国家公務員に対するストレスチェック制度とは?

はじめに

今年も秋が深まってきた折、ストレスチェックが実施されている企業が多いと思います。ストレスチェック制度は労働安全衛生法の第六十六条の十が根拠となって実施されています。労働安全衛生法は民間企業の労働者、医療法人、社団法人等の労働者、さらには一部を除く地方公務員に対しても適用されます。従って、民間企業の労働者、医療法人、社団法人等の労働者、さらには一部を除く地方公務員には現在労働安全衛生法にもとづくストレスチェックが実施されていることになります。しかし、厚生労働省より発出されている通達「労働安全衛生法の施行について」に示されているように、国家公務員には一部を除いて労働安全衛生法が適用されません。

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二 この法律の適用範囲

この法律は、同居の親族のみを使用する事業または事務所を除き、原則として労働者を使用する全事業について適用されるが、つぎの(一)から(三)に掲げる者については適用されない。

(一) 家事使用人

(二) 船員法の適用を受ける船員

(三) 国家公務員(五現業の職員を除く。)

「労働安全衛生法の施行について」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?

したがって、労働安全衛生法にもとづくストレスチェックは国家公務員に対しては実施されないことになります。国家公務員に対しては、人事院規則一〇―四(職員の保健及び安全保持)にもとづくストレスチェック制度が実施されています。そこで、今回は、国家公務員向けのストレスチェック制度について解説したいと思います。

国家公務員向けのストレスチェック制度の概要

事院規則一〇―四(職員の保健及び安全保持)にもとづくストレスチェック制度は、労働安全衛生法でストレスチェック制度が義務化されたタイミングで創設されています。そのため、人事院規則にもとづくストレスチェック制度の内容は、労働安全衛生法にもとづくストレスチェック制度とほとんど同じです。

(心理的な負担の程度を把握するための検査等)

第二十二条の四 各省各庁の長は、職員(人事院の定める非常勤職員を除く。)に対し、医師、保健師その他の人事院の定める者(第三項において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を受ける機会を与えなければならない。

 前項の検査の項目その他同項の検査に関し必要な事項は、人事院が定める。

 各省各庁の長は、第一項に規定する検査を受けた職員に対し、人事院の定めるところにより、当該検査を行つた医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、各省各庁の長は、あらかじめ当該結果の通知を受けた職員の同意を得ないで、当該医師等から当該職員の検査の結果の提供を受けてはならない。

 各省各庁の長は、前項の規定による通知を受けた職員であつて、心理的な負担の程度が職員の健康の保持を考慮して人事院の定める要件に該当するものから面接指導を受けることを希望する旨の申出があつた場合には、当該職員に対し、人事院の定めるところにより、面接指導を行わなければならない。この場合において、各省各庁の長は、職員が当該申出をしたことを理由として、当該職員に対し、不利益な取扱いをしてはならない。

 第二十二条の二第三項の規定は、前項の規定による面接指導の結果に基づく必要な措置について準用する。

人事院規則一〇―四(職員の保健及び安全保持)

上記の条文を読んでみると、事業者、労働者といった労働安全衛生法を前提とする用語に代わって、「各省各庁の庁」、「職員」という用語が登場しています。労働安全衛生法では事業者が実施者にストレスチェックを実施させる義務を負っていますが、国家公務員向けのストレスチェック制度では、「各省各庁の庁」が実施の義務を負っています。またストレスチェックを受けるのは「労働者」ではなく「職員」となっています。

ストレスチェック制度の具体的な内容が指針によって定められる構造も全く同じで、国家公務員向けのストレスチェック制度では、人事院による「心理的な負担の程度を把握するための検査及び同検査の結果に基づく面接指導等の実施に関する指針」(https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/10_nouritu/1023000_H27shokushoku315.html)に実施の手続き、方法の詳細が規定されています。

ア 各省各庁の長は、職員に対して、医師、保健師又は運用通知第22条の4関係第2項(3)に定める要件を満たした歯科医師、看護師、精神保健福祉士若しくは公認心理師(以下「医師等」という。)によるストレスチェックを受検する機会を与える。

 イ 当該ストレスチェックを実施した医師等(以下「実施者」という。)は、ストレスチェックを受けた職員に対して、その結果を直接本人に通知する。

 ウ 各省各庁の長は、ストレスチェック結果の通知を受けた職員のうち、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた職員から申出があった場合は、当該職員に対して、医師による面接指導を実施した上で、

