離職予防の科学②

はじめに

離職予防を考える際に注意すべきは、予防したい離職のターゲットを明確にすることです。というのは、入社直後の離職いわゆる早期離職と、10年以上の中堅社員の離職ではメカニズムが異なると考えられるからです。離職に至るメカニズムが異なれば当然離職防止のための対策も異なってきます。そこで今回は、若年労働者の早期離職について厚生労働省の調査結果を参考に考えてみます。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

平成30年若年者雇用実態調査の概況

今回参考にするのは「平成30年若年者雇用実態調査の概況」です。https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/4-21c-jyakunenkoyou-h30.html

この調査のうち個人を対象にした個人調査の「若年正社員の転職希望理由」が参考になります。ここでは現在の会社から転職したいと考える若年正社員労働者に対して、転職理由を複数回答で聞いています。なお、この調査では15歳~35歳の労働者が対象となっていますが、20歳以上に限定して結果を見てみます。

男性若年正社員の傾向

まず男性について見てみると、「仕事が自分に合った会社にかわりたい」「労働時間・休日・休暇の条件がよい会社にかわりたい」については20-24歳が最も高く、年代が上がるにつれて割合が低下しています。

これは入社間もない若年正社員では仕事内容や労働条件とのミスマッチが離職理由につながりやすいことを示しています。したがっていわゆる早期離職を防ぐためには採用説明会で十分な情報を開示することに加えてインターンシップ活動等により業務や職場の実態を体験してもらうことの重要性を示していると言えます。

次に特徴的なのは、「自分の技能・能力が活かせる会社にかわりたい」において20-24歳が最も低く、年代が上がるにつれて回答割合が高くなっています。これと類似したトレンドを示しているものに、「将来性のある会社にかわりたい」があります。20-24歳が最も低く、25歳以上で高くなっています。

仕事に慣れてくるにつれて離職理由がミスマッチが、自分の技能・能力を活かせる、より将来性のある会社に転職したいといったものに変わっていく可能性を示唆しています。管理職が部下の能力開発を支援するような仕事の割り当てをする、会社全体の制度として人事制度や人材管理を工夫する、経営層が将来のビジョンを明確に示すといった取り組みが有効である可能性があります。

男性特有の傾向として「賃金の条件がよい会社にかわりたい」があり、25-29歳で最も高くなっています。将来の結婚等を睨んで待遇面への不満や不安が生じている可能性があります。

女性若年正社員の傾向

次に女性の結果を見てみたいと思います。

「仕事が自分に合った会社にかわりたい」に関しては男性と同様に、は20-24歳が最も高く、年代が上がるにつれて割合が低下しています。「労働時間・休日・休暇の条件がよい会社にかわりたい」についても20-24歳で最も高くなっています。つまり、男女ともに仕事内容、労働条件のミスマッチが早期離職につながっている可能性があります。

女性特有の傾向としては、2つあります。1つは「健康上の理由、家庭の事情、結婚等で会社をかわりたい」で、年代が高くなるほど高くなっています。女性においては出産や子育て等との両立、あるいは配偶者の転勤等で転職を考えることが多いことが伺えます。

もう1つは、「自分の技能・能力が活かせる会社にかわりたい」で20-24歳が最も高くなっています。年代が上がるほど高くなっていた男性とは対照的です。調査時点の平成30年時点では、男性と比較して女性に補助的な業務が割り当てられるといった傾向があったためこのような結果となったのではないかと推測されます。

まとめ

今回は厚生労働省による若年正社員を対象にした調査をもとに、年代別の離職理由を検討しました。特に20-24歳のいわゆる早期離職の要因として仕事内容や労働条件とのミスマッチが伺える結果でした。早期離職を防ぐためには、採用時点でミスマッチを防ぐための取り組みが重要であると言えます。

25歳以降には男性においては技能や能力を生かせる仕事や賃金の高い仕事に転職したい意向が生まれ、女性においては結婚や家庭の事情による転職意向の発生が伺える結果であり、離職防止にはキャリアステージやライフステージ応じた現場と会社全体での取り組み必要であることが伺えます。

以 上

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