離職予防の科学⑤
はじめに
これまでは日本における大企業の離職率を見てきました。今回は厚生労働省の調査をもとに日本全国の企業の離職状況について見てみたいと思います。
厚生労働省の資料から日本全体の離職率を探る
厚生労働省の資料のうち「令和4年雇用動向調査結果の概況」を参考にします。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/dl/gaikyou.pdf
この調査は事業所と労働者を対象に毎年1回実施されており、事業所については、下記のようにサンプリングしており、日本の様々な産業、規模の事業所が対象になっていることが分かります。
事業所
母集団データベース(令和元年次フレーム)の事業所を母集団として、上記(2)に掲げる 産業に属し、5人以上の常用労働者を雇用する事業所のうちから、都道府県、産業、事業所規模別に 層化して無作為に抽出した約 15,000 事業所
「令和4年雇用動向調査結果の概況」厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」
離職率については下記のように定義されています。
「入(離)職率」
常用労働者数に対する入(離)職者数の割合をいい、次式により算出している。
入(離)職率 =
入(離)職者数 /1月1日現在の常用労働者数 (年齢階級別は6月末日現在の常用労働者数) × 100 (%)
厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」
離職率の分母は調査年度の1月1日の常用労働者数となっています。
離職者について下記のように定義されています。
「離職者」
常用労働者のうち、調査対象期間中に事業所を退職したり、解雇された者をいい、他企業への出向 者・出向復帰者を含み、同一企業内の他事業所への転出者を除く。
厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」
なお、常用労働者については下記の通り定義されています。
「常用労働者」 次のいずれかに該当する労働者をいう。 ① 期間を定めずに雇われている者 ② 1か月以上の期間を定めて雇われている者
厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」
したがって離職率は、毎年1月1日の常用労働者数に対して調査対象の1年間に離職した労働者の割合を示すことになります。
日本全体の産業別の離職率はどうなっているのか?
さて早速産業別の離職率を見てみます。全体の離職率は15%となっており、1%~3%程度の離職率が中心帯となっている大企業とは大きな差があることが分かります。したがって、離職予防の問題を考える上では、離職率をESGの観点で公開しているような大企業と、中小企業が大半を占める日本全体の企業では別世界であるということを念頭において考える必要があります。
離職率を産業別に見ていくと、「宿泊業,飲食サービス業」、「生活関連サービス業,娯楽業」、「 サービス業(他に分類されないもの)」が特に離職率が高いことが分かります。なお、「生活関連サービス業,娯楽業」には理容業、美容業、旅行業、フィットネスクラブ、ゲームセンター等が含まれています。また、「 サービス業(他に分類されないもの)」には産業廃棄物処理業 、警備業、ビルメンテナンス業、職業紹介・労働者派遣業等が含まれています。一方で、「鉱業,採石業,砂利採取業」、「金融業,保険業」は離職率が低いことが分かります。
離職率15%の企業のイメージ
それでは離職率が15%というのはどのような水準なのか、どのような現状なのかイメージしてみましょう。100人規模の企業であれば、1年間に15人程度が離職することになり、同水準の従業員数を維持しようとすると、年間に15人新規採用が必要となります。仮に人材紹介会社経由で平均年収300万で15人採用し、30%紹介手数料を支払いと考えると300万円×15人×30%=1350万円となります。業種にもよりますが、100人規模の企業で売上から費用を除いた利益から1350万円負担するのは大きな負担と言えるでしょう。本来社員の給与や賞与に回せる原資が採用手数料に消えているとも言えます。
100人規模の企業で15人の新入社員が入社した場合、残りの85人が研修や現場でのOJTを実施して戦力化していくことになりますが、平常業務を行いながらであることを考えると十分な研修や指導を行うことは現実に難しい可能性があります。したがって、十分な研修や指導が出来ない→業務がうまく出来ない・やりがいがもてない→離職率が高い→新規採用者が多すぎて十分な研修や指導が出来ない→・・・という悪循環につながっている可能性もあります。
終わりに
今回は厚生労働省の調査を手がかりとして日本全体の離職率を見てみました。大企業と中小企業が多数を占める日本全体の離職率は大きな違いがあることが分かりました。
以 上