採用面接で応募者のパーソナリティは見抜けるのか?

はじめに

昨今、従業員の不正、犯罪によって企業のブランドが傷つけられる事例が相次いでいます。経営者や人事部門の中には 採用時にそういった 不正を行うような人物を採用面接で見抜くことができないのかという意見があるかもしれません。そこで今回は採用面接で応募者のパーソナリティを見抜くことはできるのかについて心理学の知見を参考に考えてみたいと思います。

面接ではどのようなパーソナリティに着目すべきか

企業では採用検査で学力検査と併せて、応募者のパーソナリティをアンケートによって調査していることが一般的です。多くの企業ではビッグファイブと呼ばれるパーソナリティ特性を調査票で調査しているように思います。

ビッグファイブは心理学で有力なパーソナリティ理論の一つで、人のパーソナリティを、勤勉性、協調性、外向性、神経症傾向(情緒安定性)、開放性(新規性追求傾向)の5つの次元で把握する理論です。このうち、勤勉性と職務パフォーマンス、神経症傾向(情緒安定性)とメンタルヘルス不調の関係は多くの研究で同様の結果が得られています。コロナ禍以降に普及したテレワークに関してもパビッグファイブとの関連が示唆される結果が報告されています。

ビッグファイブよりも新しいパーソナリティ理論で近年有力に主張されているパーソナリティ理論はダークトライアドと呼ばれるものです。ダークトライアドはナルシシズム、マキャベリズム、サイコパシーの3つの次元からなります。

ナルシシズムは、自己 への過度な陶酔や他者からの注目や 賞賛を求める傾向が特徴です。マキャベリズムは自分の利益のために他人を操作するといった傾向が特徴です。サイコパシーは、他人への愛情や共感が欠けていることが特徴です。

このダークトライアド傾向が強いと職場での反生産的な行動をしがちであるといったということが報告されています。

O’Boyle, E. H., Jr., Forsyth, D. R., Banks, G. C., & McDaniel, M. A. (2012). A meta-analysis of the Dark Triad and work behavior: A social exchange perspective. Journal of Applied Psychology, 97(3), 557–579.

https://psycnet.apa.org/record/2011-24470-001

他にもホワイトカラー犯罪者と一般の管理職を比較すると、ダークトライアド傾向のうち、ナルシシズムが高かったという報告もあります。

https://www.researchgate.net/publication/227532566_Some_Personality_Correlates_of_Business_White_Collar_Crime

Blickle, G., Schlegel, A., Fassbender, P., & Klein, U. (2006). Some personality correlates of business white‐collar crime. Applied Psychology, 55(2), 220-233.

したがって、冒頭で述べたように従業員の不正を防ぐ観点ではパーソナリティ特性のうちでもダークトライアドに注目するのが一案と考えられます。

現状では、応募者のパーソナリティをアンケートによって調査している企業は多くとも、ダークトライアドを採用検査に含まれている採用検査は稀であると思います。本人が回答するため、経営者や人事部門からすると、自己申告式のアンケート調査では応募者の パーソナリティは正確に把握できないのではないかというふうに考えるのは当然だと思います。

そこで、代わって考えるのは、応募者による自己評価ではなく面接担当者に応募者のパーソナリティを把握する訓練を実施しておき、応募者のパーソナリティを評価させるという方法です。

顔写真からパーソナリティは予測できるか?

これについては参考になりそうな調査が研究がありますので 1つ 紹介したいと思います。

Alper, S., Bayrak, F., & Yilmaz, O. (2021). All the Dark Triad and some of the Big Five traits are visible in the face. Personality and Individual Differences, 168, Article 110350. https://doi.org/10.1016/j.paid.2020.110350

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0191886920305419

 この研究では、顔写真からその人物のパーソナリティ、具体的にはビッグファイブとダークトライアドをどの程度予測出来るかが検討されています。

この研究では顔写真とその写真の人物が自己評価したパーソナリティ、及び他人からのパーソナリティ評価を利用しています。この自己評価と周囲の評価のスコアの上位10の写真を合成してパーソナリティ傾向高群の写真を作成し、同様に下位10の写真を合成してパーソナリティ傾向低群の写真を作成します。パーソナリティ傾向高群の写真とパーソナリティ傾向低群の写真を同時に実験参加者に見せて、どちらがそのパーソナリティ傾向高群の写真かを判定してもらいました。

この研究では、アメリカ人のみならずトルコ人の実験参加者に対して実験が行われており、ビッグファイブでは正答率が50%を下回る次元が見られた半面、ダークトライアドのパーソナリティに関しては一貫して50%を有意に上回る正答率という結果が得られていました。つまり、ダークトライアドについては、顔写真だけからでもある程度推測が出来るということです。

実際の面接においては、応募者の言動から写真以上の情報が得られることから、ダークトライアドを評価項目として面接担当者に評価させることで、ダークトライアド傾向の高い応募者を見極めることができるかもしれません。面接担当者が必ずしも正確に評価出来ない可能性もあるので、複数の面接担当者のダークトライアド評価が一致した場合かつダークトライアド特性が高いと評価された応募者の場合に慎重に採用を検討するという対応も考えられます。

ダークトライアド特性の強い学生は印象操作を使い分ける

なお、最後にダークトライアド対応の難しさを示唆する研究報告もあることを紹介します。

Roulin, N., & Bourdage, J. S. (2017). Once an impression manager, always an impression manager? Antecedents of honest and deceptive impression management use and variability across multiple job interviews. Frontiers in psychology8, 29

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2017.00029/full

企業の採用活動に望むビジネス専攻の大学4年生を対象にした研究です。自分を偽ってでも相手に良い印象を与えようとする欺瞞的な印象管理の程度と、面接ごとにどの程度ばらつくかとパーソナリティの関連を調べています。

調査の結果、ダークトライアド傾向の強い学生ほど、面接での欺瞞的な印象管理の傾向が強いことが分かりました。さらに、マキャベリズム、サイコパシーの程度が強い学生は、欺瞞的な印象管理のばらつきが大きい、つまり面接によって欺瞞的な印象管理をするか、しないかを使い分ける傾向にあることが分かりました。

終わりに

ダークトライアド特性を巡る研究を紹介しました。現状では、ダークトライアド特性の強い応募者を面接で見抜ける可能性はゼロではないものの、面接で見抜くのは難しいと言えそうです。

以 上

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