メンタルヘルス業界の動向分析

はじめに

今回はメンタルヘルス関連企業の動向について解説したいと思います。メンタルヘルス業界の定義は難しいのですが、ここでは一旦、EAP(相談事業)、ストレスチェックを提供している企業と考えます。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

上場企業の業績

メンタルヘルス業界において、リーディングカンパニーは上場企業でもある株式会社アドバンテッジリスクマネジメントが挙げられます。同社はメンタルヘルス関連ビジネス以外に保険事業等も営んでいるため、メンタリティマネジメント事業のセグメントの売上高と営業利益を示します。

株式会社アドバンテッジリスクマネジメントの有価証券報告書をもとに㈱ベターオプションズ作成

2019年3月期から売り上げは増加傾向にありますが、営業利益率が低下傾向にあることが分かります。2019年3月期は営業利益率が27%超ですが、直近の2022年3月期は約15%となっています。同社の2019年3月期から2022年3月期有価証券報告書では、費用増加の原因として、サービス提供先及び利用者数の増加に伴うオペレーション関連コストの増加、新たな商品及びサービス開発体制の強化、営業活動への人的資源投下、システム刷新に伴う費用増加、オペレーション費用の増加等が挙げられています。利用者数の増加に対するシステムやオペレーションに要する費用が大きくなり、かつ新規投資が売り上げ増加になかなか結び付いていない状況であることが伺えます。

非上場企業の業績

次にメンタルヘルス業界の非上場企業の業績を見てみたいと思います。非上場企業は決算情報を開示していないため、官報公告において公開されている各社の当期純利益をもとに業績を検討したいと思います。

各社の官報公告をもとに㈱ベターオプションズ作成

ティーペック株式会社はコロナ禍前から順調に利益を出していることが分かりますが、SOMPOヘルスサポート株式会社、株式会社保健同人フロンティアのように当期純利益が赤字となった期がある企業もあることが分かります。

コロナ禍以降の業績が反映された2021年3月期以降の業績を見ると、コロナ禍2年目の2022年3月期決算で当期純利益が増加している企業が多いことが分かります。コロナ禍を経て急速に普及したオンラインカウンセリングによりカウンセリングの運営コストが減少した、あるいはオンライン会議の普及により首都圏以外での受注が増えて売上が増加したことが当期純利益の増加に貢献している可能性があります。また、コロナ禍を経て従業員のメンタルヘルス増進や健康経営への意識の高まりが売上の増加に結び付いた面があるかもしれません。

今後の業績見通し

株式会社アドバンテッジリスクマネジメントについては、システム投資やオペレーション体制構築が安定しないと営業利益率の向上は難しいと考えられます。同社は、メンタリティマネジメント事業のうち、EAPやストレスチェック以外の健診管理システムや産業医・保健師サービスにも注力していることから、これらの領域の売上が順調に伸びて行けば営業利益率が向上するものと思われます。

非上場企業については、売上規模は明らかではありませんが、株式会社アドバンテッジリスクマネジメントと同水準の利益率だとすると、公開された当期純利益から逆算して5億~15億円の売上があるものと推測されます。現在デジタル化への対応がどの業界においても喫緊の課題となっていますが、デジタル化に上手く対応して売上を伸ばし、オペレーションを効率化出来た企業が業績を伸ばしていくと思われます。デジタル化への投資は規模の小さい企業には負担が大きいため、株式会社保健同人フロンティア(保健同人社とヒューマンフロンティア合併)のように同業で合併する動きも出て来ると思われます。

以 上

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