ストレスチェック57問or80問今年はどっち?
はじめに
お盆休みを過ぎて今年度のストレスチェックの実施を考えている人事担当者の方も多いと思います。ストレスチェックで用いられる調査票にはよく知られているように、57問からなる職業性ストレス簡易調査票(以下、57問)と80問からなる新職業性ストレス簡易調査票(以下、80問)があります。現在は57問で実施されている企業様も多いと思いますが、80問で実施されている企業様も一定数存在すると思います。そこで、今回は改めてストレスチェックにおいて、57問と80問のどちらを使用するのが良いか比較検討してみたいと思います。
<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了
57問と80問の違い
まず、57問の方が先に開発され、80問は57問に23問追加して開発された調査票であるということを認識しておく必要があります。つまり、57問の調査項目は全て80問に含まれているということです。それでは80問に含まれていて57問に含まれていない項目とはどういった項目でしょうか?
それは、ストレスの原因と考えられる要因のうち57問で測定されていないもの(情緒的負担、役割葛藤等)、そしてそれらのストレスに対する影響を緩和し、従業員がいきいきと仕事をすることにつながる仕事の資源と総称される要因を測定する項目が多く含まれています。仕事の資源に含まれている項目は、大きくは、作業レベル、部署レベル、事業場レベルに分けられます。作業レベルでは「成長の機会」、部署レベルには「上司のリーダーシップ」、事業場レベルには「経営層との信頼関係」といった項目が含まれています。特に80問には、事業場レベルの項目が多く含まれていることが特徴です。これは80問の開発した際の産業保健スタッフと経営層との連携が重要であるという発想がもとにあります。
57問の特徴
そもそもストレスチェックの調査票である57問は個人のストレスレベルの測定とフィードバックと職場環境の改善の両面を目的とし、前者をやや重視して開発された経緯があります。そのため、57問に含まれる調査項目にはストレス反応に関する項目が多くを占めています。それに加えてストレスの原因となる仕事の量的負担、職場での対人関係といった項目、そういったストレスを和らげる働きを持つ仕事のコントロール、上司の支援、同僚の支援といった項目が含まれています。
つまり、57問では、まずは個人に対して自分自身がどのようなストレスを抱えているか、その原因としてどのような状況が考えられるか、そういったストレス要因の影響を緩和できる要因はどのような状態なのかをフィードバックするための項目が多く含まれていることが特徴です。
一方で、57問は職場単位でストレス要因を把握し、職場環境を改善していくという機能も有しています。57問では、仕事の量的負担、仕事のコントロール、上司の支援、同僚の支援の4要因に限定して、これらを職場単位で平均して評価します。それらを仕事のストレス判定するといったツールや総合健康リスクといったスコアで表すことで、職場環境の評価と改善を促すことを目的としています。逆に言えば組織風土に関する項目は評価の対象外となっています。
80問の特徴
それでは80問においてはどうでしょうか?80問においては、先述した通り組織風土に関する要因が多く含まれています。また、57問では現状の把握と改善の対象がストレス反応でしたが、80問では、ストレス反応に加えて、従業員がいきいきと仕事に打ち込んでいるワーク・エンゲイジメント、職場の一体感が含まれています。つまり、80問ではストレス反応がもたらすメンタルヘルス不調の防止のみならず、パフォーマンス高く仕事を生き生きとする状態、職場で従業員がつながりを感じている状態も目標としているのが特徴です。
57問と80問どちらを採用するか?
結論から言えば、現状の把握のみならず、現状把握に基づいて組織のさまざまな要因を把握し、メンタルヘルス不調の防止のみならず従業員のパフォーマンスや職場の一体感の向上につなげるために部署や組織風土を改善していくのであれば80問をお勧めします。逆に、そこまでやれない、つまり個人のフィードバックを中心として参考までに職場単位での結果も評価したいといった目的であれば57問をお勧めします。
従業員にとっては、項目に回答したのに結果が活用されない、調査結果が活用されていることが目に見えないということは非常に不満になります。57問ではストレス反応以外のストレス要因や上司の支援や同僚の支援といった項目が本人にもレーダーチャートのような形でフィードバックされますが、80問で実施した場合、80問のみに含まれる項目は本人にはフィードバックされないことが通常です。80問のみに含まれる項目、つまり従業員がいきいきと仕事に打ち込み、職場の一体感を感じられる職場を目指すためのヒントとなる項目を経営、人事部門、あるいは管理職が活用してはじめて、従業員からすると「調査項目が多かったけど活用されている」と感じることが出来るのです。
ストレスチェックで用いる調査票を57問とするか80問とするか、この機会に改めて検討されてはいかがでしょうか?
以 上