① 当該職員に必要な措置(指導区分の要否、事後措置の内容、職場環境改善に関する意見等)について、当該医師から意見を聴取する。

② 医師の意見を勘案し、必要に応じて、適切な措置(事後措置、職場環境改善等)を講ずる。

(3)集団ごとの集計・分析(各省各庁の長の努力義務)

 ア 実施者は、ストレスチェック結果を一定規模の集団ごとに集計・分析し、その結果を各省各庁の長へ提供する。

 イ 各省各庁の長は、集団ごとの集計・分析の結果を勘案し、必要に応じて、職場環境の改善のための適切な措置を講ずる。

心理的な負担の程度を把握するための検査及び同検査の結果に基づく面接指導等の実施に関する指針についてhttps://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/10_nouritu/1023000_H27shokushoku315.html

上記指針によれば、国家公務員向けのストレスチェック制度においても、使用する調査票に求められる要件、高ストレス者要件は労働安全衛生法にもとづくストレスチェックと同様となっており、事実上職業性ストレス簡易調査票が標準的な調査票となっている点も同様です。集団分析の実施単位についても10名が基準とされており、この点も労働安全衛生法にもとづくストレスチェックと同様です。

労働安全衛生法にもとづくストレスチェック制度との相違点

国家公務員向けのストレスチェック制度を規定した指針を細かく読んでいくと若干異なる点もあります。たとえば、「運用通知第22条の4関係第2項ただし書の規定に基づき、実施者のうち少なくとも1名は健康管理医でなければならず」とされています。ちなみに、健康管理医は民間企業での産業医に相当し、国家公務員の健康管理に従事する医師です。労働安全衛生法にもとづくストレスチェックにおいては、産業医が実施者となることが望ましいとされるに留まっており、産業医が実施者に含まれず外部のストレスチェックベンダーの実施者のみで実施されていることも多いのが実情です。国家公務員向けのストレスチェック制度では産業医に相当する健康管理医の実施者としての関与が強められているのが特徴と言えます。

イ 実施者について

 運用通知第22条の4関係第2項ただし書の規定に基づき、実施者のうち少なくとも1名は健康管理医でなければならず、各省各庁の長は、組織区分ごとに健康管理医を実施者に指名するものとする。また、健康管理医以外の医師等や実施の事務を外部機関に委託した場合の当該外部機関の医師等も実施者に指名することができる。以下略

心理的な負担の程度を把握するための検査及び同検査の結果に基づく面接指導等の実施に関する指針についてhttps://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/10_nouritu/1023000_H27shokushoku315.html

なお、実施者の補助を行う実施事務従事者には、労働安全衛生法にもとづくストレスチェックと同様に人事権限を持っている者は就任することができません。この点、国家公務員向けのストレスチェック制度では、職員を実施事務従事者として指名し業務に従事させる際の留意点をかなり詳細に記述していることが特徴的です。

ウ 実施事務従事者に関する留意事項 運用通知第22条の4関係第4項の規定に基づき、ストレスチェックを受ける職員の任免に関して直接の権限を持つ監督的地位にある職員は、実施の事務に従事してはならない。これと合わせて、各省各庁の長は、職員を実施事務従事者に指名する場合には、以下の点に留意するものとする。以下、略

心理的な負担の程度を把握するための検査及び同検査の結果に基づく面接指導等の実施に関する指針についてhttps://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/10_nouritu/1023000_H27shokushoku315.html

労働安全衛生法におけるストレスチェック制度では指針で細かい手続き面まで規定されていますが、それでも規定しきれない内容は、衛生委員会等にて調査審議の上で決定することとされている事項が多くありました。国家公務員に関してはそもそも衛生委員会に相当する機関が存在しないため、国家公務員向けのストレスチェック制度においては衛生委員会に相当する会議体が登場しません。この点も細かい点ですが、労働安全衛生法にもとづくストレスチェック制度との相違点と言えます。

まとめ

  • 一部を除く大半の国家公務員には労働安全衛生法が適用されない。したがって、労働安全衛生法にもとづくストレスチェック制度は適用されず、人事院規則にもとづくストレスチェック制度が適用されている。
  • 人事院規則にもとづくストレスチェック制度はその詳細が指針に定められているが、労働安全衛生法及び指針にもとづくストレスチェック制度と同様の制度として設計されている。
  • 国家公務員向けのストレスチェック制度においては、実施者のうち1名は産業医に相当する健康管理医とすることが求められている点や、衛生委員会のような会議体での調査審議が想定されていない点が、労働安全衛生法にもとづくストレスチェック制度との相違点である。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

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以 上

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