとっての大きな変化の一つがテレワークです。

そこで、今回は、各調査会社から公表されている調査結果をもとに、昨年末時点での日本におけるテレワークの現状を振り返ってみたいと思います。

テレワーク利用率が高い地域や業種は?

まず注目したいのはNIRA総研による調査結果になります。この調査は調査は2020年 12 月 8 日(火)~21 日(月)にかけて実施されたものです。

https://www.nira.or.jp/pdf/report202012-2.pdf

まず、注目したいのはテレワークに関しては東京圏の利用率が高いという点です(⇒上記レポート4ページ~)。これはコロナ禍の初めの頃から変化がありません。また、これまで実施されてきたNIRA総研による継続調査の結果からコロナ禍以降の時期別のテレワーク利用率を見ると、第一回目の緊急事態宣言が発令されていた4~5月にテレワークの利用率が上昇していることが分かります。これは企業が緊急事態宣言の発令に合わせて会社方針をテレワーク優先に切り替えたことが背景にあると思われます。現在の2回目の緊急事態宣言におけるテレワーク利用率はまだ調査結果が出ていませんが、おそらく前回の緊急事態宣言と同様に緊急事態宣言の発令地域においてテレワーク利用率が上昇していることが予想されます。

次に、特徴的なのは業種別の利用率です(⇒上記レポート11ページ~)。「情報サービス・調査業を除く通信情報業」が群を抜いて高いことが分かります。業務でIT機器を使うことが当然となっている業種ではテレワーク利用率が高いと言えます。逆に1回目の緊急事態宣言時においても6割程度なのでまだまだ向上の余地があると言えるように思います。逆に利用率が低いのは「医療・福祉」、「宿泊、飲食業」となっており対面中心の業務が中心となる業種においてはテレワークの利用が依然として難しいことが伺えます。

注目したいのは企業の規模によってテレワーク利用率に差があり、企業規模が大きいほど利用率が高いということです(⇒上記レポート8ページ~)。これは大企業の方がテレワークのためのIT投資をしやすかったり、感染者数が多い都市部に所在していることが背景として有る可能性があります。業種別の利用率において紙媒体の資料や対面業務が多いイメージのある「金融業・保険業」のテレワークの利用率が高いのも大企業が多いことも影響しているように思われます。

テレワークの生産性はどうなっているか?

次に、テレワークによる仕事の生産性を見てみたいと思います。

これについても上記にNIRA総研のレポートを引き続き参照したいと思います。同レポートの29ページには、コロナ禍がなかったとした場合の仕事の効率を100として、3月、6月、12月のそれぞれの時点で仕事の効率を自己申告で回答してもらった結果があります。

これを見ると、3月と6月の仕事の効率の分布にはそれほど差がありませんが、 12月は仕事の効率が100(コロナ禍以前と同じ)と答えた人の割合が6月に比べて大幅に上昇しています。これはテレワーク環境に慣れることで仕事の効率が高まった人が多いことを示していると言えます。NIRA総研も「 通常通り勤務していた場合と同様の成果がテレワーク勤務できているという 認識をもつ人が増え、効率性が低下したという認識をもつ人が減った」、「個々の就業者のテレワークによる経験やノウハウが蓄積してきており、テレワークによる仕事自 体が効率化していることも考えられる」と考察しています。

この点についてはパーソル総合研究所も同様の結果を示しています。

https://rc.persol-group.co.jp/news/202012160001.html

上記レポートの「⑥テレワークの課題」として、4月調査、5月調査、11月調査でテレワークで課題と思われる項目につて当てはまる割合を聞いています。全体として、4月、5月、11月と課題と思っている割合が低下しています。パーソル総合研究所は、「テレワークの課題は概ね減少傾向にあり、「テレワーク慣れ」とともに課題が解決される傾向にあると考えられる。しかし、唯一「労働時間が長くなりがちだ」だけが上昇」と考察しています。

今後テレワークはどうなるのか?

最後に、今後日本においてテレワークが定着するのかどうかを検討してみたいと思います。

まずテレワークを継続したいかどうかについては各調査でも「継続したい」と回答する割合が高いことが分かっています。

先ほどのパーソル総合研究所の調査結果によると「テレワーク実施者(正社員)のコロナ収束後のテレワーク継続希望率は、全体で78.6%。4月調査では53.2%、5月調査では69.4%だったため、テレワーク継続希望率は上昇し続けている。男女ともに30代が最も継続希望率が高い」という結果が得られています(⇒下記の「⑥ コロナ収束後のテレワーク継続希望率」)。

https://rc.persol-group.co.jp/news/202012160001.html

一方で、企業側のテレワークに対する姿勢は、上記パーソル総合研究所のレポートによれば、「企業のテレワーク方針をみると、ワクチンが普及した後は「原則、全員出社にする予定だ」という回答割合は3割強、「まだ決まっていない」は4割強」となっています。

ここまでをまとめると従業員側はテレワークを継続したいと思っているが、企業側は慎重あるいはオフィス出社が原則に戻したいと考えていることが分かります。

これまで見た調査結果からもテレワークによる生産性がオフィス勤務時と全く同じではないため、企業側としては生産性の低下やコミュニケーションの困難を感じている可能性があります。一方でテレワーク利用率の比較的高い情報通信業においてテレワークを廃止すると従業員のモチベーションや会社へのコミットメントが低下してしまう可能性があります。また、それ以外の業種においてもテレワークにおいてもオフィス勤務と同様あるいはそれ以上に仕事の生産性が挙げている従業員からの不満も高まる可能性があります。

今後の方向性としては、上記の情報通信業のような業種ではテレワークが原則継続される可能性が高いと思われます。既にオフィスの縮小、移転を決めている企業も情報通信業やサービス業に多いこともその裏付けと言えます。

一方で、そういったコロナ禍でテレワーク利用率が高い業種以外では、特定の部門、職種においてのみ限定的にテレワーク利用が継続されることが予想されます。たとえば、保育園幼稚園に通う子供のいる従業員や親族の介護を行っている従業員等個別の事情や業務のテレワーク可能性に応じてテレワークが許可されるという状況になるのではないかと予想しています。

以 上

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