先進企業の従業員エンゲージメントの開示事例

はじめに

2023年3月期より有価証券報告書に人的資本に関する記載が義務付けられたこともあり、昨今人的資本開示への注目が集まっています。

2023年3月期より有価証券報告書に記載が義務付けられる事項としては男女賃金格差、育児休暇取得率等がありますが、その他にも任意で人的資本に関する情報を開示することが推奨されています。人的資本可視化指針(https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf)においては、リーダーシップ、育成、スキル /経験、エンゲージメント等の19項目が開示事項として例示されています。

現状においても一部の先進的な企業においては主に統合報告書の中で人的資本に関する情報を開示しています。そこで、今回は先進的な企業における人的資本開示の例について特にエンゲージメントについてどのように開示されているか見てみたいと思います。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

三井化学株式会社

三井化学レポート2022(76頁)
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/special/ar2022/pdf/ar22_all_web_jp.pdf

三井化学グループでは、グループ・グローバル全従業員を対象とした「グローバル従業員エンゲージメント調査」を2018年から実施しています。エンゲージメントスコアはエンゲージメント関連問6問の平均が4.5以上の社員の割合(4:どちらかと言えばそう思う、5:そう思う、6:強くそう思う)で計算されています。

2030年度の50%を目標値として、2018年度は31%、2021年度は34%とスコアの推移が開示されています。また、エンゲージメント要因スコアとして、強み持つ3領域と、課題のある3領域も開示されています。

富士通株式会社

富士通統合レポート2022(29頁)
https://pr.fujitsu.com/jp/ir/integratedrep/2022/pdf/all.pdf

富士通株式会社においては、パーパスや組織文化への共感、仕事への熱意を示す「従業員エンゲージメント」をKPIとして設定しています。2023年度の目標値、2020年度から2022年度までの実績値が開示されています。なお、2023年度の目標値75に対して、63(2020年度)→ 68(2021年度)→ 67(2022年度)と推移しています。

出光興産株式会社

出光統合レポート2022(10頁、24頁、105頁)https://sustainability.idemitsu.com/pdf/ja/2022_integrated/idss_ir_2022_a3.pdf

出光グループにおいては、組織に対する従業員のコミットメントを測定する独自指標として出光エンゲージメントインデックスを設定しています。女性採用比率、女性役職者比率等の指標とともに非財務目標の中の人的資本投資のKPIの1つとして設定されており、2025年度、2030年度の目標値、現状の実績値が開示されています。また従業員エンゲージメント向上の取り組みについても記載されています。

まとめ

今回は従業員エンゲージメントスコアを統合報告書の中で開示している先進的な企業についてご紹介しました。

3社の開示事例からは、従業員エンゲージメントの定義は各社各様であるということが分かります。そのため、投資家の視点からは他社との比較には意味がなく、同じ会社のエンゲージメントスコアを経年比較して人的資本の充実状況を判断すべきであると言えます。

逆に従業員エンゲージメントの状況を開示する企業側としては流行しているものに飛びつく必要はなく、複数のベンダーのエンゲージメント調査を比較検討する、あるいは自社に適したエンゲージメントを定義し自社独自の調査を設計することも考えられます。

各社のエンゲージメントスコアは数年間の範囲では大きく変化していないということが分かります。つまり、エンゲージメントスコアを向上させるためには中長期的な継続した全社単位での取り組みが必要になると言えます。投資家としても、3年あるいは5年といった比較的長期間においてエンゲージメントスコアが上昇しているのか、あるいは低下しているのかを判断することが重要と言えます。

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以 上

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