ワーケーションとは何か?

今年に入って「ワーケーション」という言葉の知名度が上昇しています。そこで、今回はワーケーションについて解説してみたいと思います。

ワーケーションとは?

一般社団法人ワーケーション協会によれば、ワーケーションとは、「新しい日常」の奨励の一環として位置づけられ、「仕事」(work)と「休暇」(vacation)を組み合わせた造語で、各観光地やリゾート地で休暇を取りながらテレワーク・リモートワークする働き方を指します。在宅勤務やレンタルオフィスでのテレワークとは区別されます。現在の考えでは、休暇先などの環境のよい場所で、休暇を兼ねてリモートワークを行う労働形態を指すことです。

また、JTB総合研究所による「観光用語集」の定義を見てみると、下記のような定義がされています。

英語のWork(仕事)とVacation(休暇)の合成語リゾート地や地方部など、普段の職場とは異なる場所で働きながら休暇取得を行うこと。あるいは休暇と併用し、旅先で業務を組み合わせる滞在のこと。

JTB総合研究所観光用語集 https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/workation/

上記を踏まえると、リゾートや地方という、オフィスや自宅とは別の、本来は休暇を目的とした場所で休暇を取りながら働くことがワーケーションの定義と言えそうです。

日本におけるワーケーションの歴史

それでは日本におけるワーケーションの歴史を振り返ってみます。日本においては、ワーケーションを受け入れる自治体で構成されるワーケーション自治体協議会が2019年11月に設立される等、2019年ごろから政府や自治体の取り組みを契機に普及が始まってきたと言われています。

https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1219264.html

https://www.tourism.jp/tourism-database/column/2019/11/workation/

その後、2020年7月の観光戦略実行推進会議で「新たな旅のスタイル」としてワーケーション等を推進する方針が政府により示されています。また、菅官房長官(当時)がメディアで発信したことをきっかけに、ワーケーションという言葉が注目を集めたと言えます。

https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202007/27_a.html

日本におけるワーケーションの提唱とその後の知名度向上は、新型コロナウイルス感染拡大に伴うテレワークの普及と、苦境に陥っていた地方の観光振興が結びついた事例とも言えると思います。

ワーケーションの企業にとってのメリットは?

現在普及しているテレワークに加えてワーケーションを企業が新たな働き方として追加するメリットには何があると言えるのでしょうか?この問いに答えるには、現在、さまざまな企業が実施しているワーケーションの実証実験が参考になります。

実装実験事例1

NTTデータ経営研究所、株式会社JTB、日本航空株式会社による実証実験が行われ、その結果が、公開されています。

https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/200727.html

その結果によれば、ワーケーションは以下の結果をもたらすことが明らかになったようです。

  • 経験することで、仕事とプライベートの切り分けが促進される
  • 情動的な組織コミットメント(所属意識)を向上させる
  • 実施中に仕事のパフォーマンスが参加前と比べて20%程度上がるだけでなく、終了後も5日間は効果が持続する
  • 心身のストレス反応の低減(参加前と比べて37%程度)と持続に効果がある
  • 活動量(運動量)の増加に効果がある(歩数が参加前と比べて2倍程度増加)

上記の実証実験は、事前事後の前後比較デザインなので、エビデンスとしてはレベルが高くありませんが、今後の研究に向けて一定の知見を得たと言えそうです。

実装実験事例2

こちらの実証実験は、株式会社南紀白浜エアポート、TIS株式会社、株式会社NTTデータ経営研究所による実証実験の結果です。

https://www.tis.co.jp/news/2021/tis_news/20210622_1.html

ワーケーション参加群とテレワーク群の比較する研究デザインでワーケーションの効果を検討したところ、下記のような結果が得られたということです。

  1. 職業性ストレス(労働に際して発生する身体的・心理的なストレス)が、ワーケーション期間中およびワーケーション終了後も低減した。特に抑うつ感(気分の落ち込みや物事に集中できない感覚)は、期間中に最大 56.2%、終了後も 42.5%低減した。
  2. リカバリー経験(良質なパフォーマンスを発揮するための業務後の回復機会)が、ワーケーション期間中に 26.5%、ワーケーション終了後も 23.2%向上した。
  3. ワークエンゲージメント(仕事に対する活力・熱意・没頭の程度)が、ワーケーション期間中に 23.9%、ワーケーション終了後も 15.9%向上した。(ワークエンゲージメントの高い従業員が多い企業は、収益性が高く、離職率・無断欠勤が大幅に少ないことが別の研究で明らかになっている)
  4. ワーケーション参加群の仕事のパフォーマンスが、ワーケーション終了後も向上した。特にワーケーション前と後で、規定された職務(指示・期待された仕事を十分に行っている程度)は14.8%、WHO-HPQ(WHO が定める国際的な生産性指標)は 17.2%向上した。
  5. 上記1.3について、不参加群(在宅リモートワーク群)では、ワーケーション参加群で見られたような変化は見られなかった。

以上の2事例を結果を踏まえるとワーケーションの実施によってストレス低減、仕事のパフォーマンス向上が期待できると言えそうです。ただし、効果検証の研究デザインとしては前後比較試験であったり無作為割付を伴わない対照試験のような不十分なものであるため、今後は無作為化比較試験のような精緻な研究デザインによる効果検証が望まれます。

まとめ

ワーケーションについてまとめると以下のようなことが言えると思います。

  • ワーケーションとは、地方や観光地やリゾート地で休暇を取りながらテレワークする働き方を指す。
  • 日本においては自治体による観光資源として提唱が始まったが、コロナ禍で普及したテレワークと打撃を受けた観光業の振興策が相まって知名度上昇が進んでいる。
  • ワーケーションの効果を検証するために複数の実証実験が行われており、ストレス反応の低減や仕事のパフォーマンス向上の効果が期待されている。

以 上

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