人的資本開示としての従業員パフォーマンスの開示をどう進めるか?

はじめに

近年上場企業を中心に人的資本開示に対する意識が高まり、女性管理職比率、男女賃金格差といった項目に加えて、健康増進施策の進捗状況、従業員エンゲージメントの結果など多様な指標が公開されるようになっています。中でも注目されるのが、従業員のパフォーマンスの発揮度合いであるプレゼンティーイズムと病気等による従業員の欠勤を意味するアブセンティーイズムです。

特に令和5年度より、健康経営銘柄とホワイト500に認定されるためには「従業員パフォーマンス指標及び測定方法 の開示」が必須となったことから、プレゼンティーイズムの測定と開示に対するニーズが急速に高まりつつあるように感じます。

令和5年度健康経営度調査:https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/009_s02_00.pdf

たとえば、SCSK株式会社では、健康関連指標と並んで従業員パフォーマンスが「パフォーマンス発揮度80%以上の割合」として分かりやすく開示されています。https://www.scsk.jp/corp/csr/professionals/health/achievement.html

株式会社イトーキでは、自社でサービスを展開しているパフォーマンスを可視化する独自調査「PerformanceTrail(パフォーマンストレイル)」の調査結果を毎年開示しています。https://www.itoki.jp/company/health/analysis.html

そこで今回は従業員のパフォーマンスの発揮度合いであるプレゼンティーイズムの開示をどのように進めるかについて解説したいと思います。

プレゼンティーイズムをどのように測定するか?

プレゼンティーイズムは通常調査票を用いて従業員の自己申告で測定します。

プレゼンティーイズムを測定するための調査票としては下記のようなものが知られています。

  • WHO−HPQ
  • SPQ
  • WFun
  • WLQ
  • WPAI

上記の調査票は利用に費用がかかるものや許諾が必要が存在します。研究・商用関係なく無料で利用可能な調査票としては、上記のうちSPQが挙げられます。

SPQはライセンスフリーです。著作権者は、第三者の自由な再利用を承諾しており、研究目的および商用目的に無料で使用いただける調査票です。

SPQの特徴として1項目でプレゼンティーイズムを測定できるために従業員の回答負担が少ないことが挙げられます。無記名の従業員満足度調査あるいはストレスチェックの項目に追加して測定することが考えられます。

なお、ストレスチェックの追加項目として実施する場合は、ストレスチェック項目とは区別できる形で従業員に提示されることが必要である点は注意が必要です。

プレゼンティーイズムの集計結果をどのように公開するか?

プレゼンティーイズムを測定したら、集計し公開します。最もオーソドックスなのは平均値を集計して公開する方法です。

ただし、実際に従業員のプレゼンティーイズムを測定してみると必ずしも山型の正規分布に近い形にならないことがあります。その場合は中央値を用いたり、SCSK株式会社の例のように、一定の閾値を超えた従業員の割合を示すことも考えられます。

いずれにしても一度決めた集計分析方法は原則変更せず、毎年同じ集計分析方法による結果を経年で開示することが株主はじめステークホルダーの納得感、信頼感につながります。

<執筆者紹介>宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了

以 上

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